二人の少年
故郷の村を魔王に滅ぼされた少年、カイン・クラウンは気を失った後に襲われた村を偵察しに来た兵士達に助けられた。
その後、近くの街『ウインドミル』の領主に住み込みの従者として引き取られ屋敷に住み込みで働きながら暮らしていた。
屋敷で働くこととなったカインだが、屋敷の人間からは邪険にされていた。
瞳には光が無く目つきも悪く、髪もぼさぼさで全身傷跡だらけ。
その上八歳の子供であるにも関わらず、表情も暗い顔のまま一切変化しないので他の従者からは気味悪がられていた。
更に少し返事をする程度でまともな会話をしようとせず、目も合わせない。
そんな態度と不気味な見た目が相まって、他の従者をはじめ周りの人間はカインから距離をとるようになっていった。
カイン自身、孤立していることは分かっていたがあまり気にしていなかった。
(あー早く大人になって魔王を倒したいな)
カインにとって周りの人間にどう思われるかより魔王を倒す為に何をするかの方が重要であり、少し寂しさを感じながらも屋敷の人間のことはあまり気にしていなかった。
「おはようカイン! 今日は天気がいいね」
「……はぁ」
しかし、唯一孤立していたカインに話しかけてくる者がいた。
この街の領主の一人息子のクリア・アベリアである。
クリアはカインと同じ八歳であるが、領主の息子であるためかとても整った見た目をしている。
肩まで伸びた綺麗な白髪を後ろで結っていて、青い大きな瞳で女の子と言われても信じてしまうような可愛らしい顔をしておりカインとは対象的である。
またクリアは領主の息子にも関わらず誰にでも平等に接し、常に笑顔でいるため屋敷の従者をはじめとする街の人達からとても親しまれていた。
クリアは同い年の従者ということでカインに興味を持ったらしく、鬱陶しがるカインを無視して毎日のように話しかけていた。
クリアが話しかけ続けていたある日。
「クリア様、いい加減飽きませんか?対して反応も返さない従者に話しかけて」
毎日話しかけてくるクリアに対し、しつこいと思っていたカインが我慢できず質問する。
「おっ、やっと口を開いてくれた。あと呼び捨てでいいよ、同い年なんだし」
初めてまともな会話が出来てうれしかったのかクリアは嬉しそうにしている。
「それでクリアはどうして俺なんかに話しかけてくるんです?」
「そんなの仲良くなりたいからに決まってるじゃん!」
「仲良く?」
クリアの回答にカインは首をかしげる。
(確かに、従者と仲が悪いよりは良い方がいいだろうけどわざわざ毎日話しかけてこないだろ)
カインが疑問に思っていることなど気に留めずクリアは話を続ける。
「そう仲良くなりたいんだ。屋敷の他の従者はみんな年が離れてるし、街の子供たちとは父上が遊ばせてくれない。だから同い年の従者がくるって聞いて仲良くなりたいと思ったんだ」
クリアが楽しそうに語った後こちらに手を差し出してくる。
「だからさ、友達にならない?」
あまりにも無邪気な笑顔でそう言われたので、カインは断れず渋々手を取ることにした。
「…俺でよければ……」
カインが差し出された手を取ると、クリアはプレゼントを貰った子供の様にはしゃぎだした。
「ホント?やったー、嬉しいよ。僕、前の世界でも友達いなかったからさ!」
「前の世界?」
クリアがサラッと口にした言葉を不思議に思い、カインは思わず聞き返す。
「そう、僕この世界に生まれる前に別の世界にいたんだ。でも体が弱くてずっと寝たきりだったから、友達はいなかった……」
カインは別の世界があることに衝撃を受けながらも、先程までと違い悲しそうな顔を浮かべるクリアのことが気になっていた。
カインの心配そうな視線に気付いたのか、クリアはまた太陽のような笑顔を浮かべる。
「ごめんごめん、感傷に浸っちゃて。つまりさ前の世界で友達ができなかった分、この世界ではたくさん友達が欲しくてカインがその一人目ってこと!」
無理して明るく振舞ったようにも見えたが、それを指摘するのは野暮だと思いカインは敢えて口にはしなかった。
「一人目に選んで貰って光栄だよ。これからよろしくねクリア」
「こっちこそよろしく、カイン!」
あまり気にしていなかったとはいえどこか寂しかったカインにとっても、クリアと友達になれたことは嬉しかった。
友達になった二人は、屋敷を抜け出して街の探索や買い物、屋敷に秘密基地を作って遊んだりした。
最初は嫌々付きあっていたカインであったが、クリアといることを楽しく感じ初めていた。