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海に堕ちた太陽 【蒼碧の鎖-4-】  作者: 沖津 奏
第4章 終わりの始まり
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41 朽ちた鳥籠

「お前もか」

「え?」

 よく分からない問いに、シアーズは間抜けな声で聞き返した。

「お前、父さんと仕事したことあるんだろ。なのに、お前も父さんのこと悪く言うのか」

 少年が涙目になった。シアーズはふっと微笑んだ。そういうことか。

「俺達海賊にとっちゃ、あいつはそういう存在なんだよ」

 そして、急に真剣な目つきになった。

「でもな、お前がローランドの息子なら覚えとけ。あいつは誰かに分かってもらおうとも、良く言われようとも思ってない。例えそれが息子でもだ。……でも、俺にとっては良い奴だった。あんな奴、どこを探したって見つからないね」

 少年は驚きを隠せないようだった。そして、急に泣き始めた。シアーズは焦った。

「なっ、何だよ急に!笑ったり泣いたり忙しいやつだな!」

 少年はシャツの袖で乱暴に涙を拭った。

「うるさい!……今、父さんはどこにいるの?」

「え?」

「海賊なら、そういうの知ってるんじゃないの?」

 そうか、この子はまだ知らないのか。死んでしまったことを。それも、ついさっき。

「父さんは位が高くて忙しいから……イギリスにいることは少ないんだって。だから、イギリスに帰ってきても、俺の所に会いに来てくれる時間なんてないんだって。きっと今もどこかで戦ってるんだ」

「……会いたいのか?」

 聞いてどうなる。シアーズは己を嘲った。

「違う。もし、父さんに会ったら伝えて。俺、父さんが帰って来るの待ってるって。帰ったら、今度はちゃんといっぱいお話しようって。俺だって、寂しくないわけじゃないんだ」

 シアーズは目頭が熱くなるのを感じた。少年が不思議そうに見ている。

「どうしたんだ?」

「いや何でもない。それより、お前、名前は?」

「え?」

 少年が不審そうな顔をする。

「お前の名前。何ていうんだ」

「ああ、俺の……」

 少年は少し誇らしそうな顔をした。

「アートだよ。アート=フロスト」

 シアーズは時間が止まったかのような錯覚に陥った。いや、それよりも地面が揺れている気がする。いろんな思いが体中を駆け巡る。息苦しい。

「それ……誰が……」

 少年は胸をはって答えた。

「父さんだよ。この名前は父さんがくれたんだ」

 シアーズは涙を流した。ウィル、お前、ホントに馬鹿だよ。

 シアーズは屈んで少年を抱きしめた。

「なっ、何すんだよお前!放せよ、男のくせに!気持ち悪いだろ!」

 少年は照れてじたばたと暴れた。この分じゃあ、誰かにこんなふうにされたこともないんだろう。ましてや父親になど。しばらくすると、少年は暴れるのをやめ、されるがままになっていたが、再び静かに泣きだした。

「父上……」

 少年が声を絞り出す。しゃくりあげながら、体中を震わせながら、それでも声を抑えようと努力しているようだ。さっきまで父さんは、あんたは、と生意気に喋っていた子どもはどこかへ行ってしまった。シアーズはふと、ローランド卿が死ぬ間際に言った一言を思い出した。

『……アート……俺の――』

 何が言いたかったんだ。こいつのことか。俺のことか。それとも、両方なのか―?なんで俺と同じ名前をこいつに与えた……!

 今になって疑問に思う。なぜ、味方以外の者には容赦なかったあいつが、自分を仕留められなかったのか。いや、仕留めなかったのか。


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