57 たっぷりお説教です
人身御供。
それは古来からヤマトに伝わる禁呪の一つ。
有り体に言ってしまえば自身を贄とし神へ命を捧げる代わりに、暴龍八岐大蛇の力を一時的にその身に宿す事の出来るまさに命懸けの最終手段。
その最終手段を持って、アイシャは鬼神を討つと言うのだ。
自らの命を賭して。
それが、涙ながらにメイが語った真実。
「ははっ……秘策って言ってたのはそれの事だったんだな……」
乾いた笑いしか出て来ない。
何が信じろだ……何が行かせてくれだ……。
結局肝心な事は何も言ってくれなかったアイシャ。
怒りなのか、悲しみなのか。
何とも言えない感情が胸の中を渦巻く。
「ごめんなさい……」
そんな俺の内心を尻目に、項垂れたサクラさんが力なくつぶやいた。
どうやら彼女はアイシャに口止めされていたらしい。
国を救うべく命を賭す者とそれを見送るしか出来ない者、きっとサクラさんにも葛藤があったはずだ。
しかし、綺麗事だけで解決する程今の状況は甘く無い。
彼女は断腸の思いでアイシャを見送ったのだろう。
そしてそれが、今のメイとの諍いに繋がっている。
「謝る事じゃないよ。サクラさんにも理由はあっただろうし」
俺は二人を安心させるよう、右手でメイ、左手でサクラさんの頭を優しく撫でる。
「ちょっとアイシャに説教して来る。必ず連れて帰るから、ここで待っててくれ」
既に鬼神との戦闘は始まっているだろう。もう間に合わないかもしれない、そんな思いも脳裏を過るが何もしないでただ待つだけと言う選択肢など俺には無い。
「メイも行く!」
「私も行きます!」
即座に拒否の姿勢を見せ、自分も行くと意気込むメイとサクラさん。
気持ちは分かるが……正直足手まといになる可能性の方が高い。
俺はチラリと後方に佇むミーアへと目線を投げる。
意図としては、この二人と共に待機していて欲しかったのだが……
「良いじゃないですか、皆で行きましょう。そしてアイシャさんにはたっぷりお説教です」
黒い笑みを浮かべて、ミーアはきっぱりと言い放つ。
どうやらかなりのご立腹らしい、顔が全然笑っていない。
「……分かった。時間も惜しいし取り敢えずダンジョンへ向かおう」
三対一であれば説得するだけ無駄だと悟り、俺はメイとサクラさんを抱えて宙を舞う。
本当はミーアにどちらかをお願いしたいところだが、ミーアの魔力も心許無い以上、俺が運んだ方が幾分ミーアの魔力も節約できる。
「場所は分かるんだよな?」
「はい、私が案内します」
抱き寄せたせいなのか、少し頬を赤らめたサクラさんが道案内を買って出る。
男に免疫がないとは聞いていたが、自分でついてくると言った以上は我慢してもらう他ない。
「行こう」
俺とミーアは目線を合わせ頷き合うと、最高速度で朝焼けの空を駆け抜ける。
どうか間に合ってくれ。
全員がそう願い、アイシャの無事を祈っていた。
瞬く間に流れる景色を背に、俺達はダンジョンへと到着すると脇目も振らず下層へと進行を開始する。
幸いと道に迷う事が無かったのは、所々に点在する小鬼との戦跡が目印となってくれたからだ。
幾層もの階を跳ぶように下り、全力で駆け抜けたダンジョンの最奥。
そこで俺達は、如何に自分達の考えが甘かったのかを思い知らされる。
突きつけられるは無慈悲な現実。
俺達が目にしたアイシャは血に染まりボロ雑巾の如く鬼神に屠られ、凄惨な姿へと成り果てていた。
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