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ADAM  作者: 流風 生海
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蒔司とフェルティ(4)

 壁に振っていた手を下ろし、はあとため息をつくフェルティ。



 まいったなぁとつぶやくが不思議と困ってはいない。むしろアンネの笑顔や葉月の「責任を取らせる」という言葉は心地よく心に伝わる。

 何より、今、この空間が心地よい。

 蒔司の寝顔を見て思う。こんなアダムの表情が見れるのは自分だけだと。

「ま、うん。これでいいのよね」


 遅刻する旨報告しようとナースセンターに連絡を入れると、すでに葉月の方から「3日間の特務隊勤務により欠席」と連絡が入っていたことを知る。


 

 何か根回しが良すぎる・・・そう思うがこれも悪い気はしない。


 一旦着替えると自室に戻り、動きやすい服装に直す。

 カバンに着替えと大掃除用の道具を詰め込み再び蒔司の部屋へ向かう。


 扉を開け、拝借していたカードキーを机の上に置くとシャツやスラックスの裾をまくりあげ、両手を腰に当ててベッドに向かって大きく一言。


「おっきろー!」


 ガバっと飛び起きる蒔司を見て一言。


「アダムさん。そんなに寝てばっかりだと目が無くなっちゃいますよ?」

 訳のわからないことを言う。


「あのね。子供じゃないんだからそんな言葉が通じるわけないでしょ」

 ふぁあとあくびで答える蒔司。

「いいから着替える!」

「はいはい」

 と言ってバスローブを脱ごうとして手を止める。んーっと、まず、俺は下着を着ていない。もひとつ、今の俺は「朝のオレ」だ。

「あのさ、着替えるまで向こうを向いててくれない?」

「え?」

「あ、いや、さ、朝の男は何かと大変というか・・・生理的に」

 朝の男?意味がわからないフェルティ。医学書に何か載ってたっけ?

 と、ふと、初めて出会って、「お世話」していた時を思い出す。

「あ、あれ・・・!」

 ようやく気付き顔を赤くして後ろを向くフェルティ。

「ご、ごめんなさい。一旦お部屋出るね」

 パタンと扉が閉じるとそそくさと着替える蒔司。


 再び扉を開けるとそこに居るのはいつもの元気なフェルティだ。

「フェルティさん。ホントいつも元気だよね」

「フェルでいいわよ。言いにくいでしょ?」

「あ、まあ。」

 言葉を続ける「フェルさん昨夜はありがとう」

「だからフェルでいいって」

「え、あ、呼び捨て?・・・いや、そこまでは失礼でしょう?」

 そう告げる。

「気にしなくていいのに」

 そう言いつつもフェルティは部屋に入ってくる。


 蒔司に向き直りフェルティの一言。

「さ、お掃除しましょっ!」

 明るい元気な声だ。

「掃除?」

「そ、自室謹慎中なんだから他にやること無いじゃない」

「そもそも、この所まともに掃除できていないでしょう?」

 さらに続ける。

「だから、今日は大掃除の日なのです!」

 ニコリと笑顔で締めくくる。


 こうして「大掃除」が始まった。

 フフーンと何やら鼻歌らしきものを歌いながら風呂場を磨くフェルティ。正直、歌は上手くはなさそうだ。

 蒔司は壁を拭いている。そうだ。この部屋には窓がない。いつの間にかそんなことも気にしなくなっていた。

「フェルさーん」

「なーに?」

「フェルさんの部屋には窓があるんですか?」

「無いわよ~」

「皆そうなんですか?」

「えーっと、一般居住区にはあるわよ」

「一般居住区?」

「そう。この基地は私たち軍関係者のブロック、「基地エリア」と普通の人が生活しているブロック「コロニー」に分かれているの」

「何で基地に一般の方を置くんですか?危なくありません?」

「んーとね。この世界はみんなコロニーと呼ばれるシェルターで生活しているの。軍隊はそれ守る施設って言った方がいいのかしら?」

「つまり住民を守るために基地を併設していると?」

「うーん。例えば私たちが口にする食料は基本的にそのコロニーで作られたものなの。つまり、コロニーも軍施設もセットなのよ。だから万が一ほかのコロニーが無くなったとしても、自立して運営できるってわけ」

「「万が一の時は自分たちだけでも生き残る」それが私たちヴィジリアンの使命だから」

 からりとした声で怖いことを言うフェルティ。

「厳しいんですね」

「私には貴方が生きてきた世界はわからないから比べられないよ。でも、これが私たちの時代だから。自分の生きている世界を否定しても意味がないでしょう?」

「俺はこの世界を否定してきました」

「これから変えればいいじゃない。ううん貴方がいることでこの世界も変わるわ。一緒にみんなが好きな世界に変わっていこうね」

 本当に優しいなフェルティさんは。


 風呂場から出てきたフェルティは今度は流しや電気コンロを磨いている。

 俺ももうしばらくで壁を拭き終わりそうだ。しかし、こんなに広かったんだなこの部屋は。


「壁終わりそう?」

「うん」

「じゃあ終わったらお茶にしようね」

 うむ。こういう時の女性の手際の良さには敵わない。既に簡易キッチンを片付け終わり、お湯を沸かしている。


 自分の当面の課題である「壁」を退治すると、既にテーブルの上にはティーセットが並んでいた。


「はい。ご苦労様でした。手を洗ってきてね」

 微笑みをもらって流しに向かう。

 ソファに座るのを待ってから紅茶が注がれる。

「やっぱり、背が高いと便利よね。私なんて壁掃除はもう大変」

「俺は逆に風呂場とか狭いところは苦手です」

「あら、じゃあいいコンビね」

 フフフと笑うフェルティ。

 つられてこちらも笑顔が出る。

「あら、そういう顔で笑うんだ~カッワイイ~」

「あ、そっか俺今まで」

「うん、この世界で初めての笑顔だよ。ホントのね」

 それはそうなのだ。今、この場に「作られたアダムの表情」は必要ない。

 純粋に二人の時間を楽しんでいる。だからこそ溢れた蒔司の微笑だった。



 不意に、ガチャりと扉が開く。

「ロックもせずに無用心だな」

 ぶすっとした顔の葉月が顔を覗かせる。

 びくっとする蒔司、キョトンとみつめるフェルティ。

「しかし、いい待遇の自室謹慎だな?」

 部屋に入り込みじっと蒔司を見つめる葉月。

「あ、すいません」

 思わず頭を下げてしまう。

「ふむ。効果はてきめんか」

 今度はフェルティに視線を渡す。

「ハィッ!」

 元気良くフェルティが答える。

「ふむ。まあ、結果オーライということで良しとするか」

 そう言いつつも再び蒔司を睨む。

「アダム、いや蒔司!責任は取れよ。それと!まだ私を姉と呼ぶことは許さん!良いな!」

 そう言うと袋をずいっと突き出す。

 剣幕に押されながらも受け取る。

「次からこれを身に付けろ。命令だ。良いな」

 なんだろう?葉月の目がおかしい。怒ってはいない、いや、むしろ笑っている?

「なーにそれ?」

 フェルティが蒔司から横取りすると袋を開く。そこには色とりどりのブラジャーと何かしら詰め物のようなもの。

「お姉ちゃん!」

 思わず声を上げるフェルティ。

「正体をバレにくくするための物だ。仕方あるまい」

 葉月の目尻が思いっきり下がっている。

 くるりと背中を向ける葉月。背中が小刻みに震えている。

「アダム、もうちょっとシャキッとしろ!それではどちらが主かわからんぞ」


「いいか必ず着けろ。これは命令だからな」

 何かをこらえるような声で言い残すと葉月は去っていった。


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