Episode.16 勇者を調べます
「怪人の子孫って、オレらの世界から来た怪人か?」
『はい。博士の作った怪人です』
「なんでそう言い切れるんだ」
『K遺伝子が含まれていました』
「……なんだそれ?」
『怪人を怪人たらしめている全怪人共通の遺伝子配列です。これは博士の発明であり博士の改造手術によってのみ発現するものなのです』
「それはわかった。だとしても子孫ってのはなんだよ。オレたち繁殖できねーだろうが」
『御主人様は脳しか残っていませんが、生体残存率は怪人によって異なります』
「なんだ、じゃあチ〇コ残したまんまの怪人もいるってことか?」
『今のは規制ワードです』
「知るか」
『何を残すかはそれぞれの事情によります』
「はいはい、わかった。じゃあとりあえず生殖行為の可能な怪人もいるんだな?」
『そうです。場合によっては単性繁殖も可能です』
ん!?
ちょっと気になるがやっぱりいらんわ。
いやーしかし知らなかったなー。
全然知らなかったわー。
ってか、オレ手術する前に何にも聞かれた覚えないんだが。
最初っからチ〇コ取るの確定してたってことか。
それはそれでちょっと腹立つなー。
『下手の考え休むに似たり、ですよ』
「うるせーよ。今まさに休んでるんだよ!」
『ちなみに、あの魔剣士はアイン・ボーザムという名で、ガリアンの勇者だったようです』
「ほぉ、なんでわかった?」
『あの場所にドローンを残しておいた所、生存者が魔剣士の遺体を運んでいきました』
「そん時に話してたってことか。ガリアンってどこだっけ?」
『ここからソルグラーレに行く途中の、少し西寄りです』
ピピッと音がしてモニターが起動。
マップで位置が表示された。
「一応行って調べるか。そいつの出自とか家族構成とか」
『他にも怪人由来の勇者や英雄がいるかもしれません』
「今日のあの連中の中にはいなかったのか?」
BP的に判断すればナシだが……。
『おそらくは』
「で、あの黒鎧の親がどんなヤツだったかは調べられねぇのか」
『本部のサーバーにアクセスできれば検索可能ですが、ここではなんとも……』
オズが残念そうに言葉を濁した。
そういうとこが人間臭くて騙されるんだよなぁ。
「あ、そう言えば、なんでオレあんなに研究され尽くしてたんだよ。ほとんどピンポイントで対策されまくってたじゃねーか。いったい誰が情報流したんだ?」
三ヵ月は遊び過ぎたか、とチラッと思ったが今更どうしようもない。
『おそらくは帝国の人間と思われます』
「あの状況でまだ生き延びたヤツがいたってのか……」
屋内とか地下とか、それこそ転移とか、考えたら可能性はありまくる。
『転移ゲートを使ったのでしょう。同盟国間で相互に設置するのは一般的なようです』
「ってことはそいつは公国に転移して、そっからまたどっかに行ったのか?」
『こちらの網に引っかからなかったことから推察すると諜報部隊の者でしょうね。しかも転移ゲートが使えるぐらいの身分となるとその部隊長か、あるいは本人が勇者の可能性もあります。調べますか』
「あれだけやられたらもう諦めるんじゃねぇのか」
調べたら対処しなきゃいけなくなるのがぶっちゃけ面倒臭い。
『魔王の言う通りの帝国の人間なら、しつこいかもしれませんよ』
確かに、いい加減これ以上帝国のヤツにウロチョロされるのは鬱陶しい。
「それもそうだな。じゃあ調べといてくれ」
『了解です』
「ほんじゃま、そろそろ行くか」
オレは地下室から、城のバルコニーに出た。
「ん?」
町の方から煙が上がっていた。
「なんだあれ?」
『映像出します』
モニターに重なって見えたのは、黒焦げ死体を集めて火葬している様子だった。
「まさか、代表たちが戻ってきたのか?」
『いえ、あれはミレニクス軍のようですね』
「じゃあ町が焼かれたのを確認に来たってところか」
代表たちはミレニクスの他の町へ辿り着いたのかもしれない。
『確認と事後処理ですね。あ、御主人様、兵が五人ほどこちらへ向かってます』
結構険しい山の上なのによくやるよ。
「えー、知り合いでもねーし、やだよ。会いたくねーよ」
『ではもう行きましょう』
「そうだな」
面倒事は極力回避、ということで城を後にしてガリアンへ出発。
* * * * *
オレは五代竜介になってガリアンの首都ジェノスに潜入した。
当然だが、まだアイン・ボーザム戦死の報は届いていなかった。
あまり目立たないようにしながら、片っ端から聞き込みをしてまわった。
「アイン様はこのガリアン最強の勇者様です」
――へぇ。
「我らがアイン様は単独でドラゴンを討伐したドラゴンスレイヤーです」
――え、ドラゴン? オレも戦ってみてぇ。
「アイン様がおられる限り、この国は安泰です」
――すまん、もう死んでる。
「アイン様の好物は血の滴るステーキだって噂だ」
――ああ、あの顔ならありえる話だ。なんなら人肉でも食えそうだ。
「オレはアイン様と酒場で一緒に飲んだことがあるんだ」
――知らんがな。
「アイン様は素晴らしい御方だが、ごく限られた人にしか素顔を見せないらしい」
――そりゃ、あの顔じゃあ仕方ねぇだろ。察してやれ。
「レイナ姫がアイン様を御寵愛なさっておられるそうだ」
――え、姫が? あのいかつい顔のバケモノを? ないないない。
「アイン? ああ、あの偽勇者か。ヤツは魔王軍のスパイだ」
――やっぱいたかアンチ。にしてもスパイ呼ばわりはひでぇな。
「アイン様の御父上ですか? いえ、聞いたことがありません」
――そうか、残念。まさか出身は別なとこか?
「アイン様の生まれ? 確かノプスバイツの方だと聞いたような……」
――え!? マジか?
「ああ、そうさ。アイン様はソルグラーレの勇者育成プログラム出身だ。あっちじゃみんな知ってることだぜ」
――はいビンゴ! オレ天才すぎるだろ。
こうして図らずも、元々の目的地がアインのルーツだった可能性が出てきた。
それにしても、勇者育成プログラムってなんだよ。
『まぁ育成系の専門学校みたいなものでしょう』
専門学校ったってピンキリだろーが。
でもまぁ、あの実力だからピンの方の可能性が高い。
『行って見ればわかることです』
そりゃそうだ。
「もうここはこんなもんでいいかな?」
『お姫様にでも会いにいきますか?』
「いやいや、王族とか絶対に関わりたくねぇっつーの」
『だと思いました』
「他の勇者については目ぼしい話は聞けなかったな」
『アイン・ボーザムが飛びぬけた実力者でしたから、そこは必然でしょう』
「だといいけどな」
『棘がありますね、御主人様』
「お前に言われるとは心外だよ」
『だからそれです』
無視してソルグラーレへ飛び立った。
* * * * *
おそろしく穏やかで平和な都市ソルグラーレ。
ここに入り込んだ瞬間、オレまでお花畑になりそうだった。
これって、もしかして何らかの精神操作の影響なんじゃないの?
『ルラの濃度が濃いのは確かです』
え!? マジかよ。
『ノプスバイツという国の裏側も調べる必要がありそうです』
「できるのか?」
『やってみます』
でもオズの情報収集は主に衛星とドローンによるものだから、インタラクティブな調査は出来ないんだよなぁ。
『そこは御主人様の出番です』
「は? オレをこき使うつもりかよ」
『ジェノスではとても見事な聞き込みでしたよ』
なんだよその上から目線は。
やる気を削ぐ天才かよ。
にしても、あまり目立ちたくないから誰かにやってほしい。
現地民の工作員とか調達できればいいんだがなぁ。
『名案です! 雇いましょう』
「どこでだよ」
『ギルドに行ってみましょう』
オズに言われるまま、ソルグラーレの冒険者ギルドへ。
「調査依頼」という形で人を募集することにした。
依頼時に必要な金は、ギルドへ行く途中で調達した。
ギルドの人間曰く、高額報酬なのですぐに応募があるだろうとのことなので、向かいの酒場で待つことにした。
もちろん酒は飲まない。
「いらっしゃい。何にするかね」
カウンターの向こうの男が声をかけてきた。
「ここの名物はなんだ?」
「ワインだな。高級品からそうでないものまで、色々あるよ」
だから酒はダメなんだってば。
「ノンアルコールがいいな」
「ハハハハ! お前さん、ここをどこだと思ってんだ。子供の来るところじゃないんだぞ」
カッチーン!
『御主人様……』
わかってるよ。
「ないならないって言えよ。無駄口叩くんじゃねぇ」
「ふん! 威勢だけはいっちょ前だな、あんちゃん。これでも飲んどけ」
カウンターをスーッと滑るようにして来たのは白い液体の入ったショットグラスだった。
「なんだこれは?」
「ママのおっぱいだ。あんちゃんにお似合いだろ」
ガハハハハハ! と店内大爆笑。
いつの間にか注目を集めてしまっていたらしい。
「やれやれ」
これ以上注目されるのも、騒ぎを起こすのも面倒だ。
黙ってこれで我慢するか。
グラスを一気に煽ろうとしたら、オズが割り込んで来た。
『御主人様、ダメです。そのグラスにはアルコールが混入しています』
は?
だって牛乳だろ?
『嫌がらせです』
牛乳カクテル?
おいおいおい、冗談じゃすまされねぇぞ。
こちとら命が掛かってんだ。
ガンッ!
とグラスをテーブルに叩きつける。
中身が半分ほど飛び散ったが、知るか。
「随分と行儀が悪いあんちゃんだな。躾が必要か?」
男の人相が豹変すると同時に、数人の客が一斉に立ち上がった。
だからなんで結局こうなるんだよ。
オレは精一杯努力して我慢してやってるのに。
ってかこの世界じゃ酒場でもこんな柄悪いのが普通なのか?
町の外はあんな平和なのに、酒場がこれとか初見殺しだろ。
精神操作やるなら建物の中までちゃんとやれよ。
さて、先手必勝だが人目もあるし、一応正当防衛の形だけは守ろう。
――あっという間に試合終了。
殴りかかってきた三人を秒でのして、あとはカウンターの男の前に立つ。
幸い三人とも命に別状はないとオズが保証した。
「す、すまなかった。ほんの冗談のつもりだったんだ。見ない顔には一応注意しとかないといけないのがこの商売じゃ常識なんだよ。頼む、見逃してくれ」
冗談と常識と見逃してくれは繋がらないぞ。
それともオレの2%がおかしいのか?
「ノンアルコールだ」
ビクッとしながらも用意をする男。
「すまないが、これしかないんだ」
カウンターに置かれたのは透明な液体の入ったジョッキだ。
どう見ても水だな。
さっきの牛乳はなんだったんだよ。
『異物混入ありません』
そういう問題じゃねぇよ。
「で、まさかこれで金取る気じゃねぇよな?」
「も、もちろんだ……です」
両手を必死に振って否定する男。
ならまぁいいや。
ジョッキを持って、一番奥の丸テーブルへ行く。
テーブルにジョッキを置くと、丸椅子に腰掛けて脚を組み、店内を一瞥。
慌てて顔をそむける客たち。
その時、入口から他の客が入ってきた。
「リュウさん、いますか?」
見目麗しい美女がオレの名を呼んだ気がしたが、たぶん気のせいだ。
この世界の女性に知り合いなどいない。
店内の客も、カウンターの男も驚いた表情で美女をガン見している。
美しい銀髪と長くて尖った耳――ってエルフじゃねぇかオイ!?
『御主人様、冷静に』
わかってるよ、んなもん。
でもエルフだよエルフ。
異世界と言えばエルフ。
指輪物語と言えばエルフ。
ほら、魔王の指輪まで嵌めちゃってるわけだしさ。
――目が合った。
ツカツカとこちらに一直線に歩いて来る。
おいおい、まさかのまさかだよ。
そしてオレの目の前まで来て立ち止まると、髪をかき上げ眩しい笑顔で一声。
「依頼を受けたエレノア・シルヴァーヌです。リュウさんですよね」
オーマイガッ!
これは運命の出会いに違いない!
『違います。ただの依頼です』
うるさいうるさいうるさい!
エルフと出会い隊、隊長のリュウですよろしくお願いします。
言いながら思わず立ち上がる。
『御主人様、声が出ていません』
ハッ! マジか。
あまりの衝撃に声帯まで見惚れて硬直しちまってたか。
『いい加減にしないと打ちますよ』
わかった、わかったからやめろ、やめてくれ!
我に返って、差し出されたエルフの手を両手で握りしめる。
「リュウ・ゴダイです。あなたのような方が依頼を受けてくれてオレは本当に幸せです」
満面の気持ち悪い笑顔で両手を激しく上下に振ると、エレノア嬢はやや困惑しながらも営業スマイルで付き合ってくれたマジ天使。
「それで、依頼の詳細なんですが、ギルドではリュウさんに直接伺うようにとの事でしたので、詳しく聞かせてもらえますか」
ああ、声まで天使の歌声のように美しい。
――ハッ、ついつい調子に乗ってしまった。
これはアレだな。
絶対に打たれたに違いない。
『当然の帰結です』
はい、すんません。
「こんな所ではなんですので、外に出ましょう」
こんな所にカウンターの男の表情がやや険しくなったが、知らん。
さっきの顛末の後でよくその顔が出来たな、逆に感心するわ。
「あ、はい」
即答してオレの後に続くエレノア嬢。
客たちの嫉妬の眼差しと、カウンターの男の怪訝そうな視線を気持ちよく受け流して二人で店の外に出る。
あ……。
そうだよな、やっぱそうだよな。
話がうますぎると思ったんだよ。
『募集人数を忘れていたのですか』
そう、ギルドに依頼した募集人数は三人以上だ。
忘れてねーよ、忘れてねーけどだな。
まぁ夢は一瞬で醒めるもんだ。
店の外にはエレノア嬢の仲間と思しき者たちが三人、待っていた。
男二人に女一人。
エルフはエレノア嬢だけらしい。
「申し遅れました。私たちは『白銀の翼』。ソルグラーレのSランクパーティです」
エレノア嬢が説明すると、他三名が軽く会釈をした。
Sランクってことは一番上じゃねーか。
あんな依頼に対して完全に役不足なんだが、大丈夫か?
『ランク不問という条件ですから問題ないかと』
まぁそうなんだけれども。
ちょっと違和感というか、警戒心が顔を出してしまうのは虫の知らせか。
『誰がうまい事を言えと?』
黙れ。
とにかく、どこか静かに話ができる場所はないか訊ねたら、パーティ専用の宿を紹介されたので御招待されることになった。
宿一軒まるまる貸し切りとかさすがSランク。
さすエス。





