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ADAM  作者: 流風 生海
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蒔司とフェルティ(6)

 顔を洗いユニットバスルームから出ると部屋の明かりがうっすらと落ちている。

 部屋の中で一番広い壁。そこから光が漏れているようだ。

 壁に向いて軽く息を呑む。

 そこには壁一面の画像。

 抜けるような青い空。豊かな緑、上部が冠雪し、どんとそびえる山々。そして鏡のような湖の水面が反射で山々を逆さに映し出す。雄大な自然の画像がそこにはあった。

 どこからか鳥の鳴く声も聞こえてくる。



画面を見つめたままのフェルティから話しかけられる。

「綺麗よね。蒔司はこの時代の人なのよね・・・」

 フェルティの横に腰掛け、画像を見つめる。

「ああ」短く答える。

 フェルティの言葉はこの世界にはこの風景は存在しないことを告げている。

 だが、そんなことも気にせず、ただ画面を食い入るように見つめている蒔司。

 フェルティがふと見上げると蒔司の頬を流れる涙に気付く。蒔司は気づいていないようだ。

 そっとハンカチで蒔司の頬を拭く。

「消そうか」

 そうフェルティから告げられるが断る。

「いや。もう少しこのままでいよう」

「そう・・・」

 フェルティは拭くのを止め、手を重ね、そっと頭を蒔司の肩に預ける。


 ふと思う蒔司。

 この数月殺伐として、心をヤスリで削られるような日々が続いていた。こんなに楽しく心温まる時間をくれたフェルに感謝しなきゃな。

 隣がおとなしい。見るとフェルティがすうすうと寝息を立てている。

 上着をかけ、再びフェルティの手に自分の手を重ねそっと握る。ありがとうとつぶやく。


 優しい時間が過ぎていく。


 ブーっとブザーが時間の終りを告げる。そうか。昼食か。


「ん?あれ?私寝ちゃった?」

「ああ、良く寝てたよ。今お昼が届いたところ。お腹すいたね」

 そう言うと配膳ボックスに向かう。

 そこには手をつけていない朝食一膳となぜが昼食が二膳そして、更に不可解なことにケーキが。誰の差し金だ?

 とりあえず、テーブルに運ぶ。

「あら、ケーキ!それも丸ごと!」

 はしゃぐフェルティ。全く女性はとことん甘いものに目がないらしい。

 ケーキに添えられたカードに気づき開いてみる

「フェルティさんを幸せにしてあげてください」そうカードには書いてある。差出人の名はない。一体どこまで広がっているんだ?この話は・・・。

 最早開き直るしかない事をそのカードは告げていた。

 追い打ちをかけるように内線のコールが鳴る。

 フェルティが勝手に出る。お、おいちょっと待てと言いかけるが時すでに遅し。

「オイ、アダム~・・・」

 そこには目を見開き口をつぐむミーシャとアンネがいた。

「アダム・・・上を着てくれ」

 ミーシャがやれやれと続ける。

 そう。今の蒔司は上半身裸に真紅のブラジャー。そして横には蒔司の上着を羽織るフェルティ。

「おい、いくらなんでも真昼間からサカルな!」

「あ、いや、その・・・」

「謝ろうと思ったが気が変わった・・・オイ、アダム!うちの基地のマスコットレディーに手をつけたんだ!覚悟しろよ!」

 言い放つミーシャ。

「わ、私は応援しているからねー」

 横で引きつった笑顔のアンネ。


 とりあえずフェルティから上着を受け取り羽織る。

「お、お邪魔しました~」

 とアンネが切ろうとする。

「あ、待って」

 フェルティが遮る。

「はい?」

 とアンネ。

「ケーキありがとうねっ」

「ケーキ?」

 変な顔をするアンネとミーシャ。フェルティが見やすいようにケーキを差し出す。

「そんなもん俺らが送るか!」

 とはミーシャの弁。

「え?」

「フェル殿はファンが多いからな~。多分、厨房の誰かだろう」

 ミーシャが続ける。

 はあ、と思わずため息をつく蒔司。

「オイ、アダム!いいか、責任重大だからな!」

 そう言ってミーシャが続ける。

「だから、ちゃんと守ろうな。一緒に」

 一転して急にに穏やかな顔をするミーシャ。

「あ、ああ」

「俺たちは戦士だ。いつ死ぬかもわからん。しかし・・・」

 一旦言葉を区切るミーシャ。

「お前は生きろ」

 唐突な言葉。小さくつぶやくような、しかし、何かしらの意思を感じるセリフだった。

「可能な限り生き抜いて、そしてフェルの笑顔を守れ。いいか、フェルを泣かすな・・・フェルティの泣き顔までは見たくない・・・」

 最後はか細くなっていく声だった。蒔司はその言葉の底にある何かを感じる。

「それはそうとして」

 アンネが後を引き受ける。

「アダムさん、昨日はごめんなさい。私怒らせちゃったのよね」

 頭を下げるアンネ。一緒にぺこりとミーシャも下げる。

「あ、いや、こちらこそ・・・ごめん怪我させちゃって」

 深くは言えない。ただ頭を下げる。

「ま、昨日のオレの動機が不純だったことは認める。お前のウデも認める・・・だが・・・」

 ミーシャの話す言葉には勢いがない。

「いいのよ。私はなるべくしてこうなったんだから」アンネがミーシャを諭すように言葉をかける。

「トップアタッカーは常に怪我や死と隣り合わせ。それを再確認できただけでも良かったよ。アダムさん、最後まで本気で当たってくれてありがとう。そして、それでも命を残してくれてありがとう」

 改めて蒔司に向かってゆっくりと言葉を話すアンネ。

「す」

 すまないと口に仕掛けたところでフェルティに袖を引かれる。見ると静かに首を横に振っている。そうか・・・そうだな。

「これからは一緒に頑張ろう」

 そう言葉を改める。

 うんと頷くアンネとミーシャ。


「でもよ。これからは俺らの後ろに付くんだろう?だったらもっと銃の腕磨けよっ!」

 ニヤリとするミーシャ。こいつも表情がよく変わる奴だ。

「謹慎あけたら今度こそみっちり鍛えてやるからな」

「お手柔らかに頼むよ」

「そうは行くかっ俺らのバックを任せるんだ。俺の納得のいくレベルまで仕込んでやる」

 ミーシャのバック?そう不思議に思いつつも頷き返す。わかったと答える。

「しっかし、ホントに胸ねーなお前は。アンネ、ニックネーム「当たりだ」な!」

「ニックネーム?」

 知ってる?という目線をフェルティに投げるがキョトンとして首をふるふるする。こちらも知らない模様。

 画面に目をやるとそのタイミングで声が飛んでくる。

「ペッチャパイ!」

 続いて届けられる賑やかな笑い声。

 ペ、ペチャパイ・・・言葉を失う。横でプッと吹き出すフェルティ。


「しっかしアツイねー目線を交わしたりしちゃってさ!こうなりゃ俺もアンネを襲ってみるかな」

 笑顔のミーシャ。どことなく豪快だ。

「いやーん」と答えるアンネ。

 なんだか訳のわからない世界になってきた・・・。

「さてと、いつまでもお邪魔しちゃ悪いからここらへんで切るぜ。俺たちがなけなしの小遣いで送った「ビッグなプレゼント」がそのうち届く。ケーキなんか目じゃねえビッグなやつだ。大事に使えよ・・・ほどほどにな」

 ニヤリ顔でミーシャがいう。

「あ、ああ。ありがとう」

「ほ、ほどほどに頑張ってね~」

 と何かしら妙な笑顔のアンネ。

 バイバイと手を振って画面が消える。


「ね、みんな明るくて楽しいでしょ?」

 フェルティがほらねという顔をする。

 


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