表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/15

とうに超えてる

冬。


トレ高の昼休み。


クレーンゲーム部。


アームが降りる。


ゴトン。


沙希(さき)が拍手する。


「やったー!」


その時。


部室の扉が開いた。


(りん)


顔を出したのは

夢幻(むげん)高校1年寸胴姫歌(ずんどうひめか)だった。


「今度さ」


「後輩の試合あるんだ」


舞子(まいこ)が振り向く。


「フィギュアですの?」


「うん」


寸胴が頷く。


「よかったら見に来ない?」


舞子は笑う。


「もちろんですわ」


凛は少し考えた。


リンク。


氷。


思い出。


胸の奥が、少しだけ動く。


「……いいわよ」


寸胴が嬉しそうに笑った。



数日後。


スケートリンク。


冷たい空気。


刃が氷を削る音。


舞子が小さく言う。


「懐かしいですわ」


凛は黙ってリンクを見ていた。


昔。


ここが自分の世界だった。



最初の演技。


軽やかなステップ。


舞子が呟く。


「……いいですわね」


凛も頷く。


「リズムがいい」


寸胴が嬉しそうに言う。


「この子」


「私の後輩」


リンクの上。


足運び。


テンポ。


寸胴のステップだった。


舞子が笑う。


「しっかり継いでますわ」


寸胴は照れくさそうだった。



次の選手。


舞子が少し身を乗り出す。


「この子、私の後輩ですわ。」


ジャンプ。


回転。

綺麗な着氷。


観客がどよめく。


寸胴が言う。


「速い……」


舞子が誇らしそうに言う。


「回転は負けませんの」


凛が言う。


「空中姿勢が綺麗」


舞子は満足そうに笑った。



寸胴が凛を見る。


「凛の後輩は?」


凛は少しだけ考えた。


「……いないわ」


「仲良かった後輩なんて」


舞子が笑う。


「凛らしいですわ」


その時。


アナウンス。


次の選手の名前が呼ばれる。

凛の目が止まった。


「……あ」


舞子が聞く。


「知り合いですの?」


凛は首を振る。


「話したことはない」


一拍。


「でも」


「同じリンクにいた子」



演技開始。


滑り出し。


静か。


洗練されている。


舞子が言う。


「……綺麗」


寸胴も頷く。


「うん」


凛は黙って見ていた。


ジャンプ。


回転。


スピン。


整っている。


(……似てる)


昔の自分。


でも、

もっと柔らかい。


そして――


ジャンプ。


回転。


着氷。


凛の目が止まる。


(……あ)


肩が開いていない。


昔。

この子には癖があった。

着氷の瞬間。

左肩が少し開く。


凛は一度だけ言ったことがある。


リンクの外。

すれ違いざま。


「着氷」


「左肩」


「開いてる」


それだけ。


振り返りもしなかった。


でも今。


その癖は


消えていた。


完璧な着氷。



演技終了。


拍手。


結果発表。


一位。


凛の後輩。


二位。


舞子の後輩。


三位。


寸胴の後輩。


舞子が笑う。


「後輩対決でも勝てませんでしたわ」


寸胴も笑う。


「悔しいなぁ」


舞子がぽつりと言う。


「でも」


「あの子」


「凛を超える選手になるかもしれませんわね」


寸胴も頷く。


「うん」


凛は少し首を振った。


「それはないわ」


舞子が凛の顔を覗く。


「どうしてですの?」


凛はリンクを見たまま言った。


「私なんて」


一拍。


「とうに超えてる」


舞子と寸胴が黙る。


リンクの上。


凛の後輩は

仲間に囲まれていた。


笑っている。


嬉しそうに。


楽しそうに。


凛は思い出す。


中学の優勝。


歓声。


表彰台。


でも。


隣には

誰もいなかった。


凛は小さく目を細めた。


「……いいわね」


リンクの上では


まだ歓声が続いていた。


後輩は

仲間に囲まれて笑っていた。


凛は静かに思う。


あれが、本当の優勝かもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ