ハイエナの流儀
古びたゲームセンター。
夕方。
クレーンゲームの前で、
小さな兄弟が立ち止まっていた。
「にぃちゃん、あれ欲しいよ」
ガラスの向こう。
人気キャラのフィギュア。
兄は弟の手を見る。
「いくら残ってる?」
「400円」
兄は自分のポケットを探る。
「……700円」
合わせて1100円。
「よし。にいちゃんが取ってやる」
少しだけ強がった声。
⸻
その様子を、
二人の男が眺めていた。
一人は、常連の解説おじさん。
人のプレイを横で解説し、
沼る様子を肴にする男。
もう一人は、
ハイエナの仁。
⸻
一手目
100円。
アームが箱を持ち上げ、
わずかに傾き――落ちる。
「少し動いたね、にいちゃん!」
弟が目を輝かせる。
解説おじさんが鼻で笑う。
「そんなんじゃ5000円コースだなぁ?」
兄の指が止まる。
「気にするな」
二手目。
三手目。
四手目。
兄弟の小遣いが、
静かに減っていく。
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「その箱はなぁ、重心が裏寄りでよぉ」
解説おじさんがニヤニヤする。
「攻め方が違うんだよなぁ」
兄は少し参考にして、
寄せを変える。
しかし、うまくいかない。
解説おじさんは嬉しそうだ。
「ほらな?沼ってる」
「ハイエナの見てるぞぉ?」
⸻
1000円。
残り、100円。
箱は、あと一手で落ちる形。
だが。
右アームか。
左アームか。
二択。
間違えれば終わり。
解説おじさんが言う。
「右だな。右アームで回して終わりだ」
「まぁ、うまく寄せられたらの話だけどな」
ニヤニヤ。
兄弟は目を合わせる。
最後の100円。
兄が祈るように呟く。
「右アームで回す……」
その瞬間。
「待て」
低い声。
仁だった。
兄が振り返る。
「左だ」
「左アームで回せ」
弟が不安そうに言う。
「でも、あっちのおじさんは右って……」
解説おじさんが割って入る。
「おいおい、俺が何年ここ通ってると思ってんだ?」
「365日沼ってる客見てきてんだぞ?」
仁は一瞥する。
「悪趣味だな」
兄の手が震える。
「これ、最後の100円で……」
解説おじさんが笑う。
「こいつはハイエナの仁だぞ?」
「人の諦めた台しか取れねぇ男だ」
「な?俺を信じろ?」
仁は何も言わない。
ただ、兄を見る。
視線はまっすぐだった。
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兄は決めた。
左アームを寄せる。
ギリギリまで。
上昇。
アームが側面を優しく撫でる。
箱が、立ち上がる。
回る。
くるりと。
ゴトン。
⸻
「やったぁぁ!!」
弟が飛びつく。
兄は呆然と、
景品口を見つめていた。
解説おじさんは舌打ちする。
「ちっ……」
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兄弟が振り向く。
仁は、もういない。
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ハイエナとは。
誰かが諦めた台を、
最後に掠め取る者。
だが。
あの兄弟は、
最後まで諦めなかった。
仁にとって
ただ、それだけの話。




