80 side勇者 ~リリアの憂鬱と崩壊計画 その15~
待ち合わせ場所は、先日私が気を失った海岸沿いのベンチ。
どこかフワフワとした心持で、私は……私達は宿屋を出て待ち合わせ場所へと向かいます。
私としては一人で行くつもりでしたが、何故だか全員ついて来ています。
ソアラさんやレビィさん、そしてゴミ共。
野次馬根性なのかは知りませんが、状況次第で私はこのまま勇者(笑)パーティーを脱退し、レイドとハネムーンになるかもしれません。
もしそうなれば色々と説明も面倒なので、暗黙的に同行を許可しました。
私はレイドの性格を熟知しています。
どんな理由であれ、あんなメス餓鬼共を侍らせた醜態を私に見られて動揺しないはずがありません。
きっと謝罪の言葉と共にプロポーズの一つもしてくるでしょう。
私の機嫌の治し方を一番知っているのは他ならぬレイド自身なのですか……ら……
「ほら、メイ起きろ! これから大事な話し合いなんだ! 頼むから起きてくれ! サクラも起きろ! ミーアとアイシャもくっついてないで二人を起こしてくれよ!」
「…………」
コレハナニ?
ナニヲミセラレテルノ?
海岸沿のベンチに、レイドは既に腰を降ろしていました。
私を待たせたくなかったのでしょう、レイドらしい優しさが垣間見えます。
ですが……
「レイド……なんですかソレは……」
レイドの左側には今しがたメイと呼んでいた少女が白目を向いて膝枕で眠っています、そして右側では肩にもたれ掛かる様にだらしなく涎を垂らして眠る巫女装束を纏った少女。
そして背後では左右から挟み込みように二人の美女が……って、一人はミーアさんですね。
まさか本当にレイドに同行していたとは……。
「あ、あぁ……。おはようリリア。久しぶり……だな。もう体調は大丈夫なのか?」
しどろもどろになりながらも、必死で寝ている二人を引き剝がそうと足掻くレイド。
ですが左右の二人はまるで意地でも離れる気が無いのか、全く起きる気配がありません。
この餓鬼共……。
私に断りもなくレイドに甘えるなんて良い度胸ですね。
殺していいですか?
「「「ヒィィッ!」」」
思わず漏れた殺気に、二人の少女がようやく目を覚ましました。
ちなみにヒィッと短い悲鳴を上げたのはギジル達であって、二人の少女はのほほんとしたものです。
「レイドくん……おねぇちゃんばっかり……ズルいよ……メイもナデナデして……くぅーくぅー」
「私だって……レイさんの一番に……なりたいんです……くぅーくぅー」
…………。
これは寝言なのでしょうか?
それとも新手の嫌がらせ?
ここまで綺麗に私の神経を逆なでされるとは思いませんでした。
良いでしょう、その喧嘩喜んで買いま
「レイド、昨日は引いてやったが今日こそ彼女達はこの僕が貰い受ける! さぁ、麗しのレディ達よ、そんな冴えない男は捨てて勇者である僕の元においで! 対した役にもたたず甲斐性も実力も無い地味な男より、勇者である僕の方が数億倍は良い思いをさせてあげるよ」
「「……」」
私の殺気では大して効果の無かった二人ですが、生ゴミが口を開いた途端に心底気持ちの悪い表情へと激変しレイドへとその身を密着させます。
生ゴミ程度がレイドを罵倒したのは許せませんがそれは後で制裁しましょう。
それよりもレイドの周りに集る蠅の駆除が最優先です。
「ギジル、昨日も言ったがこの子達は俺の大切な仲間だ。勧誘なら他所でやってくれ。大体ここへはリリアと話しに来たんだ、お前らは関係無いだろ」
言いながらレイドはごく自然に、当たり前であるかのように身を寄せてきた二人の少女の頭を撫で、大切な人だと言い放ちます。
「レイド? その餓……その子達はなんなんですか? どしてあなたにくっついているのですか?」
そもそも開口一番謝罪して私を抱きしめるところですよ?
私はそうしてくれれば……私だけを大切にしてくれればそれでよかったのに……。
なにが悲しくて小娘共が群がる所を見せつけられているのでしょうか?
「そうだ、こんなに可愛い子達がお前なんかに言い寄るなんて明らかにおかしいぞ! ひょっとして貴様、怪しい魔術を使ってその子達を洗脳しているんじゃないのか!?」
私が窘めない事に気を大きくしたのか、生ゴミが調子に乗ってレイドを捲し立てます。
「おいゴミ。少し黙れ」
「は、はいっ!」
少々調子に乗り過ぎた生ゴミですが、ある意味ではファインプレーです。
「レイド……ひょっとしてあなたが洗脳されているんじゃ……」
だとすれば全ての辻褄は合います。
レイドがこんな乳臭い餓鬼どもを侍らす理由なんて無い。
レイドが私に謝らない理由なんて無い。
レイドが私を抱きしめない理由なんて無い。
レイドの一番が私じゃないなんてありえない。
ありえない……。
あの蛆虫共さえいなければ……。
あぁ……、
なんだ、簡単な事じゃありませんか。
この蛆虫共を殺してしまえば、レイドは洗脳から解放されます。
そうすればきっと、昔の様にレイドも私だけを見てくれるでしょう。
小娘共の処遇、最初は脅し程度で無難に済まそうかとも思っていましたが……どうやら無理そうですね。
ふふふっ。
待っててくださいレイド、すぐに目を覚ましてあげますから。
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