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第2章 出会いと別れが交差する

第2章 出会いと別れが交差する


失恋の痛みも癒えていくと逆に何もすることのない毎日の方がつらくなってくる。やっぱり仕事をすることが一番いい。仕事を探すのだからまずはハローワークに行く。本当ならば前の職場に戻りたいといえば知り合いもいるし戻れるかもしれない。それなりに仕事をこなしていたのだから暖かく迎えてくれるに違いない。しかし寿退社をして送別会までしてもらって今更戻れるわけはない。おそらく親しい友人にだけは婚約解消の話はしてあるのでなんとなくうわさで伝わっているはずだ・・・


 心機一転で新しい仕事を始めるのもいいだろう。まだまだ若いしチャレンジ精神は持っている。そんなとき思いもかけない知人に出会った。

「あれ?和泉 すみれさんじゃない?」「あれ?雪野先輩ですね!」久しぶりだった。今まで働いていた職場の先輩で自分に一から仕事を教えてくれた大好きな先輩だった。わたしよりも一足先に会社を退職して自分で会社を立ち上げていると聞いている。


「すみれさんどうしてここにいるの?」

「実は・・・会社を退職して・・・」

私は大好きな先輩に今までのいきさつを全部話した。

「それで、ここに仕事探しにきたわけです。ところで雪野先輩は?」

「私は、求人でも求める方、会社が軌道に乗ってきたので受付ができる女性を探しているの。どう?よかったら私のところに来ない?」

そうか・・・ハローワークは仕事を探す人だけじゃないのだ。

「本当ですか?」

私としては大好きな先輩の下で働けるなんてこんないいことはない。

「じゃあこれ。」

と名刺を渡された。


ゆきの探偵社

代表取締役 ゆきの ひろみ

とかかれていた。

「探偵社か・・・」

「依頼者の接客が主な仕事、あとは書類の整理とか慣れてきたら調査もお願いしたいけど。」

「へ~なんかおもしろそう。」

「そう・・・例えばあなたが今はなしてくれた話、彼の相手はどんな人か?・・・なんて調べるのはお手のものよ。もちろんそんな依頼しないと思うけど。」

「ありがとうございます。今からでも働きたいのですがどうすればいいですか?」

「明日どう?ここに来られる?形ばかりの面接をするから。」

「よろしくお願いします。」


明日面接ということだがあの口ぶりだと決まったようなものだ。偶然の出会いは自分の人生を変える。まさに彼と出会ったのも新しい人生、先輩と出会ったのも新しい人生だ。

出会いはいつでも偶然のなせるわざ・・・わたしは雪野先輩と出会ったことでこれからの人生がよい方に変っていくと確信した。


 久しぶりに笑顔が戻った。新しい人生のスタートが始まるとワクワクしていた次の日のことだった。思いもかけないことが私の身に降りかかる。


朝早く母が朝6時に私を起こしに来た。

「どうしたの?こんな朝早くから?」

「大変なの?おばあちゃんが沼に落ちて亡くなったの・・・」

えっ?私はあまりのショックに体が震えた。私はこどもの頃からおばあちゃん子ですごく大事にされて育った。父も母も働いていたので、祖母と一緒に過ごすことが多かった。だから、普通のおばあちゃんよりもずっと愛情が深かったと言える。

そんな祖母が川に転落して命を落としたという。そんなこと信じられない。祖母と言ってもまだ60代と若いのだ。うっかり川に転落してしまうような年齢ではない。私は信じられなかった。


私は父や母と一緒に食事もせずに警察に行き、祖母の亡骸を確認しにいった。

年配の警察官が出迎えた。

「沢崎 幸子さんのお身内の方ですね?」

そう私の祖母は 沢崎 幸子という。

「はい、お電話をいただいて確認に参りました。娘にあたります私が和泉 彩と申します。こちらは私の主人和泉 茂、そして私の娘の和泉 すみれです。」

「わかりました。警視庁の咲田といいます。どうぞこちらへ」

警察の中の霊安室に案内されておそるおそる祖母と対面をした。


間違えなくそこに眠っていたのは祖母だった、

「おそらく転落事故と思いますが、念のため確認したいのですが、何か自殺をほのめかすような遺書あるいは何か言動があったとかありますか?」

「いえ・・・自殺をするようなことは何もないと思います。いつも明るく元気でしたから。」そう、確かに何も祖母に変わったことはなかった。もちろん自殺するなんて考えられない。しいてあげれば私の結婚にものすごく反対していて結婚しないでほしい、アメリカに行かないでほしいと泣いていたことを思い出したが、結果的に私の恋は終わったのだから、祖母が自殺をする理由にはならない。


そうあれから会っていなかった。つまり私にとって祖母が、私の結婚を反対して泣いていた姿が生きている祖母の最後の姿だった。「おばあちゃん・・・」今度は私がおばあちゃんに思いっきり泣きじゃくることになる。


そんな私にお構いなく咲田は重ねて質問をしてきた。

「これは聞きづらいことなのですけども。おばあ様が何か人に恨まれるそんなことはなかったでしょうか?場合によっては他殺の件も考えられますので・・・」

その質問に対しては母も大きく首を横にふった。私にとってはやさしいおばあちゃん、そんな祖母が人から恨まれることなどあるはずがない。

「現場検証したところ争った後、もしくは他殺をほのめかすようなものは一切ないので、まあ、他殺の線はないと言い切って良いかと思います。」

私たちは警察官の話にうなずいた。


そうなるとやはり事故と断定するのが妥当かと思います。念のため、おばあさまのご自宅のお部屋の方を整理していただき、遺書がないかどうか確認していただければと思います。

「おなくなりになったお母様は68歳ということですが、お嬢様はおいくつですか?」

「私は48歳です。」

「そうですか・・・」

そう警察官が念を押すのも無理もない。そう68歳で28歳の私という孫がいる。母は祖母が20歳の時のこどもなのである。祖母と母ははたからみると姉妹のように見える。

「ところで・・・お母様は一人暮らしですか?配偶者の方は?」

「はい、私の父はもう30年くらい前に亡くなっています。」

「そうですか。よくわかりました。わかりました念のためご遺体を預からせていただき明日にはご自宅にお帰りいただけるようにいたします。」


咲田という警察官はなぜかしばらく考え込んで、何か思い出したように母に尋ねた。

「ひょっとしたら・・・あなたのお父さんはオリンピックの補欠選手になった沢崎啓介さんではないですか?・・・で・・・そうだ!あなたは中学生の時3kmの県体記録を塗り替えた沢崎 彩さんですね?」

母の旧姓は沢崎だ。

「はい・・・」

私は目を丸くして聞いていた。全く耳にしたことがない話を咲田と母は会話をしている。


「いや~わたしも陸上をやっていましてあなたのお父さんの沢崎 啓介コーチに指導を受けたことがあるのですよ。私はモノにはならなかったですが・・・あなたのことはよく覚えていますよ?あなたが中学生のころお父さんのコーチ受けていました。」


母は照れ臭そうにうなずいていたがやはり母の死で動揺しているのだろう。昔を懐かしむゆとりはなかった。それを見て咲田は余計なことを言ってしまったといわんばかりに、

「このようなときに大変失礼いたしました。何かありましたら私のところにご連絡ください。」

私たちは一礼をして霊安室を出た。


私にとって知らないことがたくさん話されていた。私は祖父のことは私が生まれる前に亡くなったと聞いていたがどんな人なのか聞いていなかった。オリンピックの補欠と言っていたがなぜそのようなことを私に言わないのだろう。それどころか母自身が中学時代陸上をやっていたことなど知らなかった。中学生の県体記録を塗り替えたのに娘の私に言わなかったのはなぜだろう?


私は帰り道父と母にこのことを訪ねた。

「ねえお母さん?私のおじいちゃんのことだけど・・・なん私に教えてくれなかったの?それにお母さんだって陸上やっていたことも知らなかった。」

「ああ・・・黙っていてごめんね。確かに中学ではずば抜けていたけどそれからさっぱりだったし、けがをしてあきらめるしかなくなったので、私にとって陸上はあまりいい思い出ではないの。」

「お父さんは知っていたのでしょ?」

「ああ・・知っていたよ。お母さんは中学時代おじいちゃんにコーチを受けながらマラソンの選手として成長していった。でもアキレス腱を痛めて陸上ができなくなってしまった。お母さんはかなりつらい思いをしたんだ。だからすみれには話したくなかったんだよ。まさかおばあちゃんを担当してくれた警察官がおじいちゃんから指導を受けていたとはすごい偶然だよね。」

「そうなの?で・・・今は走らないの?お母さん?」

「走れない・・・」どうやらあまり思い出したくないことを思い出させてしまったようだ。「ねえすみれ?この話はもうしないでね。」

「わかった。お母さんが思い出したくないならもう聞かない。」

そう言って私は父と母の顔を見比べるように見た。なにやら二人は気まずそうにしている。私は直感的に感じた。二人は私に何かを隠していると・・・・

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