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9 呪いの装備

『アハハハハハハッ! 金貨5000枚積んで呪いの装備掴まされてやんの!! アハハハハッ馬鹿だ! バカがここにいるぞぉぉぉ!』


 カジノを出るなり脳内に響いたエクレールの大爆笑。


『うるせぇな! 気づいてたんだよな!? なんで教えてくれないんだよ!?』


『最初に言ったろ? 君の勘を信じると。でもそれが呪いの装備なんて……プククククアハハハハハハッ! ヒャァーーーおなかいたいぃぃぃ』


 この野郎……!

 手のひらサイズのエクレールは言葉の通り腹を抱えて爆笑している。


 握り潰してやろうか?


『だいたいあんなのありかよ!? 買った後に言うなんて卑怯じゃないか!?』


『そう思うのならクレームの一つでもつければいい。もっとも、向こうさんはちゃんと返品も返金も出来ないと事前に念を押していたがね』


『わかってるよ! わかってるから大人しく出て来たんだよ!』


 それでも騙されたと思わずにはいられない。

 これが嘘や脅しでもあれば状況は違ったかもしれないが今回ばかりは分が悪い。


『残念だが呪いを見抜けなかった君の責任だな』


 分かってるっての……。

 それでも文句を言わなきゃ収まりがつかねぇんだよ!


『だいたい何が「呪い価格で9割引き! 安く買えてラッキーですね」だよ! ふざけんじゃねぇよ!』


 呪いの事実を受け入れられず、呆然としていた俺に向けられた店員の言葉。

 あの悪魔の様な営業スマイルは俺の心にトラウマとして深く刻まれた。


『呪いさえなければ金貨50000枚の装備よ? 安く買えたんだしラッキーじゃない』


『呪いさえなければな……そう言えば、こいつに掛かってのはどんな呪いなんだ?』


『ん~、ざっくり言えば三つね。一度装備すると死ぬまで外せない、強い魔物を呼び寄せる、傷が癒えない、ってところかしら。冒険者としてはまぁ……最悪の欠陥品ね! どんまい!』


 ふざけんなぁぁぁぁ! 

 どんまいじゃねぇよっ!


『百歩譲って魔物は良いよ、仕方ない、冒険者だもん。でも傷が癒えないはやばいだろ? 回復スキルやアイテムを使っても治らないって事だよな?』


『そうね、かすり傷でも血は止まらないでしょうね』


 そんな他人事みたいにあっさり言わないでくれる?

 こちとら人生の一大事なのに。


『終わった……俺の冒険者人生……いや、人としてのまともな生活すら危うい……』


 リリア……ごめん……。

 追放されて一日持たずに冒険者人生終わったよ……。


『はいはい、いつまでもグチグチ言わないの。ちちんぷいのぷーい! ほら、これで呪いは解けたわよ』


 へっ!?


『解けたの? 呪い?』


『当り前じゃない! この私を誰だと思ってるのよ?』


『でも暴食の呪いは解けなかったよな?……』


『それは別問題。この程度の呪いなら朝飯前よ!』


 胸を張りドヤ顔をかますエクレール。


『レイドには暴食の呪いもあるし、流石に呪いの重複は避けないとね。重なった呪いはより強固になってあとあと面倒だし』


 サラッと怖いこと言ってるよこの人。

 この数分だけでも呪いが重複してたんですが?


 まぁ、何も言わないから大丈夫なんだろうけど。


『呪いが解除できるなら最初に教えて欲しかったけど……ありがとな』


『フフンッ! 良いって事よ! いつでもこの大賢者様を頼りなさい!』


 こいつ……ひょっとして感謝されたくてワザと言わなかっただけじゃ?

 ……考えたら負けだな。

 結果として良い装備と大金が手に入った、それで十分じゃないか。



 そうやって自分を納得させつつ、元来た裏路地を抜け俺達は件の質屋へと辿り着く。


『ここは私に任せて』


『ん? 任せるのはいいけど借りた分を返すだけだよな? 俺でも出来るぞ?』


『良いからいいから、余計は口は挟まないでよね』


「いらっしゃ……お早いお戻りですね」


 店へと入れば、俺の顔を見た店主が少しの驚きを見せる。

 そんな店主へと向かって、エクレールが口を開く。


「利子分の金貨240枚と色を付けて金貨1500枚ある。確認してくれ」


「!?……い、いいんですかい?」


 店主は更に驚きの表情が濃くして、困惑気味に問う。

 それもそうだろう、朝一で金貨1200枚貸して数時間後に1500枚戻ってくるなんて普通じゃありえない。

 普通に商売するのが馬鹿らしくなる程の利益率だ。


「構わないよ、無理を言って全財産かき集めてくれた礼だ」


『ちょっと格好つけすぎなんじゃないか?』


『これでいいの、これで店主さんはレイドの顔を完全に覚えたわ。どこの街にも一つぐらい贔屓の店はあったほうがいいものよ』


 そう言うもんなのか。


「確かに1500枚確認しやした。こちらはお返しいたします」


「ありがとう。また来るよ」


 深々と頭を下げる店主に見送られ店を後にする。

 懸念していたリリアから借りたペンダントも回収できたし憂いは晴れた。


 これでようやく聖女を探す旅へと出れる。


『さて、これからなんだけど――』


 エクレールが口を開いたその瞬間、



 ドンッッッッ―――!!



 鼓膜直接を揺さぶる様な破壊音が耳を打つ。


「なんだ!?」


 音がしたのは街の中央広場の方向。

 そちらへと目を向ければ黒煙と共に上がる火の手。


『喧嘩……にしては派手過ぎるわね。少し様子を……』


「そんな事言ってる暇はねぇ! 怪我してる奴がいたらどうすんだよ!」


 言うが早いか俺は爆心地へと向かって走り出す。


『全く……君は存外暑苦しい男なんだね』


「暑苦しくて結構、見て見ぬ振りはしたくないんだよ」


 それからものの数分と掛からず、街の中央広場へとついた俺が目にしたものは……


「なんだよこれ……」


 中央広場のあちこちに火の手が上がり、所々地面が抉れ朝まで綺麗に整備されていた面影は微塵も見られない。

 血を流し倒れ伏す人や泣き叫ぶ子供。


 さながら地獄絵図と化した光景に酷く忌避感を覚える。


「誰がこんな……。エクレール、回復魔法は使えるのか?」


 こんな事をしでかした犯人をぶん殴りたい気持ちはあるが今は人命が優先だ。


『もちろん。でも魔力はレイドから共有されるものよ、そう何度も使えるとは思わないでね』


『今は使えるだけも十分だ』


 俺は近くに倒れ込む老人へと駆け寄り呼吸を確認する。


「良かった、まだ息はある!」


『君は傷口に手を添えるだけで良い』


 手を添えた瞬間、温かい光が俺の手から零れだす。

 それは傷口を優しく包み込むと次第に傷を癒し、瞬く間に完治していく。


『もう大丈夫だ、直に目も覚める』


 幾分顔色の良くなった老人は眠るように安定した呼吸を繰り返す。

 安全な場所へと移動させたいのは山々だがその余裕は無い。


 まだまだ倒れ伏す人は多く、一刻を争う状況は続いている。


「もっと人手があれば……」


『ボヤいてもしょうがないでしょ! 次行くわよ次!』


「分かってるよ!」


 それから俺達は片っ端から回復魔法を使い、どうにか重症者の治療を終える。

 かなり危険な状態の者もいたが、幸いと死者がいなかった事に俺は安堵の息を吐く。


 そして泣きじゃくる子供や呆然と立ち尽くす人たちを避難させたところで、


「レイドさん!」


 聞き覚えのある声が背後から鼓膜を打った。


「ミーア!」


 そこにいたのはギルドの受付嬢であるミーア。

 朝会った時は綺麗な身なりをしていた彼女だが、今は煤で汚れ所々に血が付着している。


「血が……怪我はないか?」


「はい、私は大丈夫です。遅くなりましたがギルド職員がこれより住民の避難と怪我人の救助に向かいます。それでは皆さん、急ぎ救助をお願いします。問題があれば逐次私に報告を」


「「「「はっ!」」」」


 身なりは汚れいつもの柔らかい笑みは鳴りを潜めているが、いつも以上の凛々しさと緊迫感を持って現場の指揮を執るミーア。


 ギルドの職員同士と言う知った仲ではあるのだろうが、十数名から成る部隊を完全に掌握している。


「倒れている人は全員一応の応急処置はしてある。その内目を覚ますだろうから安静にする様伝えてくれ」


「……! ありがとうございます。ギルドを代表してお礼を申し上げます」


「そんなに畏まるなよ。困った時はお互い様だろ?」


 どうやら俺の人命救助はここまでの様だ。

 下手に素人が場を荒らすより統率された組織に任せた方が良いだろう。


「それよりもミーア、一体何が起こったんだ?」


 この惨状の根本的な原因。

 俺はまだそれを知らない。


「それが……」


 少しの逡巡を見せたミーアが口を開きかけた瞬間、


『レイド伏せて!!!』


 焦りを帯びたエクレールの叫び。

 反射的に反応した俺はミーアを抱きかかえると、そのまま倒れ込む様に地面へと転がる。


 その直後、


 ヒュンッ――


 頭上を高速で通り過ぎるナニカ。


「あ、ありがとう……ございます……」


 唐突な展開に動揺を隠せないミーアの呟き。

 少しだけ頬を朱に染めているのは気のせいだろうか?

 怒ってる?


「急にごめん。咄嗟の事でこれしか回避方法が無くて……」


 抱きしめる様な形になったのは申し訳ない。

 女性に対する扱いとしては最悪かもしれないが、二人とも助かる為にはこれしか方法が無かったのだ。


「あぁはぁ~、避けられちゃった~」


 ミーアへと言い訳を並べていたところで酷く間延びした声音が上から届く。

 立ち上がり声のした方へと振り向けば、そこには空中に揺蕩う黒い影。


「悪くない動きね、流石は暴食の魔人(グラトニー)を取り込んだ坊やってところかしら?」


 っ!!?


 こいつ、暴食の魔人を事を知っている?


「レイドさん、注意してください。あれがこの事態を引き起こした元凶です!」


 隣で声を荒げたミーアは見た事も無い程に怒りを露わにしている。


「あれとはご挨拶ね~。私はグラトニーの気配を感じたから様子を見に来ただけよ? それに先に仕掛けてきたのはそっちでしょう~」


 グラトニーの気配を感じて様子を見に?

 あれ、ひょっとしてこいつを呼んだのって俺の責任じゃ……。


「いきなりやってきて広場を破壊しようとする魔人を攻撃して何が悪いんですか!」


 魔人?

 こいつは魔人なのか?


「どこにいるかもわからないのを探すのは非効率でしょ~? ちょっと暴れればほら、実際にそっちから来てくれたわけだし」


 激高するミーアと意味深に俺を見る魔人。


「お前は一体……」


「そう言えば坊やには自己紹介がまだだったわね。私は魔王軍幹部七つの大罪が一人、<嫉妬の魔人>ルクセリアよ。以後よろしくね」


 逃げ出したくなる程の殺気を巻き散らし、嫉妬の魔人(ルクセリア)は怪しく嗤った。

【作者からのお願い】

お読みいただきありがとうございます!

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