選別目前
大聖堂の大広間にある選定会場に着くと長蛇の列ができていた。
「クソ、会場についてもまだ待つのかよ!」
長い時間をかけて聖都まで来ていたカインは更に会場でも待たされることになりイラつき始める。
魔王への復讐を掲げるカインにとって今日は、場合によっては復讐を諦めることになる日である。
その為内心気が気でなく、この苛立ちは人生の分岐点に向かうことへの焦りからくるものだった。
「まぁまぁ、そんなに焦らなくても。見た感じ一人一人は短く終わるみたいだし、僕たちの番もすぐに来るよ」
苛立っているカインをクリアがなだめる。
クリアは直接的な魔王への恨みが無いからか、カイン程聖剣を欲してはいなかった。
むしろカインが聖剣に選ばれて、自分はその隣に居れればそれでいいと思っていた。
だからか焦りや緊張というものはあまり無く、普段とあまり変わらない様子でありなんなら聖都に初めて来たことの方にワクワクしていた。
「ちぇ、分かったよ」
カインは仕方なく自分の番が来るまで大人しく待つことにした。
自分達の番が来るまで二人は周りの人間や先に選定を受けた人を見ていたが、ほとんどの人間が聖剣を欲している様子ではなかった。
むしろ先に選定を受けた者の中には自身が選ばれなかった事に安心している者も大勢いた。
これから選定を受ける者も、聖剣に選ばれたくない様子の者がほとんどだった。
確かにここにいるほとんどの人間が魔族と戦ったどころか見たこともない一般人である。
そんな人間からしたら半ば強制的に招集され、選ばれたら問答無用で魔族との戦いに駆り出される聖剣は手にしたくない代物だろう。
むしろカインの様に積極的に選ばれたいと思っている者は少数派であり、なんなら馬鹿にして気味悪がる者もいる始末である。
基本的に周りの人間の事や自分に向けられる視線に興味の無いカインだが、思った以上に魔族と戦おうとする人間が少なかったことは少しショックだった。
「珍しいね、カインが他人のことを気にするなんて」
カインがショックを受けていることに気付いたクリアが、からかう様に話しかける。
「別に暇だったから観察してただけだよ……ただ思ったより俺らみたいな奴は少ないんだなって」
「確かに、僕ももう少しは聖剣を欲しがる人がいると思ってたよ」
聖剣を欲しがり魔王を倒そうとする人間の少なさに二人がショックを受けているうちに、もうすぐカインが選定を受ける番になっていた。
「次の者、入れ」
聖騎士団の団員と思われる男が感情のこもっていない声で指示してくる。
(やっと来た。絶対に俺が聖剣を手にしてやる!)
カインはやっと自分の番が来たと、緊張と高揚が混じった状態で案内された部屋へと入っていく。
「頑張ってね、カイン」
入る前にクリアが声をかけたが、カインの耳には届いていなかった。