44 ニヤニヤしながらナデナデしてるだけ
「カメ吉ゴーゴーっ! ぜんそくっぜ~んしーんっ!!」
「まさか伝説級の魔物をテイムしてしまうとはな! おかげで予定よりも早く到着できそうだ!」
歌うメイと驚くアイシャ。
違った角度で喜びを露わにする姉妹だが、浮かべているのは瓜二つの笑み。
ちなみにメイはカメ吉の頭の上でご機嫌に歌っている。
俺達は今、大海原のど真ん中で船を途中下船すると言う何とも不思議な経験を経て、カメ吉の背に乗りヤマトへと向かっていた。
船からカメ吉へと移る際、空を飛べないアイシャとメイを俺が抱えて移動したのだが、なぜか飛べるはずのミーアをお姫様抱っこで運ぶはめになったのはいまだに不思議でならない。
まぁ、喜んでくれたみたいだからいいけど。
カメ吉は滑るように海を進み、その速度は船の数倍を余裕で超えている。
なにより船と違って揺れない快適さが非常にありがたい。
そんなカメ吉の存在に感謝しつつも、ここで懸念が一つ。
アイシャ達にとっては過程はどうあれ、ヤマトへ早く辿り着く事が何よりの嬉しい誤算となってくれただろう、なのでカメ吉のテイムついて細かい事は聞かれていない。
問題はミーアだ。
「流石レイドさんですっ!」
そう言ってミーアは目をキラキラと輝かせる。
褒めてくれるのは嬉しいが『流石』の一言で信用されてしまうのもなぁ……。
些か盲目的になり過ぎじゃないかと危惧してしまう。
そりゃ好意自体は素直に嬉しいよ?
でも俺のやることなす事全肯定は少し違う気もしている。
「ミーア。俺の事を信用してくれるのは嬉しいけど、少しは疑っても良いんじゃないか? 自分で言うものなんだが、普通はエンシェントタートルなんてテイム出来ないぞ?」
『どの口が言ってんのよ?』
『それは自分でも分かってるよ……』
エクレールに突っ込みを受けつつ、自分でも説得力の無さは自覚している。
しかしそれでも、ミーアの目を覚ますなら早い方が良い。
肝心のエクレールの事は何も伝えていないクセに俺を疑えと言うのもおかしな話だが、妄信的過ぎるのはいつかミーア自身の……、
「あら、レイドさんは秘密をしつこく聞いてくる女が好みなんですか? 私だってレイドさんが普通ではあり得ない程異常なのは気づいてますよ? だから、話してくれる気になったらいつでも聞かせて下さいね」
全然まともだった。
「あ、でも。仮に一生話してくれないとしても、私がレイドさんを信じると決めたんです。だから何があっても信じる事に変わりはありませんよ」
盲目的……とは少し違う信頼を宿したミーアの瞳。
……なんか……ごめんなさい……。
ミーアの意志に迷いはなかった。
何も言わない俺に気づかい、健気に待ち続けているだけ。
俺に対してノーとは言わないミーアを勘違いをしていたのは俺の方だったと言う訳だ。
『私との事は人には言えない関係だもんね……』
『いちいち言い方が紛らわしい! 言いたくてもどう説明すれば良いのか分かんないんだよ!』
『あれ? 言いたかったの? てっきり私は二人だけの秘密だと思ってたのに』
『なんで秘密にする必要があるんだよ?』
『なんかさ、そう言うのって良いじゃん。二人しか知らない秘密』
えへへ、と満更でも無く微笑むエクレールだが……、
『は? なにそれ?』
お前は一体何を言ってんだ? そう言葉に出し掛けたところで、
『……なぁーんだ、私だけだったんだ……そうよね、レイドにとっては私なんてハーレム要員の一人でしかないもんね……』
言ってる事はいつものふざけたエクレールだが、その声のトーンは低く、途端に顔を背けだす。
あれ……?
これはひょっとして?
『エクレール、ちょっと拗ねてる?』
『べっつに』
背けていた顔をわざわざ戻し、あらためてプイッ、とあからさまに顔を背けだす始末。
しかし、小さな妖精のそんな仕草が可愛らしく、思わず笑みが零れる。
どうやらエクレールとしては彼女なりに思うところがあったらしい。
『ちなみにさ、ミーア達にエクレールの姿を見せる事って……』
『出来るわよ』
出来るんかい!?
簡単にカメ吉とパスを繋いでるからまさかとは思ったが……。
俺はてっきり出来ないもんだと思い込んでたよ。
『なぁ、エクレール。ヤマトの件が終わったらミーアにだけは教えても良いか? それまでは二人だけの秘密って事でさ』
アイシャ達は自分の国に残るだろうが、間違いなくミーアは呪いが解けてもついてくる。
そう考えると、いつまでも黙っているのは不誠実に過ぎる。
『……仕方ないわね。ま、私としてはレイドに私を独占させてあげてただけ、なんだけど。そこまで言うならミーアにも私の姿を見せてあげるわよ。でもでも、ヤマトの件が解決するまでは二人だけの秘密だからね! ね!』
『ああ、それまでは二人だけの秘密だ』
珍しく子供じみたエクレールに破顔しつつ、俺はそっと小さな頭を撫でる。
「……レイドさん?」
不思議そうな顔で俺を見つめるミーア。
しまった……。
エクレールが見えないミーアからすれば、俺はニヤニヤしながら空中を無意味にナデナデしてるだけの変質者。
客観的に見ればこれ程気持ちの悪いものは無いだろう。
エクレールからは、
『もっと撫でろぉ!』
と、クレームが飛んでくるがそんな事に構っている場合じゃない。
俺は即座に言い訳を開始すべく、口を開いた。
「え……あ、その、あれだ。色々話せてなくてごめん! ヤマトの件が一段落ついたら俺の事を全部話すからさ、そん時は聞いて欲しいなと思って。それまで待ってくれるか?」
あたふたと誤魔化すように早口となってしまったが、
「はいっ、いつまででも待ちますよ」
ミーアは不思議そうな顔から一転し、笑みを浮かべて頷いた。
広がる空と海。
眩く照り付ける太陽。
メイの歌声が響き、潮風が優しく頬を撫でる。
俺とミーアとアイシャとメイ、四人で楽し気に笑う平和なひととき。
後にして思えば、アイシャとメイは笑顔の仮面を張り付けただけ、だったのかもしれない。
この時の二人に、心から笑う余裕なんて無かったんだ。
沢山時間はあったはずなのに……。
俺は結局、アイシャの覚悟もメイの悲しみも、何一つ分かっちゃいなかった。
分からないまま、俺達はヤマトへと到着した。
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