42 派手に決めて称賛を集めなさい!
「私、海は初めてです!」
「ミーアちゃん! 一緒に泳ごうよっ!」
「こらこら、残念だがそんな時間は無いぞ?」
キラキラと太陽を反射する青い海。
キャッキャウフフと弾ける笑顔のミーアとメイ。
そしてそんな姿を微笑ましくも呆れたように諌めるアイシャ。
馬車での長旅と山越え、更に馬車での移動を繰り返し、俺達は今、港町スーザリアへと到着していた。
「拙者が出港手続きをとって来る、レイドは二人を見ててくれ」
まるで母親の様な発言を残し、アイシャは一人船着き場へと去って行く。
その背中を見て、俺はふと、あの日の朝を思い出す。
もし拙者が死んだときは…………メイを頼む
ハッキリとそう言ったアイシャだったが、俺には終ぞその真意は分からなかった。
あまりにも唐突な話。
当然その意図を聞く為に探りもしたが「もしもの話だ」と軽く微笑み流された為、煮え切らない思いを抱えたまま今に至る。
ほんと、なんであんな事言ったんだろ……。
「レイドさん! 出店がありますよ!」
「レイド君! 変な顔してないで何か食べようよ!」
物思いに耽る暇もあらばこそ。
まるで姉妹の様にはしゃぐ二人に手を取られると、俺はなすがままに屋台の一角へと引っ張りだされるのであった。
「うにゃー……もう少し遊びたかったなぁ……」
「そうですね……」
さっきまでとは打って変わって、生きる希望を失ったかの様に項垂れるメイとミーア。
その姿はますますもって姉妹と見紛う程にシンクロしていた。
運が良いのか悪いのか、計算されたかのようなタイミングでヤマト行きの船の出港に間に合った俺達は既に大海原の上。
スーザリアの街はとうに見えなくなっている。
「丁度出港の時間だったんだ、仕方ないだろ?」
アイシャの言う事は正しい。
俺達は遊びに来たわけでは無いからだ。
しかし、項垂れる二人を見ていると、少なからず母性と言うか父性と言うか兄性と言うか……とにかくもう少し遊ばせてやりたかった気持ちが湧いてくる。
特にミーアがあんなにはしゃぐのも珍しく、余程楽しかったのだろうと簡単に推測できたからだ。
「アイシャ達の問題を解決したらまた皆で遊びにこよう。その時は飽きるまで付き合うからさ」
俺は項垂れる二人の頭に手を乗せ、代替案を口にする。
「本当ですかっ!?」
「やぁったぁー! 絶対だよ? 約束だからね、レイド君!」
「ああ、約束だ」
途端に目を輝かせる二人。
何とも現金なものだが、これで喜んでくれるのであれば安いものだ。
『シレっと水着回の予告入れて来るレイドさんパねぇっす! これでロリ忍者も隠れ巨乳侍もガッチリハーレム要員の仲間入りねっ!』
『語弊がひどいっ!!』
水着回ってなんだよ?
そもそもこれは二人の為を思っての事。
決して次は海に入りたいなどとは思っていない。
別に水着なんて興味無い。
ただまぁ、皆が海に入りたいのであれば、付き合うのもやぶさかではない。
「ふふっ。楽しみですね」
「うんっ! 次は海にも入りたいし、もっと屋台の食べ歩きもしたいな!」
「全てに片が付けば……それも楽しそうだな」
アイシャも含め三人共楽しみにしてくれている様だ。
この約束は必ずや実行せねばなるまい。
下心を差し引いても、三人が笑ってくれるならば何にでも付き合おう。
ここにリリアも居てくれれば、言う事無しなんだけどな……。
「流石に五日も船の上だと退屈だな」
どこまで行っても青い空と青い海。
最初こそ感動も少なからずあったが、既に見飽きた景色となってしまった。
「そうですか? 私は毎日レイドさんと一緒に居れて幸せですよ」
ミーアさん?
さらっと可愛い事言ってくれてるけど、今は船の話をしてるんですよ?
『長旅で船に乗ったカップルは高確率で結婚するって話があってね』
最近何故か俺の頭の上を住処にしているエクレールが唐突に口を開く。
『何だよ? 藪から棒に』
『船の上って暇でしょ? やる事ないからヤるしかないよね的な』
『エクレール、ちょっと黙ろうか?』
こちとらただでさえ四人一室の狭い船室で美少女達に囲まれてんだぞ?
しかもお金は出すから一人部屋にしてくれと土下座までして頼んだのに、ミーアの「もし私たちの部屋に暴漢が来たらどうするんですか?」の一言でそれも玉砕。
正直ミーアの実力を考えればそう簡単に屈する事は無いと思うが、そう言う問題ではないらしい。
近くで守ってくれる安心感が必要と言われれば、首を縦に振る他なかった。
ヤマトへ着いたら前向きに客人として一人部屋を用意してもら……、
カンカンカンカンカンカンッ!
俺の思考を遮り、唐突に鳴り響くは船に備え付けられた号鐘。
その短くけたたましい鐘の音だけで、即座に緊急事態だと判断できる。
「周辺海域に大型モンスターの影が発見されました! 乗客の皆様は速やかに船室へ退避を! 冒険者で協力いただける方は甲板までお願いします!」
案の定と言うべきか、緊張を孕んだ船員の大声が耳を打つ。
「レイドさん!」
「ああ、行こうっ」
船尾に備え付けられたベンチに座っていた俺達は急ぎ甲板へと向かう。
『どうせ海竜かクラーケンあたりだろうし、そんなに急ぐ必要無いわよ?』
退屈そうにあくびをしつつ、エクレールは事も無げに言い放つ。
『どうせって……そんな危ない奴ら勘弁願いたいんですけど?』
何もをって海竜やクラーケンを軽視出来るのだろう?
そりゃ大賢者基準だと一発で終わりかもしれないけどさ。
船が破壊されれば一巻の終わりよ?
『余裕よ余裕。あんなのデカいだけの鰻とイカみたいなもんだし。さっさと倒して今度こそどこぞの有力商人とパイプが欲しい所ね。前回の追い剥ぎの巣窟は期待外れだったし』
『それもラノベノテンプレってやつか?』
『どっちかと言えばお約束ってやつね! なんにしろ必ず魔物はレイドが倒すのよ! 派手に決めて称賛を集めなさい!』
称賛云々は置いといて、襲って来るなら倒すほかあるまい。
こんな所で沈没船と一緒に海に眠るなんて真っ平ごめんだ。
「レイドっ!」
「レイド君!」
途中で丁度良くアイシャ達とも合流し甲板へと向かえば、
「いたぞ! あそこだぁぁ!!」
甲板へ辿り着くと同時、船員の怒号が木霊する。
指差す方へと目を向ければ、そこには大きな水飛沫を上げて姿を現わした海竜が猛スピードで船へと迫っていた。
「シャギャァァァァァァッ!!!」
距離的にはまだそう近くは無い。
しかしその巨体から放たれる咆哮は圧倒的な力強さをもって俺達の耳に直撃する。
『ビンゴッ! 海竜よ海竜! あれをちょちょいとやっつければ、もれなく大商人あたりが釣れるわよ!』
海竜で大商人を釣るとは?
相変わらずエクレールの基準は良く分からん。
まぁ、倒した後に考えれば良いだろう。
「かなりデカいな」
「ええ、細長いですが十メートル近くありそうですね」
青みがかった銀色の流線的なフォルム。
それは太陽光を反射し、俺とミーアは思わず目を細める。
「とりあえず、俺が空から仕掛けてくるよ。ミーアは船に残って万一に備えてくれ。アイシャとメイもいざって時はフォローを頼む」
「無理はしないで下さいね?」
「もちろんだ」
「任せといてっ!」
心配そうなミーアに片手を上げて答えると、俺はエクレールの教えに従い、颯爽と宙を舞った。
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