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「黒い人間」

無我夢中で二人は森の外へと走り続ける。

 しかし普段誰も近づかないような森なので当然、道という道はなく足元は草や木の根だらけであり走っていてもあまり前へと進めなかった。

 それでも二人は背後から押し寄せてくる強烈な殺意から逃げるため必死に走り続ける。

「痛っ!」

 逃げている途中でクリアが木の根につまずいて転んでしまう。

「クリア!」

 カインは足を止め、クリアの元へと歩み寄る。

「まだ走れそうか?」

「うん大丈夫、転んだだけだから」

「良かった、なら急ごう!」

 クリアを起こして走り出そうとしたその時、カインの視界の端にどす黒いオーラを放つ人影が映り込む。

(追いつか……)

 その人影に気づいたその瞬間カインの全身に痛みが走りぬける。

 気が付くと一瞬で十メートル程先にあった大木に打ち付けられていて、体中のありとあらゆる骨が

折れているのがわかった。

「うぁぁぁぁぁぁぁ!」

 遅れてやってきた強い痛みが体内に駆け巡り、カインは思わず叫びだす。

「カイン!」

 遠くからクリアの声が聞こえるが、体中の痛みで上手く聞き取れない。

 全身の強烈な痛みに悶絶しながらカインは自身を吹き飛ばした『ソレ』に目を向ける。

 そこには、一人の人間が立っていた。

 いや、確かに人の形をしているが人間とは言い切れない何かが立っていた。

『ソレ』は普通の人間とは違い体は黒く変色しており目は赤く光っていて、その上体中から黒い魔力の粒子を放出していた。

(なんだこいつ……、魔族なのか?)

「こっちだ化け物!」

 声のする方に視線を向けるとクリアが『黒い人間』に向けて剣を構えていた。

 だが恐怖からか剣は震えており腰も引けている。

「どうしたこないのか!」

 それはクリアの精一杯の虚勢だった。

 その虚勢に反応し、『黒い人間』はゆっくりとクリアの方に体を向ける

「ハッハハ……かかって来いよ」

 完全に体をクリアに向けた瞬間に『黒い人間』は目にも止まらぬ速さでクリアに突っ込んでいく。

 その速度のままクリアの腹に蹴りを入れて吹き飛ばした。

「カハッ」

 クリアは近くの木に衝突し、内蔵が潰れたのか血を吐きだした。

「て、てめぇ……」

 クリアを蹴り飛ばした『黒い人間』は体を反転させ、カインの方に歩いてゆっくりと近づいてくる。

(クソが! こんな所で死ぬのか俺は……)

 すぐそばまで来ると、『黒い人間』は倒れているカインの首を掴み持ち上げた。

「……殺すなら、さっさと殺せ……」

(父さん母さんごめん。俺二人の仇取れそうにないや……)

 カインは死を悟りそっと目を閉じる。

「やめろぉ!」

 カインが目を開くとクリアが右手を前に伸ばしており、伸ばした手の先には白い魔法陣が浮かんでいる。

「……カインを、離せぇ!」

 その瞬間魔法陣から白い光の帯が放出され、『黒い人間』目掛けて一直線に進んでいく。

 『黒い人間』はカインの首から手を離しガードの体勢をとるが、そんなもの意味はなく白い光に触れた瞬間に跡形もなく消し飛んだ。

「……なんだ、今の……」

 カインは目の前で起きたことが理解できずにいた。

 それは、クリアも同じようで右手を前に出したまま固まっている。

「おい、クリア! さっきの光の魔法は一体……」

「……僕にもわかんない。何だったんだろうさっきの……」

 何が起きたのか分からないままだが、二人は全身のダメージで動くことができずにその場で意識を失った。



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