91 旦那様なんですねぇ
「ふぅー、危ない所だったスねー。ご協力ありがとうございましたっス! ほら、エリちゃんもお礼はちゃんと言わなきゃ駄目っすよ?」
「はぁい。この度は危ない所を助けて頂きありがとうございました。いきなりあんな大きな魔物が現れてビックリしてたんですよぉ」
丁寧に頭を下げる騎士風の少女と、おっとり口調のエリナさん。
「いえ、困った時はお互いさまって事で」
ってかこれ、結果だけ見れば俺達いらなかったよね?
形式上二人は律義にお礼の言葉を口にしてくれてはいるが、あの威力の攻撃が出来るなら俺達が出しゃばらずとも十分二人で倒せたはず。
騎士風少女の一撃は、有無を言わさずベヒーモスを飲み込み塵へと変えたのだ。
今の俺があれと同じ事をしようと思えば……エクレール頼りになるしかない。
それ程までに強烈な一撃を放ってなお、騎士風少女は疲れの欠片も見せずに笑顔を浮かべている。
『とんだ化物……逸材もいたもんだな』
感嘆の息と共に世間の広さを垣間見た俺だったが、
『…………』
エクレールはジッと何かを考える素振りを見せたまま口を開かない。
『エクレール? どうかしたのか?』
『……いや、何でもないわ』
何でもありそうな雰囲気プンプンなんですけど?
まぁ、エクレールは無理に聞き出そうとして答えるタマでも無いし、いつか教えてくれることを期待しよう。
今はそれよりも、
「ところで、俺達は聖女エリナさんを探してこのダンジョンを潜って来たんですけど、貴方が聖女エリナさんで間違いないですか?」
ほぼ間違いでは無いだろう確信を抱きつつ、俺は念押しの様にエリナさんへと問う。
「そうですねぇ、一応聖女とは呼ばれていますけど……私に何か御用でしょうかぁ?」
当たりだ。
ベヒーモスは予定外だったが、思いのほか早くに見つけられたのは幸運と呼べるだろう。
「実は俺が呪われてまして……その呪いの解除をお願いしたくて」
言いながら俺はリリアから貰った書状をエリナさんへと手渡す。
「まぁ、呪いですかぁ。それは大変でしたね……あぁ、リリアさんの旦那様なんですねぇ、リリアさんにも以前お世話になったんですよぉ。もう少し疑う事を覚えなさいって叱ってくださいましたぁ」
「はい、呪いで……って、今何て言いました!? 旦那様って聞こえた気がしたんですけど!?」
「?……手紙にそう書いてありますよぉ?」
キョトン顔の可愛らしいエリナさんだが、それを見ている暇は無い。
俺は手紙を見せてもらうと、
「あぁ……確かに書いてますね……」
文末に記されていたのは『追伸 私の旦那様だからしっかり治してあげてね』と見覚えのあるリリアの字が躍っていた。
「旦那様じゃないのですかぁ?」
「いや……まぁ……いずれは?」
あくまで将来的な話であって少なくとも今は旦那様ではない。
とは言えそんな内情を事細かに説明する気にもなれないので、酷く曖昧な返答で濁す。
「そうなんですねぇ。リリアさんからのお願いでもありますし、呪いで困っている人を放ってもいけません、私で良ければ呪いの解除をさせて頂きますぅ」
曖昧な回答でも気にしないのか気にならないのか、人を疑う事を知らない無垢な目でエリナさんは微笑みながら首を縦に振ってくれた。
「っ! 本当ですか!? ありがとうございます! お願いします!!」
喜びと同時に頭を下げて感謝を示す。
背後ではミーア達も色めき立ち、喜色の声が耳を打つ。
「あのー……水を差すようで悪いっすけど、エリちゃん魔力は大丈夫なんすか? 自分は呪い関連詳しくないすけど、解除にも魔力を使うんじゃないんすか?」
申し訳なさそうに進言したのは騎士風の少女。
そう言えば結局名前すら聞いて無かったな。彼女の強さの秘密や素性も気になるが、今は指摘の通り魔力云々を確認する方が優先度は高い。
「あららららぁ……魔力……無いですぅ」
申し訳なさそうにしながらも、のほほんと言ってのける聖女エリナ。
その喋り方通り性格もおっとりしている様だ。
そしてどうやら呪いの解除は現時点では不可能。
まぁ、魔力の話が出た時点で少しだけそんな気はしてたよ……。
『残念、ひゃっほいタイムは持ち越しみたいね』
『別にそれが目当てじゃないから!』
とは言え……いつになったら呪いから解放されるのやら。
少しだけ沈んだ気分と共に、俺は深く溜息を吐いた……。
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