第1話「女神とダサTと絶望」
森の中に、男の絶叫が響いた。
「うわあああああああああ!! やっぱりダサいぃぃぃぃぃ!!!」
白いTシャツにピンクのハート。
胸には堂々と『I♡女神』。
しかも光る。ギラッギラに。
異世界の太陽光を全反射して、まぶしすぎるほど輝いていた。
そう、レンは異世界に来てもなお、ファッションの神に呪われていた。
「どこだよここ……森? てかこのTシャツ、光度高すぎるだろ! ステルス性ゼロだわ!」
レンは服を引っ張りながら涙目で呻く。
生地は高級感があり、触るとほんのり温かい。
だが、デザインは地獄。
《スキル:ラック1000倍 発動中》
「いや、発動してないで落ち着け!!」
叫んだ瞬間、木の上からバサッと鳥が落ちてきた。
そのくちばしには袋。中には金貨。
「……まさか、運が良くなるって、そういう……?」
レンは金貨を見つめた。
異世界通貨がざっくざく。
確かにラックは1000倍。だが見た目の評価はマイナス無限である。
ガサガサッ――!
茂みから、牙をむいた巨大イノシシが飛び出した。
体長三メートルの魔獣ボア。
「おいおいおい! 武器もねぇのに無理だろ!!」
突進。
《ラック1000倍 発動》
その瞬間、足元のバナナの皮(ご都合主義)から神々しい光が走りボアが見事にスリップ!!木に頭を突っ込み、気絶した。
「……勝った? いや、俺、何もしてねぇけど!?」
レンは呆然と立ち尽くし、ふと泥水の中を覗き込んだ。
そこには、胸のロゴがドヤ顔で光る自分。
「やめろぉぉぉ!! 勝手に誇らしげに光るなぁぁぁ!!」
ステータスウィンドウが勝手に開く。
【御堂レン】
職業:ダサT勇者
レベル:1
スキル:《ラック1000倍》《Tシャツチェンジ(柄変更)》
装備:Tシャツ・オブ・ワールド(世界樹繊維製・脱げない)
状態:眩しい
「……脱げないって何!? おしゃれの自由はどこ行った!!」
地面を転げ回るレンの前で、《Tシャツチェンジ》が光る。
《デザイン変更が可能です。選択してください》
光のパネルに並ぶラインナップ。
①『筋肉100%』タンクトップ風
②『今夜も徹夜』学生プリント風
③『I♡女神2』ピンク→金色グリッターVer.
④『WORLD DOMINATION』ロゴ入り黒シャツ(※強そうだが裾にハート付き)
「いや、④だけ一瞬カッコいいと思ったけど! 最後のハートで全部台無しなんだよ!!」
その時。
「……あなた、何者ですか?」
木の陰から声がした。
現れたのは、ボロマントをまとった少女。腰に剣。いかにも冒険者だ。
レンを見るなり、目を見開く。
「まさか……その服装……!」
「見ないで! 頼むから見ないでぇぇぇ!!」
必死に胸を隠すレン。
だが少女は感動したように両手を合わせた。
「それ……神々に選ばれし勇者だけが着られる聖衣!」
「やめろぉぉぉ!! そんな誤解は痛いほど重い!! 俺はファッションリーダーであって信仰対象じゃねぇぇぇ!!」
レンが叫ぶたびに、Tシャツはさらに眩しく光を放つ。
《スキル:周囲のモンスターが逃げ出しました》
「……あれ? もしかしてこれ、強いけど……ダサすぎて敵が逃げるタイプの装備……?」
レンは空を見上げ、涙をこぼした。
女神のセンスは、たぶん宇宙でも最低だ。
「……あ、私はリナと申します。勇者様」
少女が微笑む。
レンは泣きながら言った。
「勇者レンです……よろしくお願いします……!」
「街まで同行いたしますね、勇者様!」
レンは地面に土下座しながら、声を震わせた。
「ありがとうございます……! でもまず、服を……どうにかしたいですぅぅぅ!!」




