森の中で
草木が生い茂り、人が通った後など全く無い暗い森の中。
「やっぱ帰らない。道場も休みたくないし」
「一日くらいサボっても大丈夫だって。それに魔王倒そうって奴が、森に出る程度の魔族くらい倒せなくてどうすんだよ」
「でも、子供だけで……」
カインは、あまり乗り気でないクリアを連れて道場をサボって街の外れにある森へとやって来ていた。
「大丈夫だって、こいつもあるし」
カインは、腰にぶら下げている剣を誇らしげに掲げる。
二人は森に来る前に屋敷の倉に忍び込み、普段使っている木剣ではない鉄製の剣を勝手に持ち出して来ていた。
「ホントに大丈夫かなぁ」
心配するクリアをよそにカインは森の奥へと進んで行く。
「それにしても全然、魔族出てこないな」
二人が森に入って三十分程経ったが、魔族に一向に遭遇しない。
「なぁクリア、ホントにこの森に魔族が出るのか?」
「父さんはそう言ってたけど……」
魔族と遭遇できず、二人がだべっていたその時。
「アォー――――ン」
森の奥から獣のような叫び声が聞こえてくる。
「なんだ今の鳴き声?」
「カインあれ見て!」
するとクリアが指さした方から、真っ黒な狼のような魔族が十匹程こちらに向かって走ってくる。
「やっとお出ましか、やるぞクリア!」
「ああ、もうしょうがないなぁ」
二人は正面から向かってくる狼型の魔族に対して剣を構える。
カインは魔族との邂逅に昂っていたが、初めて魔族を見るクリアは緊張で僅かに震えている。
しかし、カインの緊張などお構いなしで魔族の群れはスピードを落とさずこちらに向かってくる。
「フッ……」
カインはニヤリと笑った後、魔族に向かって剣を構えたまま突っ込む。
「死ね」
魔族の群れに突っ込んだカインは、一番近くにいた魔族の首に目掛けて剣を振るう。
その一閃は子供が振るったとは思えない高速であり、魔族の胸あたりを切り裂く。
そして切られた魔族は息絶え、黒い粒子と化して霧散していく。
「チッ、やっぱ鉄製の剣は重いな。狙ったところより大分ずれた」
カインに仲間を殺された事で、魔族は危険を感じカインから距離をとり唸り声を上げて警戒する。
「かかって来いよ、まとめて相手してやる」
その後もカインは鉄剣の扱いを学習しながら順調に魔族を倒していった。
「うわぁ!」
魔族の残りも少なくなってきたその時、後ろから叫び声が聞こえカインは警戒しながら振り返る。
振り返るとクリアが尻餅を付いており、嚙みつこうとする魔族の牙を剣でなんとか受け止めていた。
「てめぇ」
カインは周りの魔族を牽制して、カインの元に駆け寄る。
「クリアを……離せ」
カインは、クリアの剣に嚙みついている魔物に切りかかる。
カインの振るった剣は魔族の首をはね、魔族は霧散して消えていく。
「大丈夫か、クリア」
「ありがとう。ッ、カイン後ろ!」
クリアの声に反応して振り返ると、残りの魔族がカインに向けて飛びかかってきていた。
しかしカインは一瞬焦ったものの、即座に振り返って剣を振るう。
剣は魔族がカインに触れるギリギリのタイミングで、全ての魔族を切り裂いた。
「あっぶねぇー、助かったよクリア」
カインはそっと胸をなでおろす。
「こっちこそ。さっきはありがとう、緊張で手が震えちゃって……」
「初めて魔族にあったんだろ? なら仕方ないって」
緊張が解け地面に座り込むクリアをカインが励ます。
「今日はここまでにしない? 僕、もう疲れて戦えそうにないや」
「そうだな、俺も慣れてない剣を振り回したから疲れたぁ」
ほとんどの魔族を相手にしていたカインはもちろん、初めて魔族と遭遇したクリアも緊張が解けてどっと疲労感がこみあげてきていた。
二人はその場に倒れこんで息を整える。
「はぁ~、魔族が群れで来た時は焦ったけど何とかなったな」
「ハハッ……ほとんどカインのおかげだけどね」
「クリアも結構やれてたじゃん。これから修行すればもっと強く……」
「ハッ!」
息を整えながら二人が談笑していると、森の奥から強烈でどす黒く絡みつく泥のような殺気が押し寄せてくる。
二人は急いで立ち上がり、殺意の押し寄せる方向に視線を向ける。
視線の先にはまだ何も見えないが、何か恐ろしい『モノ』がこちらに近づいて来るのがわかった。
「逃げるぞ!」
「うん!」
二人は相手と距離がある今の内に森から出ようと、振り返って走り出す。
(なんだよ、あの威圧感! 姿も見えてないのに手足が震えてやがる)