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次の一手

高校三年の冬。


第三回高校生クレーンゲーム大会。


トレ高校クレーンゲーム部は――三連覇を達成した。


表彰台。

歓声。

フラッシュ。


トロフィー。

賞状。

そして、MVP。


すべて手に入った。


もちろん、嬉しくなかったわけじゃない。


でも――


昏華(くれげ)すきは思う。


自分は、賞状が欲しかったわけじゃない。

トロフィーが欲しかったわけでもない。

MVPだって、それを目指していたわけじゃない。


一番嬉しかったのは、あの瞬間だった。


表彰台の上。


沙希(さき)が満面の笑みで跳ねていて、

(りん)が静かに頷いていて、

舞子(まいこ)が誇らしそうに胸を張っていて、

針千(はりせん)が大騒ぎしていて、

豚田(ぶただ)が泣きそうな顔で笑っていた。


そして――


MVPの名前が呼ばれたとき。


「すきーー!!」


「やったじゃん!!」


「当然ですわ!!」


「すきすげぇ!!」


自分より先に、みんなが喜んでくれた。


まるで、自分のことみたいに。


それが、一番嬉しかった。


だから。


大会が終わり、

静かな日常が戻ってくると、

すきの胸の中にはぽっかりとした空白だけが残った。


(……やりたいこと)


(やりきっちゃったかも)


三年間、夢中で追いかけてきたものは、もう終わっていた。



その頃、トレ高では進路の話が増えていた。


大学。

専門学校。

就職。


みんな、少しずつ未来を決めていく。


だが――


すきの進路だけは、まだ白紙だった。



「昏華」


担任の声。


晴谷蓮二(はれやれんじ)だった。


「進路、まだ決めてないのはお前だけだぞ」


すきは視線を逸らす。


晴谷は続けた。


「授業後、進路相談な。残れよ」


「……はい」


小さく返事をする。


しかし、授業が終わった瞬間。


すきは、逃げた。



部室に行けば、すぐ見つかる。


だから向かったのは、

市原右京(いちはらうきょう)からもらった秘密基地だった。


体育館のステージ。

幕の裏。


その奥にある、小さな隠し部屋。


四人ほど座れる掘りごたつのテーブル。

お菓子。

ジュース。


完全な逃亡拠点だった。


すきはこたつに潜り込む。


ポテチを食べる。

ジュースを飲む。


そして、ぼんやり考える。


(やりたいこと、か)


今までの自分の目標は、

トレ高メンバーでクレーンゲーム大会に優勝することだった。


でも。


大会三連覇。

第三回大会MVP。


満足してしまった。

やり切ってしまった。


つまり――


やりたいことが、なくなった。


(空っぽ)


今の自分は、空っぽだった。



ある日、廊下で針千の声が聞こえた。


「俺さ、教師になりたいんだよな」


その言葉を聞いた瞬間、すきは思った。


(近くにいるのに)


(すごく遠い)



こたつの中で、足に何かが当たった。


紙だった。


取り出す。


ラーメン半額券。

武骨家。


(……市原先輩のか)


有効期限。


――無制限。


すきはそれをポケットにしまった。



「そろそろ諦めたかな」


体育館を出た瞬間。


目の前に、晴谷蓮二。


「ひっ」


逃げようとしたが、捕まった。



教室。


強制連行。


すきは椅子に座らされる。


晴谷が腕を組んだ。


「昏華」


低い声。


「お前は、なにがしたい」


沈黙。


「どうなりたい」


「……えっと」


すきは視線を泳がせる。


「やりたいことは……ないっていうか」


「どうなりたいとかも……別に……」


次の瞬間。


晴谷が机を叩いた。


「いい加減にしろ!」


すきの肩がびくっと震える。


「なにも目指さない。なにもしない。人がそんな怠惰に生きていいわけないだろ!」


そのとき。


ポケットの中で、


カサッ。


すきは手を入れる。


ラーメン半額券。


それを、晴谷の前に差し出した。


まるで、これが答えだと言わんばかりに。


晴谷はそれを見る。


「……それが、お前のやりたいことなのか?」


すきは言った。


「はい」


「これで文句ありませんよね?」


しばらく沈黙。


晴谷は小さく息を吐いた。


「ああ、わかった」


少しだけ、悲しそうな顔だった。


「頑張れ」


そう言って、教室を出ていった。



卒業後。


昏華すきは、ラーメン屋の前に立っていた。


看板。


武骨家(ぶこつや)


ポケットから半額券を取り出す。


少し眺めてから、暖簾(のれん)をくぐった。

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