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51 我が儘

「見苦しい所を見せてすまない……くれぐれもメイには内密で頼むぞ……」


 目を真っ赤に腫らし、泣き疲れたがどこかスッキリとした表情を浮かべるアイシャ。


「それはアイシャ次第だな」


「ふふっ。そうですね、また隠し事なんてしたら()()()()()は怒りますよ?」


 アイシャが姉としての重圧を抱えるのなら、自分がアイシャの姉になればいい。

 そんな暴論染みた慰めを口にするミーアだが、当のアイシャは満更でもないようで、


「ありがとう……おかげで楽になったよ」


 照れくさそうに頷くその顔にいつも見せる凛々しさは鳴りを潜め、どこか少女の様な幼さが混じっていた。


 そりゃ、あれだけ泣けばなぁ……。

 と、雰囲気ぶち壊しの感想を抱かなくもない。


 最終的にミーアとアイシャは二人で泣き続けた。


 アイシャも相当に我慢していたのだろう。

 家族の死、故郷の心配、手助けを探す重圧、メイの前での姉としての威厳、色々と積もり積もったものが大爆発して号泣に号泣を重ねた。


 なかなか泣き止まない二人を尻目に、ふと途中で冷静になってしまった俺はひたすら二人の背中をさすり続けたりもした。


 気分は泣いてる妹を宥める兄。

 どうすれば泣き止んでくれるか心配になったほどだ。


「こんな姿を見せた後で真面目な話をするのもなんだが……」


 おもむろに前置きをはさんだアイシャは、居住まいを正し口を開いた。


「さっきも話した通り、絶対に倒さなければならない鬼は三体。最初の襲撃こそ三体で攻めてきた鬼たちだが、それ以降の断続的な襲撃は斬鬼と暴鬼だけで、鬼神はダンジョンの中だ」


「なるほど、ならこっちからダンジョンに出向いて全部ぶっ飛ばせば問題は解決って事だな?」


 我ながらシンプルな考えだと思ったが、少し困った様子でアイシャは首を横に振る。


「いや、いくらレイド達が来てくれたとしても多勢に無勢。ダンジョンの中で万を超える小鬼の軍勢に囲まれればまともに辿り着く事すら出来ずに終わる。よしんば辿り着けたとしても、その時には戦力の大半を奪われている状態だろう……」


 そう言って目を伏せるアイシャ。


 しかし、数瞬の間を置くと、次の瞬間には覚悟の灯った瞳が俺とミーアを貫いた。


「だから今回の討伐作戦は二つの部隊を編成する。一つは鬼神討伐のダンジョン組、もう一つは斬鬼を暴鬼をこの街で迎え撃つ組だ。レイド達にはこの街に残り斬鬼と暴鬼を倒して欲しい、当然小鬼の軍勢も加わり簡単な戦いにはならないと思う。しかし、やつらが軍勢を率いて来る時はダンジョンも手薄になる、その隙を突いて拙者達が鬼神を討つ」


 力強く言い切ったアイシャの作戦を頭の中で反芻する。

 敵の戦力分散は良い考えだ、俺達が小鬼含めて二体を相手にするのも問題は無い。


 だが……、


「勝てるのか? 鬼神に?」


 俺が疑問を抱いたのはこの作戦の根幹部分。


 アイシャは強い。

 斬鬼相手に見せた本気の実力は、俺とした朝の鍛錬とは比べ物にならない程に洗練された動きだった。


 とは言え、そこを踏まえても斬鬼以上に強いと推察される鬼神相手に勝てるかと考えれば、素直に頷く事は難しい。


「無論だ。拙者が陣頭指揮を執り今草薙に残っている全ての兵力を投入する。街は手薄になりレイド達に負担を強いてしまうが……どうか拙者の我が儘を許して欲しい」


「「…………」」


『我が儘』、アイシャの放ったその言葉が、俺とミーアの顔を(ほころ)ばせた。


「ふふっ。妹の我が儘なら姉としては断れませんね」


「そうだな。そこまで言われると、俺達は街の鬼を片付けてアイシャ達の凱旋を信じて待つよ」


「ありがとう。作戦開始は次の襲撃と同時、斥候から斬鬼たちの進軍連絡が入り次第、入れ替わるように拙者達がダンジョンへと強襲を掛ける」



 こうして、俺とミーアは()()()()()()()()()()()()()ヤマト到着一日目を終える事となる。


 アイシャの覚悟。


 その本当の意味を知らないまま、俺達は眠りについた。







 カンカンカンカンカンカンッ!


 突如として、火急を知らせる鐘の音が鳴り響く。


 反射的に体を起こすと、ほぼ同じタイミングで起き上がるミーアとアイシャ。


「思ったより早かったな。割とせっかちな奴らだ」


 寝起き直後にも関わらず、俺はハッキリとした口調で軽口を叩く。


 普段なら深く眠りについているであろう彼は誰時(かはたれどき)


 まだ空も白む前に叩き起こされはしたが、今日に限って言えば眠たいなどとは言ってられない。


「こっちの都合はお構いなしですね」


「まぁ、体力回復出来ただけでも良しとしよう」


 同様にミーアとアイシャも寝起きとは思えない程意識はしっかりしている様だ。


「メイ……」


 言いながら俺はメイへと視線を移すと、昨日の夜から変わりなく小さな寝息を立てていた。


「すまんがそのままにしてやってくれ。元々メイは街に残すつもりだったし、きっと故郷に帰って来て安心したところもあるんだろう」


 姉の顔を覗かせたアイシャに頷きを返し、俺達は急ぎ支度を整える。


「奴らが到着する予定時間は?」


「およそ一時間、歩きでの集団移動故そこまで早くはない。拙者達は準備ができ次第ダンジョンへ向けて出発する。色々と無理を言って済まないが街の事はよろしく頼む」


「任せとけ。アイシャ達の凱旋パーティ準備までが今日の俺の仕事だ」


「ふふっ。忙しくなりそうですね」


 城全体を慌ただしくも張り詰めた緊張感が支配する中、俺とミーアの軽口に微かな笑みを浮かべるアイシャ。


 今から緊張しても仕方ない。どうせまだ戦いは始まらないのなら、割り切って心を落ち着かせるのも大事な事だ。



「メイ、行ってくるね」


 一頻りの準備を終えたアイシャは、寝ているメイの頭をそっと優しく撫でる。

 慈愛に満ちたその表情は、きっとメイが起きた時には全てを終わらせる決意の現われでもあるのだろう。



 そして、アイシャは名残惜しそうにしながらも、立ち上がり大きく息を吐くと、


「これで終わりにしよう」


 戦士の顔を張り付けて、全ての決着を宣言した。



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― 新着の感想 ―
[一言] 見事なまでの死亡フラグ………… 言わば親玉に挑むわけだから多分主人公達が嫌な予感かなんかとかで助けに行く……んだろうけどとりあえず全員無事エンドになるのを祈っとこ
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