神咲恵 地獄の選別
柚木運命と享楽伝が卒業した春。
前年――
高校クレーンゲーム大会準優勝。
その結果。
夢幻高校クレーンゲーム部には、
入部希望者が三十人も押し寄せた。
⸻
「今年めっちゃ新入生来たね」
二年生 寸胴姫歌が嬉しそうに言う。
「今まで三人だったし、賑やかになるね」
二年生 松下蘭も笑った。
部室の扉が開き、
「こんにちはー!」
「よろしくお願いします!」
緊張と期待の声が重なる。
「部長、新入生全員揃いましたよ」
松下が奥へ声をかけた。
部室の最奥。
ゲーミングチェアに深く腰掛け
まるで王座のように君臨する
三年生 神咲恵が、
ゆっくり口を開く。
神咲は静かに言った。
「……ちと、多いな」
寸胴が慌てて言う。
「え?でも人数多いにこしたこと――」
神咲が遮る。
「選別が必要だな」
寸胴と松下は同時に思った。
(出た……運命モード)
運命モードとは
神咲が
柚木運命闇堕ちverの口調・思想・振る舞いを
真似する行為である。
⸻
一人の新入生が遠慮がちに声を出す。
「あのぉ……」
神咲の口元がわずかに上がった。
「試すか?」
これも、運命が闇堕ちしたときの台詞
新入生たちが顔を見合わせる。
「え?」
戸惑いが広がる。
神咲はゆっくり立ち上がった。
「これより」
一拍。
「“ 地獄の選別”を行う」
空気が凍った。
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「新入生全員、私が直々に相手してやる」
寸胴は額を押さえた。
(あちゃ〜……)
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「よし、まずお前からだ」
「は、はい!よろしくお願いします!」
隣同士の台。
同時にボタンへ手が伸びる。
新入生の手は震えている。
神咲は楽しそうに笑った。
「ハッハッハ」
「怖いか?恐ろしいか?ん?ん?」
「儚く散るか?」
「無様に命乞いするか?」
⸻
新入生 三手目。
ゴトン。
神咲の眉が跳ね上がる。
「……は?」
「よし!!落ちた!!」
新入生が歓声を上げる。
神咲は咳払いした。
「ほ、ほう……命拾いしたな…」
「ありがとうございます!!」
⸻
神咲は指を差した。
「次だ」
二人目が前に出る。
神咲は愉快そうに言った。
「役立たずは必要ない」
「必死に来い」
「示してみろ!貴様の価値を!」
「ハッハッハ」
⸻
新入生 三手目。
ゴトン。
「はぁぁ?」
「やった!!取れた!!」
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三人目。
ゴトン。
四人目。
ゴトン。
五人目。
ゴトン。
⸻
寸胴が松下の袖を引いた。
「ねぇ、これさ……」
松下が遠い目をする。
「……うん」
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十人目。
ゴトン。
十五人目。
ゴトン。
二十人目。
ゴトン。
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神咲の笑顔が消えていく。
⸻
二十五人目。
ゴトン。
二十七人目。
ゴトン。
二十九人目。
ゴトン。
三十人目。
ゴトン。
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神咲恵。
三十戦三十敗。
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「今日はありがとうございました!」
「明日からよろしくお願いします!」
「部活楽しみにしてます!」
元気な声とともに、新入生たちは去っていった。
静寂。
神咲は膝に手をついたまま動かない。
寸胴が恐る恐る声をかける。
「……大丈夫ですか?」
松下も続ける。
「今日は……たまたまですよね?」
沈黙。
やがて神咲は小さく呟いた。
「……最近の若者は、優秀だな」
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この日行われた入部試験は、
後にこう呼ばれる。
『チュートリアル試験』と。




