表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/44

02 月明かり

 それから数日後、両軍の艦隊は戦場に着いた。広い海だ。辺りには小さな無人島しか見えない。どれも岩だらけでごつごつしている。たまに木の生えたものを見かける程度だ。

 両軍はすぐにでも戦闘できる準備がしてある。だが、風上の争奪戦にそこからかなりの日数を費やした。


「休戦信号も和平交渉もなしとは……こちらも士気は下がるし、兵糧は減るし、どうしたものかな。このまま船を滑らせるだけでは埒があかない。水の補給だけでもしておきたいものだ」

 船長室で、渋い顔をしながらカニバーリェス卿は呟いた。こちらもこんな状況である。きっと、敵だって内心はうんざりしているに違いない。

 カニバーリェス卿は夜のうちに近くの無人島に船をつけて、水の補給をすることにした。無人島といっても少し大きい。高い山があり、麓には森が広がっている。きっと綺麗な水の湧く泉か川が一つくらいあるだろう。

 砂浜にボートをつけると、すぐ目の前に森があった。慎重に降り、見張りを残す。夜だけに薄気味悪いが仕方ない。

 森の中はまさしく秘境だった。本国スペインでは見慣れない植物、虫。たまにけたたましい鳥の鳴き声のようなものが聞こえる。道などありはしないし、地図もない。やっと見つけた小さな小川を辿り、上流を目指すことにした。頭上から垂れ下がる蔓を剣で払い、足元にある木の根につまずきながらも前を目指した。兵はすっかり肝を潰しているようだった。

 森をしばらく歩くと、幾分か幅のある小川に着いた。といってもまだ流れが小さすぎるうえに濁っていて、飲めるような代物ではない。上流へ向かって再び歩くように指示した。

 上流へ行くと、水の気配が強くなってきた。どうやら泉があるらしい。しかしここでカニバーリェス卿は、ふと何かひっかかった。何が、というわけではない。虫の知らせのようなものだ。部下に警戒態勢をとらせた。そのまま足音を立てないように指示して、再び小川の上流へ向かって歩き出した。しかし、地面で落ち葉を踏む音、枝にぶつかる音がしていた。警戒するように指示しているせいか、ほんのわずかな音でさえも気に障る。

「動くな」

 闇の中から澄んだ声がした。知っている、この声は―――。

「奇遇だな、こんな所で会うとは。カニバーリェス卿、戦場で会いたかった」

「ローランド……何だ、貴様らもか」

 ローランド卿の後ろには、戦闘態勢をとった部下がいた。もちろんこちらにも警戒態勢をとった兵はいる。だがやはり何かが違う。そのせいでこの男には勝てない。カニバーリェス卿は腰の剣を抜いて、重々しく口を開いた。

「再三の我が国王陛下のご忠告にもよらず、イギリスを拠点とする海賊、アート・シアーズ討伐を目的としたスペイン領海侵犯において、その罪を我が国王陛下の名の下に知らしめ、我が国はイギリス帝国に対して制裁として、ここに宣戦布告をする。……覚悟なされよ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ