1.謁見
これはとある猫の物語
平凡な猫が過ごす毎日に少し変わったことが起こるようです、、、
「この度のことは不問とするが次に同じことをしたら分かっておるな」
「はい、申し訳ありません。」
そう言うと役人らは引き上げていった。
「ああ、猫さん来てたのかい」
そう言って神社の神主は私のご飯の皿をだした。
貞享二年以降徳川綱吉によりすべての生き物を殺傷すること、無下に扱うことを規制する法令が次々と出された。
神主は朝方来ていた犬に気付かずご飯を与えることができなかったのが役人の耳に入ってしまったのである。
ただ神主は年老いており介抱する者もおらず、体調が優れていなかったため役人は罰を与えなかった。
「ご飯ここに置いとくからな」
そう言って神主はご飯がはいった皿を置くと同時に苦しそうに咳をした。
私がご飯を食べている間、神主は衣服を着替え「おいのり」というものの準備を始めた。
やがていろんなものが飾られている机の前に座り何かを言い始めた。
私は神主の膝の上に乗ってその声を聞いていた。
しかし神主の様子がいつもと違い、すぐに黙って前のめりになって私の上に乗っかってきた。
最初は抱かれているだけだと思って私も丸まっていたのだが日が落ちて夜が更けても神主が起きることはなかった。
気がつくと明るい空間に私はいた。
目の前には神主が「おいのり」をしているときの服を着ていた。
神主に気付いてもらうために足にすり寄ろうとしたところ足に当たるどころかすり抜けてしまった。
にゃあと鳴いてみても神主は反応しない。
やがて一人の白髪白ひげの大男の前で止まった。
大男は髭を触りながらどこか遠くを見つめたあとしばらくしてから話し始めた。
「お前は生前は神主をしていたのだな」
「はい」
神主は大男の声は聞こえているらしく返事を返した。
「神を信じ、自分の周りのものを助けたと」
「先代からの教えを守り続けただけです」
「、、、一人でさみしくなかったのか」
「いえ、一匹の野良猫が私の神社に住み着いておりまして」
その後神主は淡々と話をしていった。
私と神主が過ごした時間は20年にも満たなかったのだが神主はその全てを事細かく覚えていた。
私が帰ってこないのを心配して大雪の中、村の人に聞き回ったことや川で洗濯をしているときに私が魚を捕まえたこと。
楽しかったこと、悲しかったこと全部覚えていた。
大男はずっと静かに聞いていた。
神主が話し終えると大男は目から水を流しながら言った。
「ここから先は天界だ、お前の言う猫とはもう会えなくなってしまう。」
そう言われた神主は少し悲しそうな顔をした。
「しかし、お前は善行を重ねてきた、一つのみ願いを叶えてやろう。」
そう言ってこちらを見た。
どうやら大男には私が見えているようだった。
神主はしばらく黙ったあと大男のように目から水を流しながら言った。
「私は人生をかけて神に仕え、そして民のために祈りました。最後だけは自分の願いを叶えてほしいのですがこれは神に逆らうことでしょうか。」
「、、、神の御心であればお許しくださるだろう。」
「そうであれば、あの猫と一刻の間だけでも話させてくれませんか。」
「そのようなことであればなんの問題もない。」
一瞬眩しくなったあと大男は消えた。
「あ、ああ、あの猫じゃないか、、」
そう言って神主は私を抱きしめた。
「すまない、私はどうやらもう神のもとに行かなければならないようだ。」
「にゃあ?(何を言ってるの?)」
「もっと美味しいもん食わせてやればよかったな」
「にゃあ〜(悲しいことがあったの?)」
「お前の笑ってる顔、好きだったぞ。」
やがて神主が白い塵になりはじめた。
「にゃあ!(神主!)」
「また、いつか会おうな。」
そう言って消えていった。
いつの間にか私の横に大男がいた。
「お前の望みも一つ叶えてやろう。」
「にゃあ?(私の言ってることがわかるの?)」
「神にできぬことは一つ、亡き者を蘇らせることだけだ。」
「にゃにゃにゃ(なら私を神にしてくれない?)」
「それはなぜだ。」
「にゃにゃにゃ(私はまだ知らないことが多いから)」
「すぐにとはできない。神になるということは不死ということ、人やお主のような猫が神になるとき苦痛を伴うかもしれん。それでもいいのか?」
「にゃあ(うん)」
「ならまずお前に前世の記憶と不死を与え下界に戻す、それで苦しいようなら、神にはなれぬ。」
「にゃあ?(もし耐えられたら?)」
「その時はこの石を与えよう。」
そういって水色の石を見せてきた。
「この石は天の神の宿る石、ターコイズという。これを持っていれば神として認められたことになる。」
「にゃあ(約束だからね)」
「ああ、神は誰も裏切ったりしない。」
猫の物語はまだ始まったばかり、この先どんな運命が猫をまっているのか、、、