34 私が捨てた過去
「「「ごちそうさまでした~っ!!!」」」
作り過ぎたと思った夕食もいつの間にやら女子三人の胃袋へ。
幸せそうな彼女たちの顔を見るのは、なかなかに嬉しいものがある。
『へっへっへっ、美少女三人を餌付けしてるみたいで悪くない気分だぜぇ』
『おい……。お前は急に何を言い出してんだ?』
『レイドの気持ちの代弁』
『あながち間違って無いから悔しいっ……』
冗談だけどな。
今後も機会があれば振る舞おう。
俺の料理で皆が喜んでくれるなら安いもんだ。
そんな事を考えながら、後片付けを全員で手際よく終わらせる。
それから食後の雑談も一頻り楽しんだところで、俺達は交代で睡眠をとる事にした。
「それじゃあ、すまないが先に休ませてもらうぞ」
「メイはレイド君と一緒が良かったなぁ~」
そんな言葉を残しつつ、簡易テントの中へと入って行くアイシャとメイ。
「ふふっ。すっかりメイちゃんに懐かれてますね?」
二人だけとなった静かな空間に響くミーアの声。
既に夜の帳は降り、光源となるのは目の前の焚火のみ。
「そうだな。でもどうしてあんなに懐いてくれるんだろう?」
懐かれてないよ、なんて謙遜はしない。
あれだけ懐いてくれるんだ、可愛い妹が出来たみたいで嬉しくもある。
まあ、その原因はいまだに分からず終いだけど。
「レイドさんは素敵ですからね。私やリリアさんみたいな人が何人いても不思議じゃないですよ?」
そんなサラッと素敵なんて言われると照れるんですけど?
ただ、メイに関してはきっとそんな風には思って言いない。
「いや……んー……そう言うのとはちょっと違う気がする」
どちらかと言えば兄に甘えたい妹の様な……。
少なくともメイがここまで懐くのは珍しい、とアイシャも驚いていたし何かしらの理由はあるのだろうが……考えても思い当たる節は全く無い。
「そう言えば、ずっとミーア聞きたかった事があるんだけど……」
考えても答えの出ないメイの件は横に置き、俺は兼ねてより気になっていた疑問を口にする。
「私にですか?」
唐突に水を向けられたミーアはきょとん顔で小首を傾げる。
「ああ、ミーア自身の事。強さの秘密とか、どうしてギルドで働いてたのか。俺はミーアの事何にも知らないからさ。もし良かったら聞かせて欲しいなって」
ずっと気になり続け、今まで聞くタイミングが無かった話。
「…………」
俺との視線を切る様にミーアは顔を俯ける。
あれ……これはひょっとして聞いちゃいけなかったやつ?……。
「あのっ……ごめん! 話したくないなら聞かないから! 全然無理強いする気は無いし! ごめんね、急に変な事聞いて……」
深入りし過ぎたのかもしれない。
誰にだって触れられたくない過去の一つや二つはあるはずだ。
ミーアから話してくれるまで待つべきだった……。
しかし、一度口に出した言葉を戻す事は叶わない。
そんな焦りと後悔に苛まれる俺を見て………………ミーアは小さく笑った。
「ふふっ。ごめんなさい。どこから話そうか考えていただけです。長いし何の面白みも無い話ですが聞いてくれますか? 私が捨てた過去の話を」
少し遠い目をしているミーアに俺は首肯のみで意思を示す。
ここから先、余計な言葉は邪魔にしかならないと判断したからだ。
「始まりは……もう五年近く前になります」
炎に照らされたミーアは、そう言って静かに語り始めた。
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