87 さっきまで寝てたよね?
「ミーアだよな!? 久しぶり!」
どこか軽薄そうな男と、
「元気してた? 少し大人びたんじゃない!?」
軽薄そうな女、
「ご無沙汰しています。お元気そうで何よりです」
そして胡散臭い薄ら笑いを浮かべる男。
初対面の人間を悪く言うのもどうかとは思うが、あからさまに不審な三人組がミーアへと詰め寄って来た。
不審な所以外の特徴と言えば、三人共三流冒険者のみすぼらしい風格を身に纏っている事。
「知り合いか?」
言いながら、どこか様子のおかしいミーアの肩へと優しく手を添え、三人組との間に入る様に一歩前に出る。
「……はい」
微かにつぶやくミーアについさっきまでの元気は無い。
明らかに動揺しているのが痛い程に伝わってくる。
どんな関係かは知らないが、少なくともミーアにとっては歓迎すべき相手ではないらしい。
ならば、ここは俺の一存でお引き取り願うのもありだろう。
「悪いけどこっちは忙し……」
「いやー、一目見てわかったよ! ギルドに来たって事はまだ冒険者を続けてんのか? ならさ、もう一度俺達と組まないか!?」
「そうよ! また皆で一緒に楽しくやりましょうよ!」
「良いですね! <暁>再結成! やはり四人揃ってこそ僕らの本領が発揮できると言うものです!」
こいつら……。
まるで俺の事など見えていないかのように捲し立てる三人組。
百歩譲って、俺を無視するならそれでも構わない。
だが最後の一言、<暁>と言う単語だけは、絶対に聞き逃せない。
それはかつてミーアを切り捨てたクソ共のパーティー名だと、俺の脳が記憶していたからだ。
「…………っ」
微かに息を漏らすだけで、言葉に詰まるミーア。
ヤマトへと向かう途中、俺達に話してくれた過去はもう吹っ切れたと言っていたミーアだが、こんな形で唐突に再会を果たすとは思っていなかったのだろう。
一方的な再開の挨拶に、その顔は俯き暗く沈んでいる。
「おい、あんま好き勝手言ってんじゃ……」
「まだ昔の事を引きずってんのか? もう昔の事なんだし、お互い水に流してまた仲良くしようぜ!」
「若気の至りって言うかね……でもほら、結果良ければ全て良しって言うじゃない! 今ここで再会できたことを喜びましょう!」
「過去に捕らわれるのも時間の無駄ですし、前を向きましょう! 大切なのはこれからです!」
この瞬間、あまりに頭の悪言い分に、俺の中で何かがキレた――
「「「いっぺん死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」」」
バキッ、と重く鋭い音が折り重なる。
俺とアイシャとメイは怒号を響かせ、三人組の顔面を三人同時に殴りつけていた。
俺が軽薄そうな男を、アイシャが胡散臭い男、メイが胡散臭い女をそれぞれ一撃のもとに顔面を変形させたのだが……
「全然殴り足りねぇ」
「拙者もだ」
「死に方は選ばせてあげる。苦しんで死ぬのと惨めに死ぬの、どっちがいい?」
…………。
メイさんや、一人だけぶっ飛び過ぎやしないかね?
逆に冷静になれたよ。
ってかついさっきまで寝てたよね?
寝起きでそんな怖い事言っちゃうなんて末恐ろしい子……。
まぁ、気持ち話わかるけど。
「ひ、ひぃぇえぇぇ……な、なんなんだよお前ら……」
頬をさすりつつ怯える軽薄そうな男。
駄目だ……こいつの顔を見ただけでイラつく。
「お前らこそ何なんだよ? 頭沸いてんのか? 他に言うべきことがあるんじゃないのか?」
怒りのままに殺気をぶつけ、眼光鋭く睨みつける。
返答次第ではもう二、三発はお灸を据える必要がある、と拳を固く握り直したところで、
「レイドさん、アイシャさんもメイさんもありがとうございます。でもギルド内での揉め事は厳禁です。私はもう大丈夫なので、私に話をさせてください」
いつもの、凛として頼りになるミーアが一歩前へと躍り出た。
「本当に大丈夫なのか?」
「はい。驚きはしましたが、私には頼もしい仲間がいますから。それにこの程度の連中に怯える必要なんてないんですよね」
刹那、ミーアから放たれる絶対零度の威圧。
心の底から感じる根源的な恐怖は、かつて倒した鬼神の殺気と並ぶ程に力強い。
当然三流冒険者がそんなものを喰らえば、
「「「ひ、ひぇ、ひぇひぇぇえぇぇぇ……!」」」
真っ青になった顔で奇妙な奇声を上げて逃げていく。
「あっ! こら! 待てっ! まだミーアちゃんに謝ってない!!」
「ふふつ。ありがとうメイさん。でももういいんです。謝られても許す気なんて無いですし、あんな人達謝って楽にさせる気もありません」
「謝る、って頭が最初から無かった口振りなのが腹立つけどな……やっぱもう二、三発行っとくべきだったか……」
「レイドさんまで……もう本当に大丈夫ですよ? それよりもエリナさんを探しましょう。それ以上に重要な事なんて無いんですから」
吹っ切れた様に笑みを見せるミーアには悪いが、俺としては消化不良も良いところだ。
もし次会ったら徹底的に謝らせた上で絶対に許さない。
そんな事を密かに誓いながら……
「ギルド内で揉め事起こしてんじゃないわよ!」
俺達は受付嬢に怒られた。
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