表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海に堕ちた太陽 【蒼碧の鎖-4-】  作者: 沖津 奏
第3章 開いた扉
23/44

23 見えないふりで

 海の上ではイギリスの船が燃え上がり、沈んでいく。あとには黒煙しか残らない。風が煙を運ぶ。この煙に紛れて消えた兵は一体何人いるのか。名前も知らない。顔も分からない。最期の叫びすら届かなかった。シアーズは思わず目を伏せた。

 ローランド卿はまだ暴れている。

「どけ、貴様らあとでぶったぎってやる!お前らには良心てものがないのか!放せーっ!あいつらのところに行かせてくれーっ!ああああああああっ!」

 ローランド卿が叫んだ瞬間、爆音とともに最後の一隻が沈んだ。何枚ものガラスの砕け散る音がして、船だったものから黒い煙が上がっている。ローランド卿は糸の切れた操り人形のようにその場に崩れ落ち、顔を手で覆いもせずに静かに涙を流した。

「そんな……私は……戦えとは命令したが……死ねなんて命令したことはっ、一度だって……くっ……」

 スペイン軍は、ローランド卿がイギリス船のどれかに乗っていると思ったのか、イギリス軍の船だけを狙ったのか、少し離れた所で様子を窺うようにしているファントム=レディ号を残して向きを変えた。嫌な臭いの煙が立ち込める中、ローランド卿以外全員無言だった。風に煙が薙ぎ払われて視界が開けるほど、先ほどの戦いが嘘のように思える。

「何で……っ……皆、私を置いていくんだ……何で部下がいないのに、船がないのに、私は生きてるんだっ……。いやだ……もう一人になるのは……っ……嫌だ……!」

 シアーズは悲しげにそれを聞いていた。部下に、ボートを降ろして負傷者の回収をするように言った。ただし、数に限りがある。とは言っても、その数を超えるくらい、生き残った者がいるのだろうか。辺りが気持ち悪いほど静かだ。暑いくらいだったのに、今は冷や汗が出るかと思う程だ。

 周りでクルーがボートの準備をしている間にも、ローランド卿は呆然としてそこにへたり込んでいた。シアーズは彼を見ていた。ウィルの目に今何が映っているのか。彼は今、何を祈っているのだろうか。何も分からない。何も。掛ける言葉すら思いつかない。ああ、昔だったら俺はどんなことをしただろう。

 だが、空っぽの頭には思い出の一つも浮かばなかった。それでも己を残酷で冷徹だとは思わない。無力で座り込む彼を情けないとも鬱陶しいとも思わない。ただ、疑問が浮かんだ。いつからこいつはこんなに弱くなったんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ