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ADAM  作者: 流風 生海
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蒔司とフェルティ(7)

 内堀まで埋まった気分とはこういうものであろうか・・・少々呆然としているとフェルティが声をかける。

「さ、食べよう。冷めちゃうよ?」

「うん。そうだね」

 向かい合ってお昼を食べる。別に特段味が良いって訳ではない。いつもの食事。だが、人と一緒に食事することがこんなに楽しいとは。

「こういうのも良いね。なんかアットホームな感じでさ」つい口に出る。

「うん。今まで蒔司って訓練以外部屋に閉じこもりっきりだったじゃない?だから一層そう思うのね」

 みんなと一緒だともっと楽しいよとフェルティが続ける。


 何かミーシャあたりにおもちゃにされそうな気もするが、それも一つの選択肢には入れておこう。

 その後、実はミーシャはどうだとか、アンネはこうで葉月はこんなだとか色んな話が話題に上る。

 時折笑いの混ざったとめどないおしゃべり。

 ケーキも1/4づつ食べて後は明日にしようとなる。

「お茶のお代わりいかが?」

「うん。」

 たおやかな手つきでお茶を注いでいくフェルティ。汚さないようにかロングヘアをお団子状にまとめている。うなじが妙に色っぽい。

「そう言えば葉月はシルバーヘアだよね。でフェルは濃いめのブロンド。どうして?」

「産んでくれたお母さんは一緒だけれど、私たちは遺伝子上のつながりはないの。」

 ぽそっとつぶやくフェルティ。顔を伏せたままだ。

「それに、姉さまはフィルマだから肉体年齢から言うともう壮年期に入っているの。要するに白髪よね」

「ん?」

 意味の分からない蒔司。

 だが、続いて発せられるフェルティの重大な言葉。

「BBをコントロールしていくためには遺伝子レベルで強化、反応を加速させる必要があるの。BB要員、つまりフィルマは倍の速度で成長し、老いていくわ」

「おい、ちょっと待って。ってことは・・・」

 驚きを隠せない蒔司。

「うん。長生きできても60代」

 ようやく上げたフェルティの顔。そこには何かを悟ったかのような、優しい寂しさの混じった顔があった。

「私が知っている範囲ではそこまで生きたフィルマはいないの」

 淡々と口にする残酷な事実。

「私たちはフィルマと共に生きることはできても、共に老い共に死んでいくことはできない。それがこの世界の理」

「そんなのって・・・」

 思わず湧いた、何かしらわからない、自分でも理解できない感情に反論しようとする蒔司の言葉を遮る。

「仕方ないのよ・・・みんなも分かっているの・・・自分達ヴィジリアンが生き残るためだけに生み出した人たち・・・生まれた時からBB戦闘員として育てられ、ヴィジリアンの代わりに死んでいく・・・皆、ミーシャさんもアンネさんも、もちろん姉さまだってそれを納得して使命を全うするの・・・自分の存在意義はみんな理解しているの」

 そこまで言われるともう何も言えない。

 蒔司は腹の中にある『何か」を飲み込む。


 何かが引っかかる気がする蒔司。

 ん?と脳内が一巡して、ふと気付く。

「じゃあ、何故俺がペガサスに乗れるんだ?」


 ちょっと難しいような顔をしながらフェルティが口を開く。

「蒔司の身体能力は、ずば抜けているわ。ノーマルじゃありえない位。多分、その、子供の頃からの修行の成果なんでしょうね・・・もちろん、最初の頃は反応速度とか、わざと鈍くしてたみたい。慣れるようにって。でも、昨日は普通の能力、いいえ、それ以上の反応が出せるレベルまで上げているみたいに見えたわ。でなければアンネさんの動きについて行ける訳がないもの・・・。でも、結局それは体さばきの部分。さすがにスラスターとか、銃器とか、そういう部分は修行していないでしょ?だから極端に得意不得意が出るんだろうと思うわ」

 その言葉から、どうやら、昨日のペガサスのセッティング変更が結果としてデータに残っているということを察する。

 しかし。

「確かに。スラスターとか、思った方角には動くんだけれど、止まろうと思った時にはもう行き過ぎてる。そうかと思えば予想よりも全然飛んでなかったりね」

 それは正直な蒔司の言葉である。スラスター制御が苦手なのは間違いない。

「そこは・・・やっぱり慣れも大事なんだと思うわ。蒔司の反射速度はずば抜けてる。それは昨日のデータでも証明されてるわ。多分、コツみたいなものがあるんじゃないかしら」

 腕を組む蒔司。

「コツねぇ・・・」

「スラスターって確か、点火の直後ちょっと出力が下がるって聞いたことあるわ・・・まあ、私はそっちの方は詳しくないのでよくわかんないけれど・・・ペガサスのコンセプトが高機動とハイレベルな防御を両立させた機体だって事は聞いたけれどね。あんまり深くは聞いてないの」

「その割には武器が貧弱だよね。専用の刀とライフル。しかも両腕に内蔵だから替えもない。弾数も少ないし・・・。」



 ふと思ったことが口に出る蒔司。

 ぼそっと呟く。

「まるで、とにかく突っ込んで斬りまくる。そういう使い方を想定しているみたいだ」

 その言葉にどきりとするフェルティ。蒔司の言葉はペガサスの開発コンセプトである「特攻」を見抜いたようにも見えた。

「え、えっと、指揮官機だからじゃない。元々姉さまが乗る予定だったし」

 上手いこと話に逃げ道が見つからないフェルティ。

「つまり、防御、回避重視の機体で、いざとなったら逃げろと?葉月はそんな奴じゃないだろう。ま、ボストックのカメラとリンクできたりとか、確かに指揮官機らしい特徴もあるとは思うけれどね」

 答えつつも、蒔司は何か引っかかるものを感じる。

 そして、思い切って言葉を繋げる。

「俺の世界では、最前線に立つのは男の役目。そうやって育ってきたし、それを間違いだとも思わない。そりゃ、「ヴィジリアンの事情」ってのもわかるよ。俺を死なせる事は出来ないってのも。でも、だからと言って、皆んなの影に隠れるよな真似はできないよ」

「でも!それじゃあ・・・」

 途中で途切れた言葉の後に、何かを言いたい。けれども言えない。フェルティの表情からはそんな雰囲気が伝わってくる。

 今、つい口走ったことを瞬時に後悔する蒔司。

「みんなに生き残って欲しい・・・」かろうじてそえだけを口にするフェルティ。

 気まずい沈黙が二人を包みこんだ。

 


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