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ADAM  作者: 流風 生海
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たたかい。(5)


 部屋に戻りインナースーツを脱ぐ。じっとりと汗をかいている。空気が冷たい。

 ランドリーボックスにスーツを放り込むとシャワーを浴び、湯船に浸かる。

 葉月の言葉を反芻する。

 はっきり言って今の蒔司には救いがない。

「千文・・・もう会えないのかよ・・・」

 口からほろりとこぼれる。

 いや、それはなんとなく理解していたことだ。

 あの何かに引き裂かれた飛行機。あの機体で無事に着陸できたのであろうか・・・普通に考えれば非常に厳しいのかもしれない。

 考えたくないことだ。今までそのことには目を背けてきた。

 だが、もうそういう事態じゃない。

 自分の気持ちに整理をつけなければ・・・。

        

 千文・・・。

        

 家族やクラスメイト。

 いろんな顔が脳裏をよぎる。

 ザブリと湯船のお湯をかぶる。

 不思議と涙は出てこない。

 続けてかぶる。

 顔が歪む。

 水面に拳を叩きつける。

 一発、二発と勢い良く、しかし虚しさのこもった水しぶきが辺りを濡らす。

 俺の代わりに泣いてくれ。

       

 チャイムが鳴る。無意識に手が回線を開く。

 涙を流す壁が突如モニターに変わる。

「あ、お風呂だったんだ。ごめん」

 何がしか作り笑いで画面に写ったフェルティが慌てて顔を背ける。

「ああ、今上がるから少し待っててくれ」

 ざぶりと立ち上がるとバスローブに手を通す。

 そのまま扉を開けてフェルティを招き入れる。

 フェルティが驚く。

「なぁに。頭も拭かないで。びしょびしょじゃない」

 ソファーに蒔司を座らせ、パタパタとバスルームからタオルとドライヤーを持ってくる。

        

 腰掛け、下を向いた格好の蒔司。

 ただ、うつむき、その目線の前に何があるのかさえもわからない。

 ポタポタと垂れる雫が、ただ、ただ髪の毛からバスローブへと移動していく。

        

 なんだろう?ここにいる蒔司は。

 異常なまでに抜け殻感のあるその空気を感じるフェルティ。

 とりあえずあくまで普通を装うことにする。

         

 タオルで水滴を吸い取りながらフェルティが口にする。

「まさか、あんな結果になるとはね・・・。本当に素人じゃなかったんだ・・・」

 そう言いつつ、持ち替えたドライヤーでコツンと蒔司の頭を小突く。

「でも、チームメイトに大怪我させちゃダメじゃない。アンネさん鎖骨と上部肋骨骨折の重傷よ」

「そうか。すまない」

 さらにコツンと小突く。

「心がこもってない」

 そういうフェルティ。だが口様は穏やかだ。

「昨日からどうしちゃったの?雰囲気おかしいよ?」

 さらに問うフェルティ。

        

「俺は・・・俺は孤独・・・なんだよな・・・」

 しばしの沈黙の後、蒔司の口からようやく呟く言葉がこぼれる。

        

 その蒔司の言葉にはっと気づくフェルティ。

 無言の葉月との打ち合い。その最中に何が話されたのか察する。

「そうか・・・姉さまから聞いたんだね」

 そっとドライヤーを置き、横に座って手を取り、しっかりと握る。

 横に座ると座高の差から自然と蒔司の顔を下から覗き込む形になる。

 言葉には表しきれない思いを表情に託しゆっくりとフェルティが口にする。

「貴方は私たちが守る。この世界にいるすべてのヴィジリアンの・・・皆んなの希望だから・・・」

「俺はこの世界と何のつながりもない・・・」

 うつむいた蒔司の顔が歪んでいくのにフェルティは気づく。

         

 半ば本能的に、すっと両手で蒔司の頭を抱き、胸に抱え込むフェルティ。

「言わなくていいよ。もう・・・」

 豊かなフェルティの胸ごしにトクントクンと鼓動が聞こえる。

 蒔司の頬をするりと流れ、鼻をを伝わってぽつりぽつりとフェルティのスカートに零れる雫。

 ゆっくりと抱く力をこめてくるフェルティ。

「ウクッッ、アッツ・・・アッッ・・・」

 声にならない声をあげて嗚咽を始めた蒔司を優しく、けれどもしっかりと抱きしめてくれる。

「今は独りぼっちなのかもしれない・・・でも・・これからは私たちがいるよ・・・ずっと一緒に・・・だけど・・・今は、好きなだけ泣いて・・・」

       

 悲しみが産み出す激しい嗚咽とそれを包み込む暖かな抱擁はしばらくの時を求めていた。


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