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74 黒い紐

「どうぞ娘をよろしくお願いします」


 そう言って恭しく頭を下げるアイシャとメイの母親であるセリシアさんと大勢の人に見送られ、俺達はヤマトを後にした。


 送り際の『娘をよろしく』は異常なまでに圧と言うかプレッシャーが籠っているように感じてしまったが、気にしたら負けだろう。


 きっと母親として旅立つ娘が心配なだけだ。

 そうに違いない。


 まぁ、サクラが俺の呪いを抑えるために同行すると決めた時、アイシャとメイも俺達についてくると心の内では決めていたらしいのだが、母であるセリシアさんとしてはこれからの草薙の復興には娘達の力も借りたかったらしく、最初は色よい返事がもらえず壮絶な親子喧嘩にまで発展したりもしたが……。


 それでも最終的に首を縦に振ってくれたのは俺の目が覚めてからの数週間で怪我人の治療は全て完了し、残骸と化した街の瓦礫撤去などアイシャとメイが精力的に復興のために尽力した事や、エクレールの力を借りて俺達もそれなりには役に立ったからだと思っている。


 と言うかエクレールの魔法は改めて規格外だと思い知らされた。

 人力だけであれば数ヵ月はかかるであろう作業も魔法の力で一瞬である。


 そんなこんなでヤマトを後にした俺達はカメ吉の背に乗り、来た道を戻る様に港町スーザリアへと進路を向けていた。



 そして――






『平伏しなさいっ! これが大賢者セレクトの水着四姉妹よっ!!』


 ドヤ顔と共に大手を振るうエクレールの背後。

 そこには水着に着替えた四人の美少女達。


 港町スーザリアに着いた俺達はさっそくとばかりに海へと遊びに行く事に。

 長旅の疲れもどこへやら、俺としては到着当日くらいはゆっくりしたかったのだが、エクレールを含む女性陣に押し切られる形で今に至る。


『エントリーナンバー1! オレンジビキニの眩しいミーア! ムッツリレイドの好みに合わせて谷間を強調するようワンサイズ落とした着こなしよっ!』


 エクレールの実況に多少の引っ掛かりを覚えるが、ワンサイズ落とした効果は抜群だ。

 面積の少ない布が一生懸命に二つの山を支えようと頑張っていらっしゃるさまは、グッジョブと言わざるを得ない。


「どう……ですか?」


 恥ずかし気に視線を逸らすミーアはおずおずと問いかける。

 そんな可愛らしい姿も相まって、


「すごく可愛いよ。似合ってる」


 ベタな言葉しか浮かんでこないが、下からも横からも布からはみ出る胸が素敵だよ、とは口が裂けても言えないので仕方ない。


『なかなか良い反応してくれるじゃない。どんどん行くわよ! エントリーナンバー2番! 私が特別に作った特注品、スクール水着のアイシャ! こっちは鬼神の件のお仕置きも兼ねてツーサイズ落としてるから、ちょっとでも走ればポロリもあるよ!』


 っ!!!


 アイシャの姿に、思わず息を飲む。

 スクール水着なるものは初めて見たが、少なくともエクレールの言った通り今にも暴れ出しそうな双丘が猛威を振るうかの如く激しい主張を繰り出している。


「……何なんだこれは、布面積は多いのに無性に恥ずかしい……」


 顔から火を噴きそうな程に真っ赤に染まった頬と潤んだ瞳。

 はち切れんばかりの胸を必死に抑えるアイシャ。


「か、かわいいよ……」


 どちらかと言えばその必死過ぎる姿に多少の同情も湧いてくるが、エクレールには感謝しかない。


『流石ムッツリレイドね! 胸だけじゃなくて太ももまで凝視するあたり本格的に気持ち悪いわ!』


「別にそこまでじっくり見てねぇしっ!」


 確かに太ももに目は奪われたけどさ。

 ってか俺の目線まで追わないでくれよ。紹介してんのはエクレールなんだしちょっとぐらい見たっていいじゃないか。


『それじゃあ次、エントリーナンバー3番! ネタ枠かと思いきや一番無難にまとまったメイ! 王道の白ビキニと麦わら帽子よっ!』


「えへへっ。レイドくーん、似合ってる?」


 可愛らしくクルリと一回転してみせたメイは華やかに笑みを浮かべる。


『何気にスタイルは一番良いのよね、細い割には出るとこ出てるし。恐るべし童顔妹キャラ』


 エクレールの言う通りスラッとした脚や腕、陶器のように白い肌、派手さは無いが一番バランスが整っているのはメイだろう。


「完璧だ。良く似合ってるぞ。」


「ありがとっ!」


 ニカっと眩しい笑顔を浮かべるメイに癒される俺を尻目に、エクレールは最後の紹介へと突入していく。


『最後は完全ネタ枠! ハーレム途中参加で焦りを見せるサクラ! 何を勘違いしたのか黒い紐だけを身に着けての電撃参戦だぁぁぁ!!』


「ちょっと! 焦ってなんか無いわよ! それにこの紐ならレイさんが喜んでくれるって言ってきたのはあなたじゃない!?」


 煽るような口調のエクレールとそれに食って掛かるサクラ。

 そう言えばこの二人ってエクレールが姿を見せてない時から何かと相性が悪かった様な……。


 エクレールが呪い扱いされて怒り心頭だったのは記憶に新しい。


 まぁ、それはともかくとして、これは中々目のやり場に困る。

 と言うか直視は無理だ。


 本当に細紐が最低限を隠しているだけの状態はある意味裸より危険かもしれない。

 ズレ落ちないための措置としては強めに結ばれているであろう紐は、隠すよりも縛る様に見えてしまい、これはこれで色々アウトな気がする。


「なんか色々考えてくれたみたいだけどさ、流石にその格好でうろつくのも危ないし、もう少し無難なやつに変更できないか?」


「……! レイさんはこの水着、お嫌いでしたか?」


 いや、そんな悲しそうに言われても……。


『ったく、折角レイドの為に恥を忍んでこんなバカみたいな格好してんのに最初に出てきた言葉がそれなの? まずは褒めなさいよね。それから変えて欲しいならもうちょっと優しく遠回しに言いなさい』


 絶妙にサクラを小馬鹿にしつつも、フォローと言う名の説教を下すエクレール。

 確かに、せっかく頑張ってあんな格好で出て来てくれたサクラに対して何も言わないのは失礼か……。


「あー、その……考えてくれたのは嬉しいし、好きか嫌いかで言えば大好きだけどさ、そもそもそれって水着ですらないよね? それにほら、他の男の目もあるしその格好じゃ目立ちすぎるかなって……」


 俺は精一杯の言葉を尽くしたつもりだったが、


「えっ!? レイさんが……私の事……大好きって……! 他の男には見られたくないって……!」


 どうやらとんでもない方向に勘違いしたらしい。


 ってかどんな耳してんだよ。

 なんでそこだけピンポイントで抜き取るかね?


 でもまぁ、「着替えてきます!」と元気よく去って行ったし何も言うまい。

 ……なんだか遊ぶ前からどっと疲れた気がする。




 それから十数分後。


 淡い水色のワンピースタイプの水着を身にまとい登場したサクラと共に、俺達は今度こそ海へと繰り出した。




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