今日の魂は
「大作家の魂ねぇ」
死神はそう呟いて今日刈り取るべき人間の魂を見つめた。
リストに書かれている名前は確かに『大作家の魂』を差している。
しかし、目の前に居るのは暗いアパートで死にかけている中年の男性だ。
いや、おっさんか。
「人違いってことはないか」
今まで一度もなかった可能性に賭けようかと思ったけれどすぐにやめた。
魚は水の中でしか生きてけない。
炎は水をかけられれば消えてしまう。
そんな当たり前を『誤っている』なんて思うことは馬鹿馬鹿しい。
「つまり、あんたは」
眠るおっさんの上に乗り死神は呟く。
「諦めちまったんだ。夢を」
別に珍しいことではない。
宿っている才能を磨き切れず死んでしまう魂なんて。
「ま。仕事を終わらせるか」
呟いて無感情に死神は鎌を振り下ろす。
これでおしまい。
大作家の魂。
骸を一瞥して立ち去ろうとした死神はその傍らに落ちているノートに目がついた。
「汚い字」
そう呟き、少しして。
「でも、面白いじゃん」
全て無価値になった世界で感想を述べて死神はノートを放った。
こんな事。
腐る程あることだ。
死神はすぐに別の仕事にとりかかった。




