人格(8)
史乃は、机に突っ伏して号泣し始めた。
「私……私、またやっちゃったんだね。また夢遊病状態で人を殺しちゃった……。どうして……どうして……どうして……」
史乃は、両手で握り拳を作り、何度も何度も机を殴りつける。
それは、自分自身の拳を痛めつける行為にほかならない。
それは、決して裁かれることのない己の罪への裁きを希求する行為なのだ。
史乃は自らを懲らしめようとする。何度も何度も何度も何度も何度も――
「どうして……どうして……どうして……私が……私が……」
「史乃さん!」
史乃が何度も振り下ろした両拳を、両手で押さえ込む。史乃がこれ以上自傷行為をできないよう、精一杯の力を込める。史乃の手が震え、私の手も震える。
「史乃さん、待ってください。史乃さんは羽中さんの事件の黒幕ではありません」
「……え?」
史乃が、泣き面を上げ、私の目を見つめる。
「羽中さんの事件だけでありません。史乃さんの両親を殺したのも、史乃さんではないのです。夢遊病殺人にも、黒幕がいます」
史乃の手から、スッと力が抜ける。
「黒幕が他にいる? そんな……一体誰?」
史乃は、その全神経を、私の次の一言へと向ける。
ようやく、全ての準備が整った。
ついに私は、黒幕の名を明かすことができるのである。
そして、黒幕と正面から対峙することができる――
「黒幕は史乃さんではありません。黒幕の名は――野茂戸寧々花です」