第11話 帝国――海と陸で割れた日本
最初に感じたのは、息苦しさだった。
胸が少し重い。
呼吸のたびに、柔らかい何かへ顔の前が押し返される。
寝具ではない。
枕とも違う。
温度があり、かすかに動いていて、しかも近すぎる。
誠二は、半分眠ったままの意識の中で息を継ごうとして、それが少しだけうまくいかないことに気づいた。
鼻先へ落ちてくる匂いは、仮眠室の布の清潔な匂いではない。
もっと近い。
体温のある、人の匂いだ。
そこでようやく、ゆっくりと目を開けた。
すぐ目の前が柔らかい。
というより、顔が埋まっていた。
リュシアの胸元だった。
息苦しさの理由を理解した瞬間、誠二の意識は一気に浮上した。
抱えられている。
腕が肩と背中のあたりへ回っている。
引き寄せられたまま眠っていたらしい。
しかも今日は、ただ隣で肩が触れていた程度ではない。完全に抱き込まれ、顔を胸へ埋める形で目が覚めた。
誠二は反射的に少しだけ身じろぎしかけ、すぐ止めた。
動けば余計に顔が押し当たる。
それもどうかと思う。
だが、このまま何もしないのも妙に近い。
困った、と最初に思ったのはその程度のことだった。
頭の上で、かすかに息が動く。
「……起きた」
眠気の残った、低い声。
リュシアだった。
もう起きている。
しかも状況は分かっている。
その上で、まだ腕は外れていない。
「起きました」
誠二は少しだけ声を押さえて答えた。
近いと、自然に声も小さくなる。
そこで、今度は二人とも少しだけ黙った。
気まずさが無いわけではない。
だが、完全な事故という感じもしない。
昨夜までの流れがあって、二つの枕が並んでいて、その延長でこうなっている。
予想していなかった近さではある。
けれど、予想外すぎて拒絶したいほどでもない。
その微妙な中間にいる。
「……苦しかったです」
誠二が正直に言うと、すぐ頭の上で短い吐息が落ちた。
「それは少し分かる」
「分かるんですね」
「埋まってたから」
「はい」
「かなり」
そこでようやく、リュシアの腕が少しだけ緩んだ。
だが、ぱっと離れるわけではない。
抱えたまま、顔を少しだけ上げられるくらいに力を抜く。
誠二が少し顔を離すと、視界の先にリュシアの顔がある。
近い。
近いが、昨日までよりその近さに慣れている自分もいる。
「朝からすごいですね」
誠二が言うと、リュシアは半分閉じた目のまま答えた。
「寝相」
「便利な言葉ですね」
「便利」
「押し切る気ですね」
「押し切る」
短い。
だが、その短さが少しだけ可笑しくて、誠二は小さく笑った。
するとリュシアも、口元をほんの少しだけ緩める。
「嫌?」
また訊く。
前より自然で、前より静かな問いだった。
「嫌ではないです」
誠二が答えると、リュシアは頷くようにわずかに顎を引いた。
「ならいい」
その一言で、朝のぎこちなさはほとんど片付いた気がした。
しばらく、そのままの距離が続く。
抱き込まれたままではなくなったが、まだかなり近い。
誠二は、自分がそこまで焦っていないことに気づく。
最初に感じたのは息苦しさだった。
だが、今はもうそれも落ち着いている。
むしろ、ここ数日見てきた重いもののあとでは、この近さが少しだけ体を人間の側へ戻してくれる感じがした。
「今日、何でしたっけ」
誠二が訊く。
リュシアは、枕へ顔を半分埋めたまま答えた。
「日本」
「……ああ」
「割れてる方」
それで十分だった。
日本。
しかも割れている方。
その言い方だけで、今日がどういう重さなのかはだいたい分かる。
「海と陸ですね」
「うん」
「かなり面倒そうです」
「かなり」
リュシアは、そこでようやく完全に腕を外し、上体を起こした。
乱れた髪を手でかき上げる仕草が、前より少しだけ気安い。
誠二も起き上がる。
ベッドの上には二つの枕が並んでいる。
昨日よりさらに、そこに二つあることが自然に見えた。
意識しないわけではない。
だが、意識しても不自然ではないところまで来ている。
それだけでも、昨夜と今朝で何かが少し進んだのだと分かる。
案件確認用の小部屋へ戻ると、リュシアは椅子へ座るなり、早くも半分だらけた姿勢になった。だが結晶板を出す指先だけは正確だ。
表示された名前を見て、誠二は小さく息を吐いた。
首相 米内光政。
海軍大臣 山本五十六。
海軍次官 井上成美。
連合艦隊司令長官 小沢治三郎。
参謀総長 東條英機。
陸軍大臣 阿南惟幾。
遣欧艦隊司令 山口多聞。
並びが強い。
しかも、一目で海と陸の論理が違うと分かる布陣だった。
「かなり綺麗に分かれてますね」
誠二が言う。
「うん」
「海軍の上は未来寄り」
「山本、井上、小沢」
「しかも山口が前にいる」
「そう」
「陸軍は大陸秩序側」
「東條と阿南」
リュシアはそこで少しだけ目を細めた。
「それ好き」
「今日は早いですね」
「最初から嫌な複雑さがある」
短いが、言っていることはその通りだった。
山本と井上が上にいて、小沢が連合艦隊を動かし、山口がアデンで実装している。
一方で東條が参謀総長として大陸秩序を見て、阿南が陸軍大臣として地上軍の現実を支えている。
同じ帝国の中に、二つの合理がある。
どちらも日本のために正しいと思って動いている。
だからこそ面倒だ。
「行きますか」
「行く」
最初に落ちた先は、海軍側の視察拠点だった。
港の匂いがした。
だがアデンではない。
もっと湿り気のある、内地の軍港の匂いだ。
油、潮、鉄、塗料、そして人の多さ。
見上げれば灰色の艦影が重なっている。
誠二はしばらく黙ってそれを見た。
多い。
それがまず感想として来る。
ただ艦が多いのではない。
残っている。
消耗していない。
それが港の厚みとしてそのまま見えていた。
「長門以下もいますね」
誠二が言うと、案内役の海軍士官が頷いた。
「健在です」
年齢は四十に届くかどうか。
艦隊勤務を長くやってきた顔だ。
だが今は現場だけではなく、説明役を任されるくらいには、上も見ている人間らしい。
「信濃も戦艦完成」
男は続ける。
「駿河級も建造済み」
「それでいて」
誠二は海図ではなく実艦の並びを見ながら言った。
「空母主兵なんですね」
「ええ」
士官はすぐに答えた。
「戦艦の格は捨てていません。だが、実務の主兵は空母です」
それが、この世界の日本海軍を一言で表していた。
格は残す。
だが主兵はもう別にある。
しかもそれを、思想として言うだけではなく、本当に運用できる厚みが残っている。
「商船改造空母がない」
誠二が確認すると、士官は少しだけ表情を引き締めた。
「必要が無かった」
「そこですよね」
「ええ。急場しのぎを量産する段階へ入らなかった」
その一言に、第99世界の日本海軍の余裕が全部出ていた。
太平洋戦争がない。
消耗がない。
だから、本来の設計思想で艦隊を積み上げられる。
大鳳級は拡充。
翔鶴・瑞鶴は健在。
信濃は戦艦完成。
駿河級もある。
長門以下もまだ揃っている。
戦艦の時代を終わらせきっていない。
だが空母の時代はもう始めている。
しかも始めるだけでなく、実際に回している。
「この国」
誠二は艦影を見上げたまま言う。
「戦艦の時代を終わらせきっていないのに、空母の時代に入ってますね」
案内役の士官は少しだけ驚いたようにこちらを見た。
「その通りです」
「ふつうは、どちらかに寄ると思ってました」
「寄れないんです」
「海軍の自尊心がある」
「ええ」
「でも海の実務は、もう別の方を見ている」
「その通りです」
その説明は短かったが、強かった。
理論ではない。
この海軍は本当にその矛盾を抱えたまま動いている。
次に会ったのは、山本五十六だった。
政治家として綺麗に磨かれた顔ではない。
むしろ、艦隊と机の両方を長く見てきた人間の、乾いた現実感が先に来る。
目が速い。
だがその速さを隠そうともしていない。
会う前から嫌なことも良いことも全部見えてしまう人間が、そのまま海軍大臣になった感じだった。
「見て回りましたか」
山本が訊く。
「ええ」
「感想は」
「艦隊の厚みが異様です」
山本は少しだけ口元を動かした。
「異様、ですか」
「はい。消耗していない海軍が、未来を先取りしている感じがします」
「未来を先取り」
「空母主兵で動いているのに、戦艦の格も持ったままです」
山本は、そこで完全に笑いはしなかった。
だが、誠二が何を見ているかは分かったらしい。
「艦隊は願望で動きません」
短く言う。
「油、補給、航続、搭乗員、整備、港、修理」
「ええ」
「それらを積み上げると、空母が前へ出る」
「でも戦艦は」
「国家が簡単に捨てられるものではない」
その答えが、非常に日本海軍らしかった。
古い格を捨てない。
だが新しい主兵も受け入れる。
しかも、ただの折衷ではなく、本当に両方を持つ。
「英国との協力も、その延長ですか」
誠二が訊くと、山本は頷いた。
「海は一国で握るより、均衡の方が持つ」
「親英ですね」
「海の現実です」
好き嫌いではない。
海の現実。
その言い方が、この世界の海軍側の合理をよく表していた。
そこへ井上成美も加わる。
山本よりさらに細い。
だが、その分だけ冷たい純度がある。
考え方が顔に出る人間ではない。
むしろ表情の外へ、思想だけが先に漂っているような人だった。
「山本大臣は現場を語ります」
井上は言った。
「私は制度を語る」
「教育、ですね」
「教育」
「思想」
「思想」
短く重なる。
「空母主兵は、艦があるだけでは成立しません」
井上は続けた。
「搭乗員教育、整備思想、索敵の優先順位、艦隊運用の前提。全部を変える必要がある」
「戦艦の時代と別の軍になる」
「そうです」
「でも、日本海軍は戦艦の格も残している」
「残す」
即答だった。
「国家は、格を捨てるのが遅い」
「でも実務は」
「先に動く」
その言い方が、誠二には妙に腑に落ちた。
国家は格を捨てるのが遅い。
だが実務は先に動く。
この世界の日本海軍は、その両方を同時に抱えて進んでいるのだ。
「小沢長官は」
誠二が言う。
「その未来を、実際に回す側ですね」
井上は初めて少しだけ目を細めた。
「そうです」
「知っているだけでは足りない」
「回せなければ思想は艦隊にならない」
そこへ移った先で、小沢治三郎を見ると、その意味がさらによく分かった。
小沢は、山本や井上より説明の量が少ない。
その代わり、艦隊の流れを一つの大きな身体として理解している感じがある。
艦の数ではなく、艦隊の回転率。
索敵、補給、整備、休養、再配置。
そういうものをひとまとめにした“動く全体”として海を見る人だった。
「未来を見ていると言われることはあります」
小沢は言った。
「だが、見ているだけなら子供でもできる」
「回す方が難しい」
「ええ」
「艦隊は、未来を知っているだけでは役に立ちません」
その一言で、山本と井上の思想が、ここで現実の回転へ落ちていることが分かる。
「日本海軍は」
誠二が言う。
「未来を知っているだけじゃなく、未来の艦隊を回せる人材が残ってる」
小沢は小さく頷いた。
「消耗しなかったからです」
それは、残酷なくらい単純な答えだった。
さらに、アデンの遣欧艦隊の話になると、山口多聞の位置づけがこの海軍の中でどれほど綺麗かも見えてくる。
「山口は前です」
山本が言った。
「比叡を中枢にして、翔鶴・瑞鶴を主兵にし、金剛級で随伴速度を合わせる」
「かなり思想が見えます」
誠二が言うと、井上が淡々と継ぐ。
「比叡は司令と通信」
「翔鶴・瑞鶴は実動」
「金剛級は高速随伴」
「しかも金剛級は」
誠二が言いかけると、山本が先に答えた。
「英国の血です」
その言い方が、妙に良かった。
英国製の血統。
ただの建艦史ではない。
日本海軍が英国海軍から生まれた部分を、まだ引きずっているという意味だ。
「アデンにいる金剛級は」
誠二は小さく言う。
「日英海軍協力の象徴そのものですね」
「そうです」
山本は、そこで初めて迷いなく肯定した。
それがこの世界の海軍側だった。
陸軍側は、まったく違う語彙で動いていた。
参謀本部側へ移ると、壁にある地図がまず違う。
航路ではない。
海流でもない。
国境。
鉄道。
駐屯線。
資源圏。
緩衝地帯。
対ソ封圧。
全部が面で描かれている。
東條英機は、その面を見ている人間だった。
首相ではない。
参謀総長。
政権の表で妥協する顔ではなく、陸軍そのものを握る位置に戻っている。
そのせいか、印象はむしろ分かりやすかった。
彼が見ているのは海ではない。
版図だ。
「ドイツの勝利は秩序です」
東條はそう言った。
「秩序」
「ええ。ソ連西部を砕き、大陸の重心を確定させた」
「海は未決着です」
誠二が言うと、東條は頷いた。
「海は海軍の仕事です」
それは投げたのではなく、本当にそう見ているのだ。
海は補助線。
大陸秩序こそ本体。
その割り切りがある。
「日本に必要なのは」
東條は地図を指した。
「資源圏、緩衝、鉄道、駐屯、対ソ封圧」
誠二は、海軍側の言葉との差があまりにも大きいことに、少しだけ笑いそうになった。
同じ日本なのに、出てくる単語がここまで違う。
そこへ阿南惟幾が加わると、さらに陸軍の中が二枚あることも分かる。
東條が国家と秩序を語るなら、阿南は兵と持久を語る。
「大陸は地図どおりには持ちません」
阿南は言う。
「持たない」
「兵站、駐屯、治安、損耗。面を取るのは簡単です。持たせる方が重い」
東條より、地上軍そのものの感覚が強い。
つまり陸軍も一枚ではない。
東條が国家の面を見ていて、阿南はその面を支える兵の重さを知っている。
「海軍は線を見てました」
誠二が言う。
「航路、油、港、補給」
「そうでしょう」
阿南は即答した。
「陸軍は違う」
「版図と駐屯ですか」
「そうです」
それで全部だった。
陸軍は地図を面で見る。
海軍は航路を線で見る。
同じ帝国の中に、二つの秩序観が並立している。
その理解が、誠二の中で一本の線になった。
神界へ戻った時には、重さの種類はまた変わっていた。
都市死でもない。
怨恨国家でもない。
神話化する大陸でもない。
もっと制度的で、もっと日本らしい重さだった。
同じ国の中に、二つの正しさがある。
しかもどちらも現実の一部を押さえている。
それが一番、処理しにくい。
報告区画へ入ると、リュシアは今日は最初から机に胸を乗せたまま、顎だけを上げてこちらを見た。
「おかえり」
「戻りました」
「今日は日本の顔」
「どういう顔ですか」
「面倒だけど、少し分かった顔」
誠二は少しだけ笑った。
「それなら、たぶんそんな感じです」
「で」
短く促されて、誠二はそのまま言った。
「海軍は未来を見てました」
「うん」
「でも戦艦の格も捨ててない」
「うん」
「それ好き」
「やっぱりそこなんですね」
「嫌な複雑さがある」
「かなりありました」
リュシアは小さく息を吐く。
「陸は」
「面です」
「海は」
「線です」
「そこ」
「はい」
「今日の芯」
「そう思います」
「いい」
短い。
だが、十分だった。
「東條は秩序を見てました」
誠二が続ける。
「阿南は、面を支える兵の重さを見てる」
「陸軍も一枚じゃない」
「そうです」
「海軍は」
「山本が現実を見て、井上が思想を整えて、小沢が艦隊を回して、山口が前で実装してる」
リュシアの目が少しだけ細くなる。
「綺麗」
「かなり」
「でも綺麗すぎない」
「そこが日本っぽいです」
「それ好き」
「今日はよく言いますね」
「好きだから」
机の端から小瓶が押される。
「今日の分」
「飲むんですね」
「飲む」
リュシアは自然に立ち上がり、誠二の隣へ来て座った。
もう確認はいらない。
それでも、肩が少し近いと意識はする。
その程度の自然さだった。
「はい」
グラスが渡される。
「お疲れ」
「お疲れさまです」
一口飲む。
隣から来る体温が、今日も少しだけ思考を人間側へ戻す。
「どこが一番残ってるの」
リュシアが訊く。
「金剛級です」
「金剛」
「英国の血統を持った高速戦艦が、アデンで日英協力の象徴みたいに動いてる」
「うん」
「しかも主兵は翔鶴・瑞鶴」
「戦艦の格と、空母の実務」
「そうです」
「それ好き」
やっぱりそこだと思った。
古い格を捨てない。
だが、新しい実務で動く。
しかも両方が現実に艦隊として成立している。
リュシアが反応しないはずがない。
「小沢がいるのも大きいです」
誠二が言う。
「未来を知ってるだけじゃなくて、回せる」
「うん」
「消耗しなかったから、それが残った」
「海軍は厚い」
「かなり」
少しの間、隣同士で黙って飲む。
「まだ少し沈んでる」
リュシアが言う。
「分かりますか」
「分かる」
「そんなに」
「今日は整理しにくい方」
「たしかに」
誠二はグラスを見ながら言う。
「どっちも日本のために正しいんです」
「うん」
「だから面倒です」
「そういうの、嫌でしょ」
「かなり」
「でも好きでしょ」
予想外の返しに、誠二は少しだけ笑った。
「俺もですか」
「拾うのは好き」
「否定はしません」
「知ってる」
短い。
だが、それで十分だった。
「今日は海の方で考えすぎてる」
リュシアが言う。
「寝る」
「はい」
「今日もいるから」
確認でもなく、当たり前のように言う。
昨日と同じ。
それがもう、少し嬉しい。
仮眠室へ向かう廊下は静かだった。
並んで歩く足音も、もう少し自然になっている。
部屋へ入ると、二つの枕が並んだベッドがある。
もうそれを見て立ち止まることはない。
意識はする。
だが、ためらいはほとんど無い。
リュシアは先に横になり、誠二もその隣へ入る。
肩と腕が軽く触れる。
昨日までと同じ。
少しだけ近いが、抱きしめるほどではない。
その距離が、今はちょうどいい。
「今日は海の方で考えすぎてる」
もう一度、リュシアが言う。
「そうですね」
「止めて」
「努力します」
「努力じゃなくて寝る」
「はい」
誠二は小さく笑って目を閉じた。
「リュシア」
「ん」
「今日も、ありがとうございます」
一拍だけ置いて、返事が来る。
「いい」
その直後、肩に触れる熱が少しだけ近づいた。
抱き寄せるほどではない。
だが、確かに寄ってくる。
それだけで十分だった。
日本は一つの帝国だ。
だがその内部では、陸は大陸秩序を、海は海洋均衡を見ていた。
どちらも正しい。
どちらも、日本のために動いている。
だからこそ面倒で、だからこそ本当だった。
その重さを抱えたまま、誠二は静かに眠りへ落ちていった。




