プロローグ「世界で一番おしゃれな死に方」
御堂レンは、今日も決まっていた。
銀色のイヤーカフ、無造作ヘア、胸元には最新ブランドのアクセ。
通りを歩けば女子高生が振り返り、男たちはため息を漏らす。
彼は、かつて“日本一おしゃれな男”と呼ばれた。
雑誌の表紙を何度も飾り、SNSフォロワーは百万超。
キャッチコピーは「服で人を救う男」。
彼の名言「人は服を着るんじゃない、服に愛されるんだ」は今でもネットで名言扱いされている。
そんな完璧なレンにも、唯一の敵があった。
ダサい服だ。
彼はそれを“存在してはならない災厄”と呼んでいた。
無地のTシャツを見ると鳥肌が立ち、量販店の服売り場を通ると呼吸困難を起こす。
それほどまでに彼はファッションに命を懸けていた。
だがその日、運命は突然ステージを変える。
「撮影、あと一本か……。腹減ったな」
スタジオを出た瞬間、彼の視界に巨大なトラックが映った。
荷台には、大量のダサいTシャツ。
『I♡DOG』
『NO MUSIC NO LIFE』
『筋肉増量中☆』
レンは反射的に叫んだ。
「センスぅぅぅぅうううううう!!!」
その声を最後に、彼は飛び散る蛍光プリントとともに天へ召された。
「……ふわ……。ここ、どこ?」
目を覚ますと、そこは真っ白な空間。
そして目の前には、光に包まれた美しい女神が立っていた。
女神は微笑みながら言う。
「あなたは選ばれし者。異世界へと導かれる運命の人です」
「マジで? 異世界転移? 最高じゃん!」
レンは立ち上がり、笑顔でポーズを取る。
「もちろん俺、勇者だよね? クールな鎧とかある?」
女神は頷いた。
「ええ、あなたには特別な装備を授けましょう」
彼の胸が高鳴る。
そう、黄金の鎧でも、漆黒のマントでもいい。
おしゃれならなんでも。
だが、女神の手から差し出されたのは
「Tシャツです」
白地。蛍光ピンクの文字。
胸には大きく『I♡女神』。
背中には『LUCK×1000!!!』袖には星とハートの刺繍。
……ダサい。
見た瞬間、彼の脳が拒絶した。
「……なにこれ?」
「神装備、“Tシャツ・オブ・ラック∞”です」
「……神、センス皆無……?」
女神はキラキラと笑った。
「これを着るとあなたの“ラック”が千倍になります! 運がすべて味方します!」
「いやいやいや、見た目が敵すぎるだろ!!!」
レンは叫んだ。
だが次の瞬間、女神の杖が光り、身体が浮かぶ。
「では、いってらっしゃい。新世界へ!」
「まって! 黒いの! 黒いTシャツにしてええええ!!!」
まばゆい光。
そして、草と風の匂い。
「……森……?」
レンは立ち上がり、全身を見た。
白い布地、蛍光ピンクのロゴ、背中に風にはためく『LUCK×1000』。
「ダサーーーーーーいッ!!!」
鳥が飛び立ち、森が震え、近くのスライムが逃げた。
《スキル【ラック1000倍】発動》
地面が光り、スライムが石につまづいて爆発した。
「……強い……でもダサいぃぃぃ!!!」
森に響く泣き声。
その日、“ダサTを着た勇者”が誕生した。
彼の冒険は、世界一おしゃれな絶望から始まる。




