教皇と討伐隊
―― 次の日 ――
クリアが教皇に再び招集され、その付き添いでカインも大聖堂に訪れていた。
「二日連続で呼び出すなんて、教皇様は何の用なんだ?」
「さぁ、ただ明日も来いとしか言われてないから……」
二人が駄弁りながら大聖堂の廊下を歩いていると、謁見室の扉の前でカインが呼び止められる。
「ちょっと君、ここから先は教皇様に呼ばれた者しか入れないよ」
「えっ、別にいいだろ。こいつの付き添いってことでさ」
カインは若干不服そうな顔をしながらクリアの方を指差してそう言う。
すると呼び止めた教会の従者がクリアの方を見て、頭を下げる。
「これは勇者様、気が付かず申し訳ございません」
「そんな、頭を上げてください。勇者に選ばれただけで、まだ何もしてないんですから」
クリアが頭を上げる様に言い、従者は頭を上げるが腰は低いままである。
「それで、俺は部屋に入っていいの?」
「あー君ね、少し待ってて聞いて来るから。勇者様は先に入ってて構いませんよ?」
カインが訪ねると、従者は視線だけこちらに向けてそう答えた後すぐにクリアの方に視線を戻す。
(流石にここまであからさまに態度が違うとイラつくな……)
「いや、僕もここで待ちますよ」
「そうですか、では急いで聞いて参ります」
従者は笑顔でそう言うと駆け足で謁見室へと向かっていった。
「チッ、あいつ振り向きざまに俺のこと睨んできやがった。あれでも聖職者かよ」
カインは従者の二人に対する態度の差にイラついていた。
「まあまあ、部屋に入れるかは聞いてくれるらしいしさ」
「そうだけどよ……ムカつくもんはムカつくだろ」
クリアがなだめるもカインの腹の虫はおさまらない様子だった。
少しして、従者が戻ってきカインも部屋に入っていいと言われ二人で謁見室の中へと入っていった。
◇
謁見室に入るとまず、床よりも少し高い所に座っている教皇の姿が目に入る。
教皇は坊主頭で整えられた長い髭を携えており、一見威厳を感じさせるが体型は飲み屋にいるおじさん達と大差なく高級そうな教皇の服もパツパツである。
カインは初めて教皇にあったが正直な所、威厳など一切感じない教皇にガッカリしていた。
(あれが教皇? 街で見かけるおっさん達と大差ないな……)
また、教皇の周りには教会の神父達の他に数名若い男女が立っていた。
そちらは筋肉質な男や見るからに魔法使いのような見た目をしてる者など様々だったが教会の人間でないことは見るからに明らかだった。
「来たか勇者よ」
教皇が部屋に入ってきた二人に気付くとこちらに軽く視線をむける。
声を掛けられたクリアは片膝を地面について頭を下げる。
クリアが片膝を付いたのを見て、急いでカインも同じ姿勢をとる。
「はっ、クリア・アベリアただいま参りました」
「ふむ待っておったぞ。してその者は?」
教皇はカインの方を一瞬見てクリアに問いただす。
「この者は私の友人でして、共に魔王討伐を誓いあった仲であります」
「お主、名は?」
今度はカインに質問してくる。
「……カイン・クラウン」
「お主は魔王討伐の旅についていきたいのか?」
「……はい!」
急な問いに驚き、一瞬戸惑ったがカインはすぐに返事をした。
「そうか、ではこの者達と共に勇者と魔王討伐の任に着くがいい」
教皇は先程気になっていた若い男女を見ながらそう言った。
「教皇、ではこの人達が旅の……」
静かにカインと教皇の話を聞いていたクリアが教皇に問いかける。
「そうか、紹介していなかったな。そう、この者達が勇者と共に旅をする選りすぐりの戦士達だ」
(選りすぐり? それにしては若い奴ばっかりで戦闘経験がありそうなのが一人もいないけど……)
教皇の発言に疑問を抱きながらカインはもう一度旅の仲間になる者達を眺める。
「そうか、君たちが……。俺はクリア、これからよろしくね!」
クリアは昔カインにした様に笑顔で旅の仲間達に手を差し出す。
しかし、一人の少年が声を上げる。
「教皇! 意見させて貰ってもよろしいでしょうか」
「どうした、何か勇者に不満でもあるのか?」
やたら高そうな衣服をに身を包んだその少年はやたら大きな声で教皇へ離し続ける。
「いえ、勇者殿には不満はありません。私が不満があるのはカインとか言うその男です」
「へぇー、俺に何の不満があるんだよ」
唐突に名前を出されたカインは少年を煽る様に聞き返す。
「君の全部だ。君の行動、言動からは品を感じないし勇者殿の友人と言うだけで旅について来ようとする図々しさ。その全てが気に食わない!」
少年は語気を強めながらカインに対する不満を口にしていく。
「何より闘技大会を勝ち抜いたり、功績を認められて選ばれた僕たちに失礼だと思わないのか!」
「なるほどね、俺はクリアの腰巾着だと思われてるってことか……」
少年の言葉を受けてカインは少し苛立った顔を浮かべる。
「あんた見たところ貴族の子供っぽいけど魔族と戦ったことはあんの?」
「……いや、ないが」
雰囲気が変わったカインに威圧されながら少年は答える。
「だろうな、街の中で悠々と暮らしている貴族さんが魔族と戦ったことなんてないよなぁ!」
「なんだ貴様、馬鹿にしているのか」
「馬鹿になんてしてないさ、ただ事実を言っただけだろ。他の奴らも魔族と戦ったことなんてないだろ」
カインは苛立ち混じりの声で少年を挑発し続ける。
「貴様……何が言いたい」
「なに、魔族と戦ったこともない雑魚になめられて少し気が立っただけだ。気にするなよ俺は自分より弱い奴をいじめる趣味はないからさ、安心しろよお坊ちゃん」
カインは少年の方を向いて挑発的な笑みを浮かべる。
「き、貴様ぁ!」
挑発に乗った少年が剣を抜き、切りかかる。
一方切りかかられたカインは現在、剣を持っておらず周りの人間は急いで少年を止めにかかる。
しかし、少年の剣は周りが止めるよりも速くカインへと襲い掛かる。
「はぁー、思った以上に酷いな」
剣がカインの肩に触れようとした瞬間。
「なっ……」
少年は地面に倒れ、握っていたはずの剣が自身の首の横に刺さっていた。
「……何が、どうして僕は……」
「何が起きたのかも分からないのか……、やっぱりお前ダメだな」
少年の上に乗って押さえつけていたカインが呆れた声で呟く。
「なんだと!」
「はぁ、仕方ないからお前にも分かる様に説明してやるよ……」
カインがしたことは一つ一つは実にシンプルである。
剣を握っていた少年の手を捻って剣を離させる。
足を掛けて転ばせる。
剣を少年の近くに突き刺す。
これだけである。 しかし、それをほぼ同時に一瞬で行ったため少年は何が起きたのか理解することができなかったのである。
「これで、俺がクリアの腰巾着じゃないって分かっただろ。他に俺が旅について行くことに文句がある奴はいるか」
カインが他のメンバーに聞くが、シーンとしたまま返事は帰ってこない。
すると、殺伐とした空気の中に場違いな声が響き渡る。
「ハイハイ、終わった? これでカインの実力も分かってもらえたと思うし、先ずはみんな自己紹介でもしていこうか!」
クリアがやたら明るい声でこの場の空気を一変させた。
そこで先程までカインの気迫に押されて黙っていた教皇が口を開く。
「まぁ待て勇者よ、まだお主らに魔王討伐の任を与えておらん。仲間達と話すのは後にしてくれぬか」
「申し訳ありません、教皇。では討伐の任の授与を」
その後、本来の用事であった魔王討伐の任の授与が行われた。
そこでクリアは正式に勇者して認められ、聖剣を教皇から授かった。
「勇者クリアよ、汝を聖剣の所持者として認めこの剣を授けよう」
「はっ、クリア・アベリア必ずやこの聖剣で魔王を討伐することをここに誓います」
クリアは教皇に魔王を倒すことを誓い、その後カイン達他のメンバーも教皇に勇者と共に魔王を討つことを誓うのだった。