表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

第4章 祖母の遺書

第4章 祖母の遺書


 次の日私は何事もなかったように仕事に行った。

雪野はやはり話すべきではなかったのではないかと気にしてくれた。

「ごめんなさい・・・余計なことを調べたばっかりに・・・」

「いえ・・・真実を知ってよかったです。」

「そう・・・どうする?あなたの疑問もう少し調べる?それともこれで打ち切りにする?」

「調べてもらって感謝しています。これからもよろしくお願いいたします。」


「実は・・・御茶の水 洋さんのことも調べたの・・・・。」

「そうなのですか・・・」

やはりプロの探偵社だけあって迅速に調査が進む。


「ねえ、またコーヒーでいいかしら・・・」

「ありがとうございます。でもやっぱり先輩にいれてもらうのは申し訳ないので、私がつくります。」

私は2杯のコーヒーを入れ、砂糖もミルクも入れずに雪野先輩に渡した。私はいつもの通り、砂糖1つミルクを1つ入れた。コーヒーを飲みながら雪野の話が始まる。


「まあこれを読んでみればわかるけど、結論から言うとあなたの元彼、御茶ノ水 洋さんは海外転勤をしました。今も1人暮らししています。ちなみに会社にもこどもができたとか、奥様と籍を入れたなという話はありません。」

やっぱりそうだった。彼は元彼女のことで私を捨てたわけではない。少しだけほっとした。


「つまり・・・元彼女の話は作り話のようです。」

「やっぱりそうだったのですね・・・」

あの時は突然で何が何だかわからなくてカーッとなったけど。冷静に考えるとこんな別れ方おかしいと思った。だとするとなにか本当に結婚できない事情ができたのかもしれない。その理由を私には言えないのでとっさにうそをついた。これは祖母が関係しているような気がする。

「おばあさまとあなたのご両親はあなたがおばあさまの子であることをひた隠しに隠してきた。あなたの彼はそのことを知った・・・・でもそれって結婚を反対する理由にはならないわよね。反対する理由がわからなければ別れる理由がおばあさまが原因だという確証はないわ・・・ところでさ・・・あなた彼と婚約が決まった時にお相手のご両親とは会ったの?」

「ええ・・・でもお母さんはお亡くなりになっていたからお父さんとだけ。お母さんは彼が3歳のころ亡くなったって聞いています。」

「じゃあそれから20年以上も、彼を父親が一人で育てたのね・・・彼と会って真相を聞いてくるのが一番早い?」

「いいですか?そうしてもらえると嬉しいですが、アメリカまで行くのですか?」

「そうねえ」

「よろしくお願いします。」

次の日探偵社のもう一人の社員小早川 あきがアメリカに旅立った・・・


私はその日の夜、また同じことを繰り返しておもいをめぐらせていた。

結婚に反対する理由って何だろう?彼がそれを聞いてあっさりあきらめる理由ってなんだろうか?そしてそれが私に言えない理由。つまり私のことで何か都合が悪い??私はずっと考えていた。


「まてよ・・・まさかと思うが・・・彼も祖母の子どもだとしたらどうだろう・・・突飛すぎるがそうだとすれば私たちは兄弟になる。3歳の時死んだと思っていたお母さんが実は祖母だったとか・・・そのことを彼に話した。だとすれば彼は私との結婚をあきらめるしかない・・・私のショックは大きすぎる・・・」

と途方もない推理を展開する。


自分で思いついた推理ではあるが、すぐ打ち消した。それはありえない。以前彼が私に話してくれたことがある。お母さんが病院で亡くなったときまだ3歳だったが、亡くなったときのことは鮮明に覚えているよって言っていた。悲しくてずっとお母さんから離れなかったって・・・お母さんは彼の目の前で亡くなっている。それが祖母であるはずがない・・・


 それから3日して小早川がアメリカから帰ってきた。彼に会ってきたようだ。これでなにもかもはっきりする。私はドキドキしながら小早川の報告を聞いた。

「おかえりなさい。つかれたでしょう?でもご苦労ですがそのまま和泉さんに話してください。」

そのまま話してくれとはすでに雪野にはメールで報告が入っているのだろう。私はコーヒーを3つ入れた。小早川にありがとうございます。とお礼を言ってコーヒーを差し出した。


そして小早川は私に彼との話を報告してくれた。

「御茶ノ水 洋さんってとてもしっかりされていて感じの良い方ね。まず『スミレさんは元気ですかって?』心配されていました。『あなたのこととおばあさまのことで気落ちしていましたが、今は本当に元気です。』そうお伝えしました。」

「ありがとうございます。」

「まずは元彼女が妊娠しているというお話は嘘だそうです。なぜうそをついたかというと自分のところにおばあさまが訪ねてきて『結婚を解消してほしい』と言ってきたそうです。『理由を聞いて私も驚きましたが私としても納得するしかなかった。』ということです。

私はおばあさまがお亡くなりになったということとすみれさんがすでに自分の実の母親がおばあ様であることを知っています。と申し上げました。すると彼は『おばあ様はやっぱり亡くなったのですか?』とおっしゃっていました。」

「『やっぱり』って言ったのですか?」

「ええ・・でも理由は自分の口からは言えないとおっしゃるのです。なぜならおばあ様から黙っているように堅く言われ約束したそうです。『私からすみれにはきちんと話すから、時期が来るまで内緒にしてほしいと・・・』

そうは言ってもおばあさまは事故で亡くなられています。『今後おばあ様から聞けないのですよ。』と申し上げました。」


「おばあ様はすみれさんの誕生日の3月25日まで黙っていてほしい。全ての事情を彼女に話します。たとえこの世から私がいなくなったとしても約束を守って欲しいのです。あの子の誕生日まで黙っていてください。そう言われて話してくださいませでした。しかし、彼女の誕生日が過ぎましたら、全てお話しします。」


「あの?おばあ様は彼に『たとえこの世から私がいなくなっても・・・』」

てそう言ったのですか?

「御茶ノ水 洋さんははっきり言いました。もし『私がいなくなったとしても』とところから、おばあさんは自分がなくなることを前提に言っています?つまり、自ら自分の命を絶とうという覚悟をしていたのかもしれません。」


「やっぱりおばあ様は自分で命を断ったのでしょうね。あなたの誕生日あと2日だけと、それまでは調査はお休みします。」雪野はそう私に言った。

「でも祖母がなくなってしまった。何もわからないじゃないですか・・・・」

「そこなのだけど、あなたの誕生日に何かプレゼントが贈られるのでは?そこにおばあさまからのメッセージがあるのかもしれません。」

「ああ・・・私の誕生日に祖母はすみれの花束を贈ってきます。」

「それだわ!今年もお花屋さんに配送を手配しているのよ。」

「そこに祖母からのメッセージがあるのかしら?」

「おそらくそういうことで・・・誕生日過ぎても何もなかったらその時は、彼にもう一度確認すれば良いわけだから・・・」

そして3月25日になり、私は雪野の言葉通りその日はお休みをいただいた。午前中にすみれの花束が届いた。むらさき色のきれいなすみれだ。すみれの花言葉は『小さな幸せ』

雪野の予想した通り私宛のメッセージつまり遺書が届いた。


すみれちゃん、あなたがこのお手紙を読んでいる時、もう私はこの世にはいないと思います。すみれちゃんが生まれたときお庭に一面のすみれが咲いていました。きれいだった。すみれの花言葉は『小さな幸せ』いままで確かにあなたは私の子どもだったけれど、生まれた瞬間にあなたは私の孫になった。あなたの名前『すみれ』はおばあちゃんが名づけました。


ごめんなさい・・・突然びっくりするようなことを言いますが、あなたのお母さんはおばあちゃんなんです。すみれちゃんはおばあちゃんがおなかを痛めて産んだ子どもです。あなたのお母さんは子どもが産めない体だったのです。どうしてもお父さんと自分の血のつながった子どもがほしいという希望であなたには理解できないことですが、お母さんの代わりにおばあちゃんがあなたを産みました。


おばあちゃんにとってあなたは、かけがえのない宝物でした。あなたと一緒にいることが一番の幸せでした。あなたのそばにいることが私の幸せでした。でもあなたが成長するにつれとても恐ろしいことに気づいていきます。あなたはあなたのお父さんには全然似ていない。あなたは私がそれまで愛していたある男性にだんだん似てきました。私はあなたのお母さんの代わりに妊娠をする直前に愛する人がいました。その男性は奥様に先立たれ5歳の男の子をひとり親で育てているかたです。お互い配偶者に先立たれておるのでとても気が合いました。私はその5歳の男の子のお母さんとしてこれから生きていこうかと考えていました。


そうあなたは私とあなたのお父さんとの間にできた子だとしか思っていなかったのですが、よくよく考えてみるとその方の子どもであってもおかしくはありません。私はその方には『5歳の男の子の母親としてやっていく自信がない』とだけ言ってもちろん私が妊娠していることなどは告げずに別れました。


 今思えばその方をひどく傷つけてしまったかもしれません。また少しずつなつき始めた幼い男の子を見捨ててしまった悪い女です。しかし忘れてしまった幼い男の子の名前が私の前に浮上してきました。御茶ノ水 洋君、そうひろし君ひろし君とかわいがっていましたし、苗字が珍しいですから間違えありません。私はあなたから婚約者の名前を聞いたときあまりのショックに気を失いそうになりました。しかしどうしてもこの結婚は断念してもらうしかありません。


私はひろし君に私の母子手帳と私とひろし君とお父さんの3人が写っている写真を見せに行きました。ひろし君は5歳だったのでおぼろげに私のことを覚えていました。自分の幼いころの写真と父親の名前の書いていない母子手帳を見せられてすべてを受け入れるしかなかったのです。


 彼はつめよりました。「私の父はこのことを知っているのですか?」

「いえ何も知りません。」

正直に答えるしかありません。

「それって父に対してもひどい話ではないですか?」

「ひどいと思います。こうなってしまったらあなたのお父さんにもないもかもお話しします。またすみれも何も知りません。いずれはなさなければいけないと思うのですがきちんと私から話します。ですから誰にも言わないでください。」

「そんな・・・」

「私の方ですみれのお誕生日の3月25日に何もかもお話しします。それまで秘密にしてください。」

わたしはひろし君にそう頼みました。

私はそれから遺書を書きました。それがこの手紙です。すみれの花束とこの手紙を一緒に3月25日に届けてほしいと花屋さんに注文しました。私は罪深い女です。あなたのお父さんもお母さんも悪くない。ひとえに私が罪人なのです。私は死をもって償います。


すみれちゃん・・・すみれの花言葉は「小さな幸せ」です。どうぞ幸せになってください。おばあちゃんはあなたの幸せを遠いところで見守っています。


私は祖母の手紙を読んで涙を流した。

いいのに・・・いいのに・・・そりゃあ彼との別れはショックだけどおばあちゃんがなくなる方がずっとショックなのに・・・生きていてほしかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ