7 カラクリ
『何を根拠にこんな狂った事してるのか知らないけどさ、今回は本当に当たるんだよな? 信じていいんだよな?』
『その話の前に、君に見せたいものがある』
『見せたいもの?』
このタイミングで?
『言ったろ? 深淵を見せると。これが人の業さ』
エクレールの言葉と同時、俺の瞳に一瞬膜が張ったような違和感が訪れる。
『これは……!?』
『視えるようになったかい? これがカラクリだよ』
ディーラーがボールを投げ込み、傾斜に反って勢いを無くしたボールは自重によりやがて自然と止まっ……らない!?
風に押される様に後押しされたボールは本来落ち着くはずだった場所からズレて停止した。
当然の如く、そこは0番でも無ければ賭けている者のいない、所謂店側にとっての当たり番号。
『なんだよこれ……ボールを後ろから押したあの緑のモヤモヤはなんだ?』
『風の魔法だね。目に見えない魔法でボールの位置を調整しているのさ。彼はディーラーの皮を被った魔術師、魔力の流れが視えるようになった今ならどうして負け続けたかわかるだろう?』
『……っ! 詐欺じゃねぇーか! どうしてこんな仕組みだって知ってたのに言わなか……っえ? ……妖精??』
非難の声もそこそこに俺の視界に突如として映るのは、手のひらサイズの小さな……妖精?
『いやん、妖精だなんて嬉しい事言ってくれるじゃない~。魔力を可視化出来るようにしたし、ついでだから私の体も構成してみたわ。って言ってもレイドにしか見えない魔力体だけどね~』
妖精が発する声はエクレールそのもの。
その見た目はリリアに負けず劣らずの流れる様な銀髪と、色白で目鼻立ちの整った端正な顔つき。
リリアが美少女であるならば、エクレールは確かに美女と呼ばれるに相応しい。
『アンタ……本当に美人だったんだな……』
『ちょ、ちょっと。急にどうしたのよ? いきなりそんな……』
あたふたと慌てだすエクレール。
今まで散々自分で絶世の美女なんて言っておきながら、いざ言われると照れるとか……。
中々可愛いところもあるじゃないか。
『素直に思った事を言っただけだよ。自分で言うだけあって確かにエクレールは綺麗だ』
『や、やめなさいよ……! ……っ……』
頬を朱に染めて本格的に照れだす始末。
妖精サイズと相まってその仕草は非常に可愛らしい。
『エクレール』
『な、なによ……』
『昔さ、絶対「口を開くと残念」って言われた事あるだろ?』
『…………! てめぇごらぁぁあぁクソガキィィ! 人が気にしてる事をよくもぉぉ!!』
ほら、それだよそれ。
アンタそのせいで絶対損してるよ。
『落ち着け。自覚はしてるんだな』
『私だって……悩んだ時期もあったわよ……』
『悩んだうえでの今ならもう手遅れだな……顔が良いだけに残念だ……』
『私の心の傷を抉るなぁぁー』
意気消沈のエクレール。
本当に、どうしてここまで自由奔放な性格になってしまったのか。
『ま、俺は嫌いじゃないぞ。堅苦しい大賢者ってのもとっつきにくくて嫌だしな』
『レイド…………アンタ意外と良い男なのね』
そんな心底嬉しそうな顔するなよ。
こっちが照れるじゃねぇか。
『そりゃどうも。話逸れちゃったけどさ、最後のゲーム、もちろん秘策はあるんだよな?』
この際イカサマを黙っていたのは捨ておこう。
どうせギャンブルを楽しみたかったとかその程度の理由だろうし。
問題は最後のゲームで勝てるか否か。
エクレールは最後に笑えば良いと言った以上、何某かの策はあるはずだ……たぶん。
『……もちのろんよ! ここからが大賢者様の腕の見せ所ってね!』
勢いを取り戻したエクレールは自信有り気に口を開く。
「最後の勝負だ。もう一度エンブレムに一点狙いで金貨100枚を賭ける」
どこか挑発を含むようにディーラーへと宣言する。
「承りました」
ほんの一瞬、ディーラーの口角が上がって見えたのは俺の気のせいでは無いだろう。
こいつ……内心ではバカな客だと嘲笑ってたんだろうな。
「まいります」
泣いても笑っても最後の賭け。
ホイールへと投下されたボールが勢いよく転がりだす。
『エクレール、頼むぞ』
『合点承知の助! 美人なお姉さんにまかせんしゃいっ!』
エクレールの手から放たれる魔力風。
それはディーラーの風をものともせずに打ち消すと、勢いが衰える事無くゴールへの道となる。
「っ!??」
驚愕の色を滲ませ、声にならない悲鳴を上げるディーラー。
時間にして十数秒。
不意に決着の時は訪れる。
本来絶対に入るはずのないボールは、綺麗な弧を描き吸い込まれる様にエンブレムへと着地した。
「っっしゃぁぁぁぁああ!!」
喜びが雄叫びとなって木霊する。
「「「「おおおおおおおおっ!!!」」」」
いつの間にか増えていたギャラリーから上がる歓声。
どうやらかなりの注目を浴びていたらしい。
『ナイスだエクレール!!』
『フハハハハハッ! これが大賢者の実力よ! どんなもんじゃいっ!』
「…………」
信じられない様子で呆然と肩を落とすのはイカサマディーラー。
「お、おめでとうございます……」
欠片も心の籠っていない言葉。
血の気が引くように青ざめていく様は見ていてなかなか愉快である。
「奇跡ってあるんだな」
魂が抜けたディーラーを尻目に、俺は一万枚の金貨に顔を綻ばせるのだった。
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