第5話「修道院パニック!純潔の地にダサT侵入!」
朝の空気は澄み、鐘の音が静かに響く。
聖なる修道院。心清き者のみが立ち入れる場所。
……その門前に立つ、ひとりの場違いな男。
勇者レン。
そして胸元には、神々が作った最悪の芸術作品。
『純愛♡100%コットン』
「……入る前から終わってる気がする……」
リナが小声で囁く。
「勇者様……本当にこの格好で行くんですか?」
「神装備だから脱げないんだよ!!」
「よりによって“純愛”とか書いてる服で修道院に入る人、初めて見ました……」
「俺だって初めてだよ!!」
門の前にいた見習いシスターが微笑んだ。
「ようこそ、巡礼の方……あの、胸の……」
「違うんです、恋愛的な意味じゃないんです!!!」
『清らかに抱きしめて♡』
「清らかじゃねぇぇぇぇぇ!!!」
中へ入ると、修道女たちが一斉に祈りをやめた。
空気が止まる。
「……あの服、何か光ってます……」
「“純愛♡100%”って……素材じゃなくて気持ちの話……?」
「神聖さが全部負けてる……!」
《スキル:場の空気(破壊)Ⅱ》
効果・聖域の雰囲気が一瞬で壊れる。
リナ「勇者様、視線が痛いです!」
レン「俺が一番痛ぇよ!!!」
Tシャツの文字がさらに変化する。
『恋は祈り♡信じる心で好感度UP』
「宗教巻き込むなあああああ!!!」
院長シスターが近づいてきた。
「勇者殿……あなたが神に選ばれし者というのは本当なのですね?」
「はい……服のせいで信じてもらえない勇者です……」
院長は神妙な顔でうなずいた。
「たしかに、試練としては……とても高度です。精神的に」
「そこは否定してくれぇぇぇぇ!!」
祈りの儀式が始まる。
静寂の中、蝋燭の灯だけが揺れて。
Tシャツが、光る。
『ご利益♡急上昇中!』
「お前、営業かよおおおおお!!!」
修道女たちは顔を真っ赤にして祈りを中断。
「神よ……あれを……なんとかしてください……」
「もう見てるだけで信仰心が揺らぐ……」
《状態異常:信仰ダウン》
最終的に、レンは修道院からそっと外へ追い出された。
「……勇者様……」
「わかってる……入場禁止だよな……」
門の上には、新しく看板が掛けられていた。
『※胸に文字のある者、立入禁止』
「ルールができたああああ!!!」
夜。野宿。
レンは焚き火の前でため息をついた。
「神様、俺に与えたのチートじゃなくて羞恥だよな……」
Tシャツの文字が変わる。
『恥は神の愛♡』
「寒いイイイ!!!」




