たたかい。(4)
「さて、何から話そうか」
腕を振り抜きながら葉月が問う。
「まず、ここのことを話せ」
かわしながら答える。
「ここはNUN、つまり新国連のジャパンエリア南九州連隊に所属する枕崎基地だ」
「何だそれは?」
「先に話したほうがよいか。以前、我々はとある試作兵器の実験をしていた。そこに突如現れたのがお前だ」
「・・・」
「我々も困惑した。しかもとてつもない秘密をお前は持っていた」
何かを含むような葉月の声。
「何だ秘密ってのは?」
「お前が男であるということだ!」
半ば叫ぶような声と共に振り下ろした剣をペガサスが受け止める。
「・・・どういう意味だ?・・・」
ギリリと奥歯を噛み締めるように力を込めながら蒔司が再び問う。
「我々は「ヴィジリアン」という新人類だ。我々の中に男性はいない!」
つばぜり合いの状況になる。
言葉を失う蒔司。
「男性とは今から数百年前、年号がE.C.に変わった時に滅んだはずなのだ。」
力が抜けそうになるのを必死で押さえる。
「眠っているお前を分析させてもらった。お前はMKウィルスにも感染していなかった」
ショックで混乱しながらもかろうじて言葉にする。
「お前達は人間ではないのか?」
「遺伝子上は人間だった時の女性と何ら変わりはない。違うのは繁殖行動が「卵子結合」という事」
「「卵子結合」?確かにそれでは男は必要ない。それで女しかいないというのか」
「必要ないのではない!猛威を振るったMKウィルスによってすべての男性が死にゆく中で、それしか我々が命を繋いでゆく方法はなかったのだ!」
混乱する思考の中、かろうじて葉月の大剣を押し戻す。
お互いに剣を押しあって、つばぜり合いから一転距離を保つ。
「それでは俺のアダムって呼び名は・・・」
「そうだ。お前は我々ヴィジリアンが「人類に戻る為の唯一の希望」なのだよ」
「それじゃあ俺はつまり・・・どうしてここに・・・」
「推測の域を出ないが、いわゆるタイムスリップしてきたのだろう」
それは葉月の口からこぼれた決定打だった。
あまりにもあっけなく、蒔司の意識に空白が生じる。
その時を狙ったのか、葉月の大剣が模擬刀を叩き落とす。
ギンッという刃が交わる音。そしてズサッツと音を立ててペガサスから打ち落とされた刀が地面に突き刺さる。
「だからお前を我々は殺せないし、またあのスライムたちの餌にするわけにもいかない」
刃を目の前に突き出し、葉月が続ける。
「今までの訓練は「いざという時お前が自分を守れるように」という意味での訓練だ」
「そんなに危険なのかこの世界は」
言葉を搾り出す蒔司。
「ああ、私だって好きでこんな体になった訳ではない。やつらに溶かされ食われたのだよ」
「あんたでさえも食われるのか」
「ああ、だから解放はありえない。万が一お前が胴体を食われたら、生き残っても我々ヴィジリアンとしては意味がないのだよ」
呆然と立つ蒔司に追い打ちをかける。
「基地の外の空気にはまだまだMKウィルスがいる。ここは空気は濾過されているから平気だが、お前が外に出てヘルメットを外したらそれはすなわち死ぬということだ」
心が折れた。思わず膝をつく。
「ちなみに、お前の秘密を知っているのは研究チームの一部と基地司令、フェルティ、そして私だけだ」
構えをとき、言葉を投げつける葉月。
「この星はもうお前が知っている星じゃない。同じ地球だがな。無理して外に出て、更に傷つく必要もあるまい」
秘密は守れよと言葉を残し、プツッっと回線が切れた。
葉月はモニタールームに向き直ると訓練終了を指示した。同時に医療班を要請する。
ミーシャのボストックが自動的に再起動する。すくっと立ち上がると真っ先にアンネの元に走り寄る。
「アンネ!っしっかりしろっ!」
アンネのボストックはピクリともしない。スラスターは黒く焦げて膨れ上がり、左腕のシールドには穴が開き、左足は歪んで折れ曲がり、首元の装甲は大きく凹んでいる。
ヘルメットを外す。くたりとアンネの頭が垂れ下がり慌ててミーシャが支えるが、アンネの目は開かない。結ってあった赤茶色の髪が解け地面に流れるように広がる。赤金色の滝のようである。
「医療班を呼べ!」
ミーシャが叫ぶ。
「もう呼んでいる」
葉月が声をかける。
ミーシャが蒔司を睨みつけている、そういう視線をヘルメット越しに感じるが、動けない蒔司。
「アダム!ここまでやる必要があるんか!」
怒鳴るミーシャ。
ミーシャの肩に手を置き葉月が言葉をかける。
「アダムには私からキツく言ってある。アダムはどうも頭に血が登るとバーサークするところがあるようだ。見ろ。今のアダムは、もういつものアダムだ」
「アダム!撤収しろ!3日間の自室謹慎!いいな!」
敢えてキツイ言い方で葉月が命令を出す。
つまり、3日間は休んでいいということか。味な気遣いをしてくれる。
最早方策尽き、為す術もなくなった蒔司。
やけに重く感じるペガサスを引きずるようにゆっくり立ち上がるとハンガールームへと向かった。
重い足取りでハンガーにペガサスをロックさせる。
パシューッという音と共に関節位置固定のロックが外れ、バックパックから大きく口が開きヘルメットのロックもフリーになる。
セミの脱皮のようにペガサスを脱ぐ。
「お疲れさまでした」
とは整備員の声。
「ありがとう」
とりあえず返す。
「どうですかペガサスは?」
重ねて聞いてくる。
「いい機体だよ」
もうそれ以上は話したくない。
「ゆっくり休んでくださいね」
整備員の言葉に見送られてふらふらと自室へと向かう。
廊下には人影が一つ。壮年から老年への入り口にさしかかろうかという女性。
「何を話しておった?」
低い声で訪ねてくる。この声は・・・そうだ、最初に俺が医療室で聞いた声だ。
答えない。無視して横を通り過ぎる。
「不便を感じるじゃろうが、申し訳ないがもうしばらくこの現状に付き合って欲しい」
そう言葉を残し蒔司とは反対のほうへ歩を進めていった。




