62 だとしても俺は
『やっぱり? 気づいてたのか?……』
まるで知っていたかのような口ぶりのエクレールにその真意を問う。
『私もつい今しがた気づいたんだけどね……。レイドが……いえ、恐らくは【運命の導き】が示した通り、勾玉の力を取り込んだ今ならアイシャの呪いは解除出来るわ。ただ……』
含みを持たせたエクレールは気まずそうに言葉を濁すと、不意に視線を逸らした。
なぜ?
とは思わない。
彼女の態度は俺の予想を肯定する意味で、これ以上無い程分かりやすいものだったからだ。
『俺の命を削るんだろ? そして暴食の魔人の呪いが俺の体を奪いに来る、ってところか?』
俺がほぼ間違いないであろう予想を口にすれば、
『付け加えるなら、レイドが戦闘不能になれば結局は全員鬼神に殺されるわよ? アイシャの呪いを解いても生き残る術は無いわ』
付け加えられた内容がことのほか重い……。
だが、確かにその可能性は十分考えられる。
アイシャの命にこだわり過ぎて、後先考える余裕が無かったようだ。
『……どうせ最後になるならミーア達だけでもダンジョン外に転移させられないのか? 俺の命全部を絞り尽くせば、大賢者ならそれくらいできるよな?』
他力本願も甚だしいが、最後くらい我が儘を言っても良いだろう。
どうせ死ぬなら絞れるだけ絞り取ってくれて構わない。
『出来る出来ないで言えば出来るわよ……。でもね、私にそのつもりは……アイシャの呪いを解く気は無いわ……』
っ!?
背を向けたエクレールの顔は見えない。
しかし、彼女は明確に否定の意志を示した。
呪いを解く気が無い?
この状況で……こいつは何を言っているんだ?
『ふざけんなよ!? どうして!? 早くアイシャの呪いを解いてくれよ!! もう時間が無いんだ、わかるだろ!?』
感情的な言葉を並べ立て、俺は怒りのままに怒声を放つ。
目線を変えれば既に血の気の引いたアイシャの顔がそこに在り、本当なら話している時間すら惜しい程事態は急を要しているからだ。
『ふざけてんのはどっちよ! レイドは死んじゃうのよ!? それにアイシャが助かったとしても、また鬼神に攻め込まれたらアイシャ達だけじゃない、今度こそヤマトそのものが終わるわ。でもここでレイドが鬼神を倒せば被害は最小限に抑えられる、どっちを優先すべきかなんて考えなくても分かるでしょ!?』
『……だけど! それでも俺はアイシャを見殺しになんて出来ない!』
『青臭いこと言ってんじゃないわよ! そう言うのは全部自分の力で出来るようになってから吠えなさい!』
『……でも……このままアイシャを放っておけば死ぬんだぞ? 助ける方法があるのに……』
既に怒りは露と消え、エクレールの正論に反論の余地はなかった。
きっと今の俺はただただ泣き縋る子供の様で、そこには冷静な判断も道理もあったもんじゃない。
『最初からアイシャだって覚悟はしてたはずよ。あの子の願いは自分が生きながらえる事じゃない、どんな犠牲を払ってでも鬼神を倒す事。それくらい解ってるわよね?』
『…………』
有無を言わせぬエクレールの迫力に気圧されて、俺は言葉を失った。
ただアイシャを助けたいだけ。
それは酷く独善的で感情的な自己満足なのかもしれない。
エクレールの言う通り、アイシャの願いは鬼神討伐なのだろう。
だとしても俺は……。
これ以上メイに悲しい思いはさせたくない。
なにより、アイシャを見捨てる事なんて絶対に出来――
『もうここまでくれば個人の感情なんて関係無いわ。私は呪いを解かない。恨みたいなら恨めばいいし、レイドが不貞腐れるなら私があなたの体を使って鬼神を倒す。今回の件はそれでお終いよ』
エクレールの口から放たれるあまりにも無慈悲な宣告。
そして、止めを刺すようにエクレールは言葉を繋げる、
『諦めなさい。あなたにアイシャは救えない』
一切の反論を許さぬ冷徹な声は、希望を抱いた俺の心を一瞬で崩壊させた。
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