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ADAM  作者: 流風 生海
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謹慎開けて(3)

 午後。刀を携えてラボの個室にに立つ。上下、前後、左右。更に斜めと様々な方向から蒔司を取り囲むカメラ達。その焦点は全て中央の蒔司に当てられている。


「カメラ準備いいか?」

 モニタールームで見守る葉月。目の前にはずらりと並んだモニター。全てに蒔司の画像が映っている。

 録画、解析準備OKですと返事が返ってくる。

「よし、蒔司、とりあえず昨日やってみせたあれを基本にやってくれ」

「ハイ」

 二刀を腰に挿し両手を太刀に添える。

 すっと動きが止まる。一枚の写真に切り取ったようだ。

 白地のワイシャツに群青色のスラックス、黒色のスニーカー。ネクタイは外したようだ。

 おまけにベルトの上から腰帯を巻き、差される大太刀小太刀。

 なんとも不思議な格好とも言える。

 だが、剣士としての威圧感だろうか。それに違和感を覚える者はいない。


 次の瞬間、静から動に切り替わる。

 空気を切り裂く音と共に時折パンッという音も混じる。

「何だこの動きは・・・これが人の動きか・・・」

 呆然と画面を見つめるミーシャ。

「ほぇ~・・・私とやった時って相当手加減してたんだ・・・」

 感嘆の声を上げるアンネ。

「パンパン言っているが何の音だ?」

 ミーシャがアンネに尋ねる。

「剣先が音速を超えたのよ・・・私もBBに乗っている時にまれに出ることがあるわ・・・」

「それを生身でいとも簡単に超えてくるか・・・本当に「剣の化け物」だったんだな・・・」

 呟くミーシャ。

「でも・・・」

 困った顔をするアンネ。

「どうした?」

「ここまで速くて細かい動きはペガサスではできないよ・・・アクティブバインダーの位置が邪魔になるし、たぶんアクチュエーターの速度も追いつかない・・・」

 流石はアンネというべきか。しっかりと問題点は見抜いているようだ。


 モニター上では蒔司が連続的に太刀を振るっている。

 時に突き、引いた体を回して片手で太刀を振りぬく。

 時に片手、時に両手。

 太刀は実はかなり重い。いくら模擬刀よりも軽いとは言え、蒔司のまるでプラスチック製のおもちゃの刀を扱うが如き振る舞いは易々とは出来るものではない。


 そして、何より。

 蒔司の動作には「打ち終わり」がない。

 持ち手を変えることで次から次へと斬撃が繰り出されている。

 開始から5分は過ぎたであろうか。

 それでも留まることのない斬撃。

「本気でバケモノだな・・・これほどの動きを・・・」

 ミーシャのつぶやきを葉月が遮る。

「来るぞ。良く見ておけ」

 そして蒔司の動きが二刀流に切り替わる瞬間がやってくる。

 蒔司の体が霞む。

 息を呑み、空気が固化するモニタールーム。

 今までとは格段に違う大きな破裂音。

 そしてフィニッシュ。

 チンッという音と共に刀が鞘に収まる。


 その音が何かの合図であったかのように、再び動き出す室内の空気。

 それを大きく吸うモニタールームの面々。

「参った。参った。もはやフィルマの技前じゃねえ。」

 そう言うと拍手を送るミーシャ。

「アンネ。お前あの二刀流の瞬間見えたか?」

 葉月が聞いてくる。

「すいません・・・よくわかりません・・・」

 沈んだ声で返すアンネ。正直、格の違いに打ちのめされているアンネだった。

「お前でも見えんのか・・・」

 真剣を抜いた蒔司の動きは昨日見た動きよりも更に鋭く速い。

 どうだと横にいる技官に尋ねる。

「あ、はい。再生します」

「スローで頼む」

 みんなで画面を覗き込む。

 そして例の二刀流に切り替わった瞬間をスーパースローで観察する・・・。

「なんてこった・・・」

 呟くミーシャ。

「嘘でしょ、あの瞬間に振り下ろしと切り上げ、更に払って更に突き・・・」

 目を見開くアンネ。

「これは誰にも躱せないし、もちろん誰にも真似できない。こんなのボストックにプログラムされたら中で腕がちぎれるわ」

 そう呟くとふうとため息をつく。

「まるで神様に喧嘩を売ろうっていわんばかりの動きね」

 その言葉を引き出すのが精一杯のアンネであった。


「で、この動きをペガサスで実現できそうか?」

 技官に尋ねる葉月。

「この速度でBBを動かそうって言うんですか?」

 ぎょっとした顔の技官が返す。

「そうだ。そしてこの無駄のない動きも実現できるか?」

 更に尋ねる。

 うーむと腕を組む技官。

「まず、ボディの装甲をかなり薄くしないと・・・特に腕や足の内側を・・・胴体に至っては・・・そのほとんどを無くさないと無理ですね・・・スピードに関しては並列接続のアクチュエーターの半分以上を直列配置に変更する必要がありますね・・・」

「つまり、スピードを出す代わりにパワーがなくなると?」

「え、いいえ、元々ペガサスの設計では最大で肉体筋力の80倍まで出せる設計になっています。ですので、通常の・・・ボストック並の出力に抑えればいけるかと」

「ほう。案外いい返事だな」

「ただし、問題点もあります。一つは駆動時間。この動きでは10分程度しかバッテリーが持ちません。もう一つ。アクティブバインダーを残すとして、その上で仮定しますと、アクティブバインダーの基部の変更が必須でしょう。更に付け加えますと恐らく通常装甲が薄くなりすぎてformlessの槍は貫通するかと思います」

「厳しいな・・・蒔司はスラスターをほとんど使わん。故に熱発電もそれほど期待は出来ん・・・」

 それと、と技官が目配せをする。耳を寄せる葉月。

「整備員から聞きましたが、問題の長い握りの刀二本を拵えて腰に装備となると、「Fモード」にはなれません」

「そうか・・・腰周りのアクティブバインダーの一部と差し替えはできんか?」

「Fモード時に乱流を発生させる可能性が高いです・・・ですが何とか検討はして見ます」


 おーいと呼びかけるミーシャ。ギクッとする技官。

「つまり、やっぱり蒔司のペガサス装着してのこの動きは実用的ではないということか?」

 技官に尋ねるミーシャ。

「い、いえっこれほどまですばらしい動きを我々のせいで封じてしまうのは我々の恥です。装甲素材も含めて一から研究し、必ずやご期待に沿えるよう尽くします!」

 何かに慌てたように答える技官。

「そうか。期待しているぞ」

 そう答えると敬礼を交わし部屋を後にする葉月。

「あのう・・・このビデオ、ダビングしてもらえませんか?」

 と、そっとアンネが尋ねる。

「アンネ、お前でも無理だって」

 ミーシャが言うがアンネは譲らない。

「もちろん、真似はできないよ。でもこの中に私も強くなれるヒントがあるかもしれないわ」

「わかりました。では3Dに加工し直したものを後ほどお届けします」

「ありがとう。お願いしますね」

 そう言ってミーシャに向かう。

「じゃあ、蒔司さんのところに行こう」

 二人はモニタールームを後にする。

 

 

 その頃控え室には蒔司とお茶を振舞う準備をするフェルティ。

「ご苦労様」

「ああ。ありがとう」

「どうだった?」

「いや、別に変わらないよ。一応」

「一応?」

「ブラがずれる」

「そっか、あの動きに衣服の方が付いてこれないのね・・・」

 コップを受け取る蒔司を観察してぎょっとする。両手から血を流し、袖周りもズタズタに裂けている。

「え、うそ。何で?何で?」

 あわてるフェルティ。

「どうして血が・・・切ったの?」

 とりあえずお茶はベンチの横に置いといて、急いで救急ボックスを開き手当を始める。

「「衝撃波」でこうなるんだよ」

「衝撃波?」

「ああ、俺の剣撃は時折音速を超える。その時に発生する衝撃波がこういう風に傷つけるんだ・・・特に二刀流に切り替えての技は手元まで音速の域に達する・・・まあ、いつものことだよ」

「そんな・・・自分の体を傷つけるそんな技ってないよ・・・」

「仕方ないよ・・・こういうものだから・・・俺は慣れているよ」

 素早く蒔司の手当をするフェルティ。幸い傷は深くはなさそうだ。

 やたらとゴツゴツした肌触りの蒔司の手指の甲。度重なる傷で皮膚が厚くなっているのだろうか。

「これからは救急ボックスの携帯は当然だけれど、繕いものの練習もしなきゃね・・・蒔司、シャツ脱いで」

 ああ、と上着を脱ぐ。

 悲惨な形に歪み胸との隙間から肌色の詰め物がかいま見える蒔司のブラジャー。

「ブラからパットがはみ出してるわね・・・」

 形を整えるべくフェルティが手を伸ばす。



 ガチャリと扉があく。

「マッキシ~・・・」

 笑顔で固まるミーシャ。彼女の目線の先には蒔司の胸をワシ掴みにしているフェルティ。そーっと扉が閉じられる。

「どうしたの?」

 不思議そうに尋ねるアンネに悲しそうな、それでいてちょっとバツの悪そうな顔で答えるミーシャ。

「アンネ。俺は見てはいけないものを見てしまったのかもしれん・・・」

「え?」

「フェルが「攻め」で蒔司が「受け」だった・・・」

「何のこと?」

 というアンネの胸をミーシャが同じくワシ掴みにする。

「キャッ」

「フェルーッ!気持ちもわからんではないが、こっちにもっと揉みごたえのある乳もあるぞー!」

 何を言っているんだか・・・。


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