83 口が裂けても言えない
「…………」
なんで?
どうして?
ミーア達を俺自身の手で殺せ。
リリアの放った一言に、俺の頭は真っ白に塗り潰された。
「私の為なら出来ますよね?」
さも当然の様に言ってのけるリリアに、俺は思わず頭を抱える。
俺がミーア達を殺すなんて絶対にありえない。
迷うまでもなく、そんな選択肢は存在しない。
俺が頭を抱える理由……。
それは狂気に歪んだリリアの瞳が、決して冗談では無いと訴えかけていたからだ。
正直、リリアがここまで極端な事を言い出すとは欠片にも思っていなかった。
エクレールの言う通り、いきなり現れて四人も女の子を侍らすようなところを見てしまえば最低最悪野郎と幻滅されるのも仕方ないとは思う。
だが、それを通り超して彼女たちを殺せと言うのは些か話が飛び過ぎだ。
『愛が重いと言うか、とことん病んでるわね。どう責任を取るのよこの状況?』
『元々こんな事を言い出す様なやつじゃ無いって事は俺が一番知ってんだ。誠心誠意言葉で尽くすしかないだろ』
俺がもっとしっかりしていれば、それこそリリアが言ったように最初に抱きしめて全てを説明していればこんな事にはならなかったはず……だと思う。
とは言えそれは後の祭り。
今は目の前で静かに冷笑を湛えるリリアを説得しなければならないのだが……、
「何を躊躇っているのですか? 洗脳されてないのなら簡単な事でしょう?」
静かに詰めてくるリリアの圧力。
「洗脳されてないから出来ないんだよ。リリアは本気で俺が簡単に人を殺せるとでも思っているのか?」
「私達の愛を守る為です。その為には害虫駆除など些事だと思いますが?」
…………。
殺せだの害虫だの……どうやら俺が追放されてからの短い間に、俺の知ってるリリアとは随分変わってしまったらしい。
昔は絶対にこんな事言わなかったし、誰にでも分け隔てなく優しくできる気弱な女の子だったのに……。
薄々感じていたリリアの変わり様に俺は居た堪れない気持ちになると、胸の奥がギュッと締め付けられる。
どんな言葉を掛ければ良い?
どうすればリリアは元に戻ってくれる?
言葉を尽くす以前に、リリアの狂気をどうにかしなければまともな話し合いすら望めないこの状況……。
「…………ふぅー……」
この場を納める方法を全く思いつかない俺が、無意識の内に深いため息を零した瞬間――
「リリアちゃんはさ、レイド君が好きなんだよね?」
唐突に、俺の背後から木霊したのはメイの声。
それはいつものメイらしく、良くも悪くも空気を読まない明るく軽快な声色だった。
「何ですかいきなり……。でもそうですね、誰よりも愛しています。幼い頃からずっと一緒だったんです、あなた達みたいなどこの馬の骨とも知らない輩にレイドが現を抜かすなんてあり得ません!」
微かな動揺を浮かべつつも、リリアは気丈に言い放つ。
「ならさ、どうしてレイド君を悲しませるような事言うの? ちゃんとレイド君の顔見てる?」
「レイドの顔……?」
疑問符を浮かべるリリアだったが、それと同時に俺もまた疑問符を浮かべていた。
俺の顔が一体……?
「メイもレイド君の事は大好きだよ。だからレイド君には笑って欲しい。こんな辛そうな顔したレイド君見てられないもん」
メイから向けられる真っ直ぐな瞳。
それは心の底から俺の事を心配してくれているのが伝わってくる。
そんなに辛そうな顔をしてたのだろうか?
自分で自分の顔は分からない。
だが、メイの言葉にリリアは明らかな動揺を示していた。
「なっ……私だってこんな辛そうな顔は見たくないです……でもそれは貴方達がレイドを誘惑したからで……」
「そこから話が違うんだなぁ。メイ達は誰も誘惑なんてしてないよ? むしろレイド君に誘惑されてついて来た感じだし。でもそれはリリアちゃんも同じでしょう? レイド君が好きだから一緒に居たい、メイ達だってレイド君が好きだから一緒に居るんだよ? 要するに同じ人を好きになった同士ってやつ!」
俺はいつの間に誘惑してたんだろうか?
メイに関しては誘惑していたつもりは無いが、甘やかしていた自覚ならある。
ヤマトを出て以降、やたらと甘える頻度の高くなったメイを猫可愛がりし過ぎたのかもしれない。
「だからね、もしレイド君がメイを殺して幸せになるなら、メイは喜んでレイド君になら殺されて良いよ? でもレイド君は我が儘だからそんな事じゃ幸せにはならない、レイド君の目的はリリアちゃんも含めたハーレムを作る事だからね!」
…………。
さらっととんでもねぇ事言い出しやがったぞ。
『おい、お前は一体メイ達に何を吹き込んだ?』
『言わなかったっけ? ありのままハーレム願望しかないから全員まとめて面倒見てやる、って。順番は殴り合いで決めなさい、とも伝えているわ!!』
殴り合いって……
いや、それ以前にそんな話を納得してたの? メイ達は?
「それにレイドさんは私たち全員にリリアさんの事を、リリアさんを迎えに行くという事を明言してるんですよ? それを分かった上で私達はレイドさんついて来ているんです」
俺の動揺を他所に、今度はミーアが諭すように優しくリリアへと語り掛ける。
「レイドが……私の事を……?」
「ええ。レイドさんは今色々と訳アリの状態ではありますが、リリアさんの事は片時も忘れていません。それこそ、私がタオル一枚で同じベッドに寝てたとしても手を出してこないぐらいには……ね」
あれはショックだったなぁー、と続けるミーアはイタズラ好きの子供の様にチラリと俺を見やる。
その顔はどこか楽しそうでもあり、寂しげでもある。
俺だって死ぬほど辛かったよ。
とは口が裂けても言えない。
ってかそれ今言う事ですかね?
状況的に火に油を注ぐだけじゃ……。
「タオル一枚? 同じベッドで寝る? …………どういうことですか!? 詳しく説明してください!」
当然の如く怒りの形相でミーアに詰め寄るリリア。
俺の予想は当たっていたらしく、リリアの怒りは一気にミーアへと向かって行ったのだが……
「はい! リリアさんが居なかったこれまでを一から十まで全部説明しますよ。レイドさんは抜いて五人で語り合いましょう! 私達だって、リリアさんを待っていたんですよ?」
暖簾に腕押しの様に……いや、まるで最初から受け入れ準備は万端とでも言いたげに、ミーア達四人は柔らかい笑みを浮かべると、リリアを囲む様に抱きしめる。
「えっ……?」
余程予想外だったのだろう。
リリアは目を丸くして、驚きの声を漏らす。
そして、
後は任せろ。
そんな意図を滲ませたアイシャと一瞬でアイコンタクトを交わすと、五人娘はどこか俺の知らない場所へと消えて行くのだった……。
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