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5 魔法

『で、結局どこに行くつもりなんだ?』


 大賢者の実力を見せると言い放ったエクレール。

 実際彼女の事は史実として紙面の上でしか知らない。


 そんな大賢者が実力を見せると言い切ったのだ、少なからず何が起こるか期待してしまうのも無理は無いだろう。


『それはついての、お・た・の・し・み! まずはそう……軍資金の調達からね!』


『軍資金? 金がいるのか?』


『必要経費よ。んー……そうだ、さっきレイドが食べたペンダントの残り、チェーンの部分があるでしょ? それ借りるわね』


 言うが早いか勝手に動き出す俺の体。

 この感覚、慣れないなぁ……。


 気分は操り人形……いや、気分ではなく実際に操り人形か。


 そんな事を考えている間にも俺の右手はチェーンを握りしめると淡く発光し始める。


「はっ!? 魔法!? 魔法なのかこれ!?」


『声が漏れてるよ』


『あっ……ごめん』


『私は別い良いけど、あんまり独り言を大声で出してると変質者扱いされるからねー』


 珍しく正論で諭されてしまった……。


『そ、それはともかく、今使ったのは魔法だよな!?』


『魔法じゃないわよ、錬金術』


 光の治まった右手を開くエクレール。そこにあった物は……、


『繋がってる……!』


 ペンダントトップを無くし、一本の線となっていたチェーンは繋がりを取り戻し円の形を描いていた。

 しかも傷や劣化の後は見られず、まるで新品の様な輝きを放って。


『どうにか上手く言ったみたいね。それじゃ次はっと……』


 再度、握りしめた右手に淡い光が灯る。


『……あー、この体じゃ三重付与までが限界みたいね。ま、これでも多少のお金にはなるでしょう』


『エクレール……今のは……』


『付与魔法よ。このチェーンに「炎属性強化」「水属性強化」「雷属性強化」の三つを施したわ』


 付与魔法!?

 三っつ!?


『まてまてまて! 今エクレールがやったのは俺の体を使ってだよな? だとするとスキルの無い俺でも錬金術や魔術が使えるのか!?』


 魔法の行使は本来【魔術師】や【回復術師】のレアスキルをもつ人間にしか行えない。

 当然、錬金術を使えるのは【錬金術師】だけ。


 それが世間の常識であって絶対のルール。


 絶対のルールだった……。


 それをエクレールは簡単にぶち壊した。


『落ち着きなさい。私が複数スキル持ちなのは例外中の例外よ。これでも大賢者ですからね! で、さっきの答えだけど、今のレイドなら魔法も錬金術も使えるわよ、私を取り込んだ特典みたいなものね感謝なさい!』


『マジかよ……! 大賢者様に尊敬しか出てこない!』


 流石に複数スキルの所持は例外中の例外らしいが、この際そこはどうでもいい。

 要は俺にも使えるか否か、そしてそれが正であるのならばこれ以上の答えはいらない。


『フハハハハハッ! いいねいいね! もっと崇め奉りたまえ! そうよ、これよこれ! 君には大賢者を崇拝する気持が足りないのよ!』


 今回ばかりは素直に敬服するほかない。


 さっきまではスキルの覚醒やら呪いの解除やら高次元過ぎて考えもしなかったが、俺の手を使って魔法を見せられたからには話が変わって来る。


『もっとも、あくまでレイドの魔力を使うから私の全盛期みたいに禁呪祭りだヒャッハァァァ! は出来ないわよ? 今だって三重付与で止まっちゃたし』


『いやいやいや、禁呪祭りだヒャッハァァァ! なんて求めてねぇよ。魔法を使えるだけでもすごい! これで冒険者として一段階上に行ける!』


『盛り上がってるとこ悪いけど、それはまた今度ね。(ブツ)は出来たし、ちょっと移動するわよ』


「ぉっと!」


 急に動き出した自分の足に思わず驚きの声を漏らす。


『急に動くなよ……』


『自分の体でしょ? しっかり管理しなさいよね』


 管理と言われても……勝手に動かしてんのは誰だと思ってんだよ。


 そんな事を考えている間にも足は勝手に動き続け、とある店の前へと辿り着いていた。


『なぜに質屋?』


 質屋とは物品を担保にお金を貸してくれる場所。

 俺も駆け出しの頃に何度か利用した事はあるが……。


『見てれば分かる。余計な口は挿まないでね?』


「いらっしゃい」


 店の扉を開けばそこはさして広くもない普通の店。

 どこにでもいそうな普通の顔の店主がお決まりの挨拶を口にする。


「質預かりを頼む」


 ぉうっ!?

 俺の口が勝手に動いて喋った!

 予想はしていたが想像以上に違和感が酷いな……。


「どんな品で?」


「これだ」


 そう言って店主へと渡したのは、リリアから預かり俺が食い千切ってエクレールが補修強化したあのチェーン。


「ふむ、見せてもらうぞ」


『おい! それはリリアから預かった大切なものだぞ?』


『分かってるよ、だからこその質屋でしょ。ここならお金を返せばアイテムは戻って来る、売りに出すよりはマシじゃない?』


『そうかもだけど……。一体何がしたいんだよ?』


『言ったでしょ、軍資金の調達よ』


「こいつは……! お前さん、こいつを一体どこで!? こりゃ国宝級の代物じゃねぇかっ!!」


 興奮気味に話す店主の圧が押し寄せる。

 ちょっと顔が近いんですけど……。


『あぁ……魔法の件で流しちゃってたけどこれ三重付与なんだよな? そりゃこうなりますわ』


 そもそもエクレールは平然と三重付与などと言っているが、普通は一種類でも効果が付与されていれば十分過ぎる程に希少アイテムである。


 二種効果のアイテムに至ってはどこぞの王族に献上されているだの、裏組織のボスが集めているだの根も葉もない噂レベルでしか話に上がらない程だ。


 三重付与なんて夢か幻でしかない。


「先祖から代々伝わるものなんだ。いくらになる?」


「値段なんてつけられねぇよ……! ウチの店にゃ手に余る。もっと大きな店で見てもらった方がいいんじゃないか?」


 額に汗を浮かべ他店を進める店主。


『良いおじさんだな』


『そうね、商売人としては甘い気もするけど悪くはないわ』


 質屋なんて結局は店基準の言い値が全てだ。

 いくら希少価値が高いとは言え店側が提示した額で頷くか否かは客次第。


 要はいくらでも吹っ掛けていいはずなのだが、この店主は素直に辞退を申し出た。

 商売人としてはあるまじき行為だが、その反面人間性には好感が持てる。


「そうか、なら言い方を変えよう。いくら出せる?」


「……ウチの店だと全財産絞り出しても金貨1200枚程度だぞ?」


『金貨1200枚!? 俺の一月の稼ぎが良くて金貨2枚……50年分の価値……!』


 幻のアイテム恐るべし……。


「十分だ。それでよろしく頼むよ」


「本当に良いのか? デカい店に行けば余裕で倍は貸してくれるぞ?」


「ああ、構わないよ」


「分かった、ちょっと待っててくれ」


 あたふたと店の奥へ引っ込む店主。

 数分後、店主は俺が見た事も無い大きさのパンパンに詰まった革袋を携えてきた。


「きっちり金貨1200枚ある、確認してくれ」


「大丈夫、信用してるさ」


 確認する必要は無いと言い切ったエクレールは革袋を……!?


『収納魔法!?』


 受け取った瞬間、革袋は瞬く間に虚空へと消えていく。


『急に大声出すんじゃないわよ! 見たらわかるでしょ!?』


『ごめん……つい……』


 見ても分からない、正確には初めて見たから驚いたんですけどね。


 収納魔法なんて商売人からしたら喉から手が……って店主のおっさんが顎外して驚いてる!

 その気持ち分かるよ、普通はそうなるよね。


「か、確認しなくていいんですかい?」


「貴方を信用したから預けたんだ、なら疑う必要も無いだろう?」


 店主としても金貨1200枚の仕事などそうそうある事でもないのだろう、それを信用の一言で片づける俺……エクレールに憧憬の眼差しが向けられる。


 そんな目で見ないで!

 格好良いのは俺じゃなくてエクレールだから!

 見た目と中身が違うから!


「それじゃあ、近いうちに引き取りに来るよ。万一返済期日までに来なければ流してくれていい」


「わ、わかりました」


 入店時とは百八十度変わった店主の視線を尻目に店を出る。


『で、結局のところそんな大金持ってどこ行くんだよ?』


『そう慌てなさんな、魔道の深淵はすぐそこさ』


 エクレールは終ぞ目的を話す事は無かったが、その足取りは軽く迷いない。


 それから入り組んだ裏路地を歩き続ける事数十分。


 立ち止まったのは街外れの古びた民家の前。


『なんだよここ? こんなところに何が……』


『フフっ。()()()()はもうすぐそこよ』


 お楽しみ? 



 コンコンコンコンッ。


 エクレールが子気味良く木戸を叩く事4回。


「どちらさんで?」


 っ!?

 現れたのはどう見ても堅気とは言えない風貌の男。


 反り上げられた頭と数えるのも馬鹿らしい傷跡、冒険者とは違った意味で戦いに身を置く裏の住人。


「エイグスの友達だ」


 エイグス? だれそれ?


「……奥へどうぞ」


 厳めしい目線を向けられつつも扉をくぐり中へと入る。


 室内は外見に反する事無く、経年劣化の目立つ普通の小部屋。



 ただ一点、()()()()()()()()を除いては。



『ここは……ここが目的地なのか?』



『そうだよ。待たせたね。この先に在るのが魔道の深淵、欲望と破滅が渦巻く場所さ』



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