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海に堕ちた太陽 【蒼碧の鎖-4-】  作者: 沖津 奏
第2章 泡沫の末路
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07 波打ち際の噂話

 かのイギリス海軍ローランド大将が、スペイン海軍のカニバーリェス卿に敗れた、という噂は、なぜか瞬く間に広まった。カニバーリェス卿がスペインへ帰った時には、国中が知っていた。もちろん海賊の間でもその話題ばかりで、当然、フランスにいたシアーズの耳にも入った。彼が聞いたのは酒場でだった。飲んだくれてべろべろになった海賊が話していたのが聞こえたのだ。

 別に誰も心配などしているわけではない。いいざまだ、と笑い合っているのだ。いつも追われる立場であるが故に、天罰だと喚き散らす者もいた。誰もが歓迎していた。心から喜んでいた。それほど彼の名は世界に轟き、海軍の象徴でもあった。

 だが、シアーズは素直に喜べなかった。確かにローランド卿が海から消えれば、安心して航海できるし、密貿易だってやりやすくなる。だけど。


「キャプテン、本当なんでしょうか……あのローランドが敗れたなんて!」

 酒場から船に戻った後、クルーが興奮して言った。シアーズは明らかに動揺していたが、わざと落ち着いたフリをして言った。

「火の無い所に煙は立たないっていうし……あいつは強いから、いつもならカニバーリェスなんかにやられるような奴じゃあない。でも、ここ最近、本国で海賊が頻出していて、ローランドはそれの対応に走り回ってたって聞いた。……あいつは昔っからなんでも一人で解決しようとする癖がある。悪い癖だ。親族内でもいろいろ揉めてたっていうし、今回は万全ではなかったんだろう。っていうか、なんであの二人が戦ったんだ?昔からライバル関係だっていうのは知ってたけど、こんな戦う程対立してはいなかったはずだぞ」

 クルーの一人がおそるおそる口を開いた。

「あのー、それなんですが……以前何度かローランドとキャプテンが戦った時、キャプテンはよく、スペインのロン島付近に誘いこんで、領海をローランドが越せないのを利用して逃げてましたよね?」

「ああ……それが?」

 嫌な予感がしたが、シアーズはあえてとぼけたふりをして聞いた。胸がどきどきする。変な汗をかいていないだろうか。

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