3. 地道な努力と、初めての合成
最弱の烙印を押され、村の外れで半ば放置されるようになった俺だが、ダラダラと自堕落に怠けているつもりは毛頭なかった。
前世の経験からよく知っている。「自由に生きる」ということは、決して生易しいものではない。誰にも文句を言われず、誰の手も借りずに自立するためには、それ相応の「基礎力」が絶対に必要だからだ。
俺は、周囲の人間が見向きもしなくなった『初級スキル』『初級魔法』、そして実用性のない『生活魔法』を開拓地の泥にまみれながら、一つずつ能力を確実に集め始めた。
この世界における「初級」や「生活魔法」の習得難易度自体は、決して高いものではない。
一般の人間であっても、日々の暮らしの中で少し意識すれば、あるいはちょっとした手習いによって、いくつか自然と身につけていくような、ありふれたものだ。
だが、いくら一つ一つのハードルが低いとはいえ、普通の大人はそれらを「すべて網羅しよう」などとは考えない。どれだけ集めたところで適性レベルが初級のままでは器用貧乏で終わるだけだからだ。
そもそも5歳の子どもが数か月のうちに何十個、何百個ものスキルを覚えるなど、物理的な時間が足りないはずだった。
そうはずだったのだ。それが俺に可能だったのは、あの転生時に授かった『隠されたボーナス』の存在を、記憶の復活とともに自覚していたからだ。
前世の命の対価である【幼年期の経験値・熟練度獲得量ブースト(10倍)】。
「初級」という元々のハードルの低さに、この「10倍爆速ブースト」が完全に噛み合った。
結果として、俺の日常は奇妙な成長曲線を描き始める。
俺がちょっと開拓地を走り回ればそれだけで『初級ステップ』が極まり、小石を数回投げれば『初級投擲』の精度が最大レベルになり、暖炉の火種をじっと見つめて模倣すれば『火おこし』の魔法が瞬時に自分のものになった。
村の人間たちが「エルタの奴は才能を失って頭がおかしくなり、毎日泥遊びに耽っている」と嘲笑している間に、俺は5歳にして、この世界に存在する「すべての初級スキル・初級魔法・生活魔法」を完全にコンプリートしてしまったのだ。
解き放たれたすべての初級が「最大」になったまさにその瞬間。
俺の脳内に、厳かなシステムアナウンスが響き渡った。
『――条件達成:固有能力【スキル合成】が覚醒しました』
(またこの声。システムのアナウンスか何かか?それに合成だって? 初級しか使えない俺に、一体何ができるんだろうか?)
俺はさっそく、その力の検証を行うことにした。
目を付けたのは、日夜、泥だらけになった俺や家族の衣服を、冷たい川の水と硬い洗濯板で必死に洗っている母親の姿だった。開拓地の洗濯は重労働で、母さんの手はいつもあかぎれでひび割れていた。少しでも楽にさせてやりたい。お人好しな前世の魂が、俺にアイデアをもたらした。
生活魔法の基本である【洗浄】。これだけでは表面の軽い汚れしか落ちない。
そこに、初級魔法の【水生成】と【温熱】を加え、さらに汚れを吸着して弾く初級補助技の【微粘着】を、頭の中でパズルのように掛け合わせてみる。
(いけるか……? いや, やってみよう)
俺は籠の中の汚れた衣服たちに向かって、そっと手をかざした。
「――『スキル合成』」
その瞬間、俺の手のひらから、これまで世界の誰も見たことがない、完璧に温度管理された微細な泡と、激しい渦を巻く水流が一体となった未知の術式が放たれた。衣類の繊維を傷つけることなく、奥に詰まった頑固な泥汚れを根こそぎ引き剥がし、さらには優しく水分を飛ばしてふんわりと乾燥まで完了させる。
まさに、家事の概念を根底から覆す超複合魔法。
これが、俺の記念すべき最初の合成魔法――『パーフェクト・ウォッシュ(自動洗濯)』の誕生の瞬間だった。
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