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あるバスケサークルからのお便り

作者: 佐倉青空

 ひとつ、またひとつと読み進めていくたびに頭がどうにかなってしまいそうになる。怖いはずなのに、もう心が麻痺してしまっているのだ。いつか鬱状態にでもなってしまうんじゃないだろうかとも思ってしまう。


 ラジオ局は私の幼少期からの夢だった。父が買ってくれたラジオをずっと聴いていた。声だけで面白さや感動を伝えられるその仕事に心から尊敬していたのだ。


 私が有名な大学を卒業して、ラジオ局に入社が決まったとき、一番に喜んでくれたのが父だった。あのときの笑顔が忘れられず、この仕事を辞められないでいる。


 私がやっている仕事は、お笑い芸人がパーソナリティを努める『おにぎりクラブの怪談話』という番組。そのラジオ番組で使われる、視聴者からのホラー体験が書かれたお便りの選別だ。芸人が視聴者が体験した怪談を面白おかしく伝えるのでかなり人気がある番組だそうだ。


 芸人が読んでいるお便りは少し怖いぐらいのものが多い。本当に恐ろしいお便りや写真が一緒に送られてくるようなお便りは番組には出さない。私が事前に振り分けるからだ。


 休憩室の扉が開く。入って来たのは、私が入社した頃からお世話になっている男の先輩だ。先輩は両手に大きなダンボールを抱え、私が仕事をしている机の下にそのダンボールを置いた。


「櫻井さん、このダンボールは再来月分だから。ゆっくり無理せずに仕事してね」


 先輩は私に声をかけて休憩室を後にした。


 再来月分だから、来月には終わらせてねということだろう。考えがどんどん悪い方向に傾いてしまっているのがよく分かる。


 私は大きなため息を吐いて、次のお便りを開いた。


『東京都 世田谷区在中 ラジオネーム 平日も寝転びたいパンダ』


 おにぎりクラブさん、こんばんは。

 私は大学に通っており、先月から夏休みに入ったのでサークルで心霊スポットに行ってきたのですが、その心霊スポット少し気味が悪かったんです。


 私たちは、バスケサークルの夏休みの活動として、東京都の八王子にあるトンネルに七人乗りというかなり大きめの車を借りて行きました。持ち物は、懐中電灯ニつのみ。近くの駐車場に車を停めて、トンネルの中央までみんなで歩いて帰ってくるという簡単なものです。私のサークルは十五人で活動しており、今回は予定の空いていた六人になりました。今年からサークルには女子のマネージャーなどもいたため、去年よりは少し緩和されたらしいのですが、問題が起こったのはトンネルの中央まで行って、来た道を戻ろうとした時でした。


 サークルメンバーの女子が急に悲鳴をあげて、入口の方向へ走って行ってしまったのです。残ったメンバーは彼女を追いかけるように、薄暗いトンネルの中を息を切らしながら走りました。足元は雨も降っていないのに、びちゃびちゃと水の跳ねる音が聞こえ、身体中に纏わりつく湿気が気持ち悪く、今思い出すだけでも吐き気がします。


 幸い彼女は入口のところで泣きながらうずくまっており、無事に見つかったため一同は安堵していました。サークル長が彼女の元へ駆け寄って背中をさすると、彼女は嗚咽混じりに話し始めました。


『う、腕を。腕を誰かに掴まれたんです……』


 サークルメンバー全員が彼女の右腕を見ると、そこには誰かが彼女の腕を掴んだ後がありました。

 その跡が真っ青になっており、彼女も酷く怯えた様子から私たちも次第に恐怖を覚えるようになり、私たちは急いでこの場所から離れることにしました。


 駐車場に戻り、サークル長から全員が揃っているか確認を頼まれた私は、助手席に乗り込んだ後に全員が揃っているか、全ての席を確認した後、私たちはその場を後にしました。


 その場所を離れるまで私たちは一言も話さないまま、静寂に包まれていました。全員怯えていたのが空気感で伝わっていたからです。


 腕を何者かに掴まれた彼女は、二列目でサークルメンバーに背中をさすられていました。


 その後、何か食べる物を買うためコンビニに車を停めた私たちは、車体の外に出て休憩を取りました。


 私はそこで異変に気づきました。先ほど七人全員がいたのに、今は六人しかいないのです。

 私がサークル長にそのことを伝えると、彼は怪訝な顔をするのです。


『え、、今日来てるメンバーは六人だぞ。何を見たんだよお前』


 私が見た七人目のメンバーは誰だったのでしょうか。お祓いを済ませた後も未だ分からないでいます。


 最後に私が撮った写真を添付しておきます。



 最後に添付されたのは、トンネルの中で撮られた写真と腕を掴まれたであろう女性メンバーの腕の写真でした。

 トンネルの中の写真では一人の男性が映り込んでいました。


 私は、もう一度大きくため息を吐いてパソコンをパタンと閉じる。背中を冷たいものが伝っていく感覚で身震いした。読み終えた後も手の震えが止まらない。写真の男性がまだこちらを見ているようで、私は思わず後ろを振り返ってしまいました。


 後日ラジオスタッフと調べた結果、視聴者が訪れたトンネルは近くに霊園があり、男性の幽霊が現れるという噂が絶えない、地元では有名な心霊スポットだったようです。


 皆さんも心霊スポットに訪れる際は、充分な注意を心がけましょう。そのときの体験談などを当局に送っていただけると幸いです。

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