32 レイド様素敵ぃぃぃぃぃいい!!
早いものでヤマトへと移動を開始して五日目の夜。
毎日ミーアと同室で寝る事が当たり前になり、気を紛らわすため……ではなく少しでも強くなるために毎晩行うエクレールとの特訓も日常化してきた今日この頃。
『コントロールが甘いわね、もっとキュ~と絞ってバァッと出す! みたいな感じよ!』
流石大賢者様。
教え方もお上手でいらっしゃる。
何とも感覚的で大味な説明。
こんなんで理解できるのは余程の天才ぐらいだぞ?
少なくとも俺には全く理解できない。
『もう一度私がやるからしっかり体で覚えなさいっ』
「固定拘束っ!」
エクレールの意志によって俺の手から放たれるのは半透明の細長い魔力紐。
対嫉妬の魔人戦で使った拘束光帯の下位互換で、魔人の動きを止める程の出力は無いが人間相手なら十分に動きを封じる事の出来る拘束魔法。
回復魔法の精度をメインで上げつつも色々と魔法を教わっているが、元々サポート気質だった俺はこの拘束魔法の使い勝手の良さから二番目の魔法としてこれを選択していた。
そしてもちろん攻撃手段も増やしている。
だが、攻撃魔法は魔力コントロールが下手な俺では余剰に魔力を消費してしまう為、先に地味な回復や拘束の魔法を練習し、余った魔力でやりくりすのが最近の日課だ。
「悔しいけど流石のコントロールだな」
魔力紐はエクレールの意志に従い地を這うように高速で移動し木の幹に巻き付くと、拘束する圧力によって幹がミシミシと音を立てる。
「でもまぁ、エクレールの言いたい事は分かった気がするよ」
説明は分かり辛い反面、こうやって実際に俺の体を使ったエクレールの魔法行使では随分と助けられている。
恐らく説明だけではいつまでたっても感覚を掴むことは出来なかったであろう事象も、自分の体で経験してしまえば否が応にも体に染みつく。
『ある程度感覚が掴めたら、複数同時展開や時間差連続行使も意識的にやっていきましょうか。いつまでも基本ばかりじゃ飽きちゃうでしょうし』
それはまたハードルの高い……。
とは思いつつも、面白そうだと笑みを浮かべる自分もいた。
魔法の訓練は全く苦にならないどころか楽しさすら覚えている。
強くなっていく実感が日ごとに増していくからだ。
こうして魔法の練習をしつつ魔力を使い果たした俺は、そこから疲れた体に鞭を打ち近接戦闘訓練として仮想敵をイメージし白兵戦での動きを体に叩き込む。
エクレールいわく魔力の切れた魔法使いはお荷物。
辛辣な言葉だが、それは大賢者をして否定しようのない事実だとか。
俺は魔法使いを名乗るつもりは無いが魔力が切れても動ける体作りは必須との事で、敢えて魔力切れを起こしたふらつきそうな体を酷使して追加トレーニングも行っていた。
「そろそろ帰るか」
接近戦トレーニングで体を苛め抜きいよいよ疲れがピークに達した頃、それが特訓終了の時間でもある。
『今日も甲斐甲斐しくレイドの帰りを待ってるでしょうね』
「俺は寝てて欲しいよ……」
誰が、とは最早言うまでも無いだろう。
毎夜ミーアは可愛らしくもどこか艶っぽいパジャマに身を包み、どれだけ遅くなっても起きて待っていてくれる。
さらには俺が帰って風呂に入る間に宿の厨房を借りて夜食まで作ってくれるのだから頭が上がらない。
『着実に胃袋から掴もうとするあたり、あの子の本気度合いが伺えるわよね』
「言うな……」
それは痛い程分かってるし感謝もしてる……。
毎夜俺のベッドに潜り込み、起きれば隣でスヤスヤと寝息をたてるミーア。
最初こそ驚きはしたものの、何日も続けば少しは慣れる。
正直に言えば、その寝顔を見るのが楽しみになりつつあるのも確かだ。
『最早時間の問題か……』
そんなしんみり言うなよ?
俺だって必死に色んな感情と戦ってんだからさ。
六日目の朝。
「おはようメイ。珍しいな、一人か?」
宿屋の玄関口に一人ポツンと棒立ちのメイ。
そこにはいつも隣に居るはずのアイシャの姿が見当たらない。
「……ぉ……ょぅ……くぅー……」
うん、知ってたよ?
もう六日目だもん。
これまで一度たりとも寝起きの良いメイは見た事がない。
ある意味メイは平常運転だとしても、アイシャが居ないのは……、
「すまない、待たせてしまったかな?」
横から響く声に振り向けば、そこには大荷物を抱えたアイシャの姿があった。
「おはよう。今来たところだよ。それよりも、今日は野営の日だったな」
大きな荷物に目を走らせれば、それは野営用の道具だと一目でわかる。
確かに六日目は時短の為に徒歩での山越えと言っていたし、その為に準備してくれたのだろう。
「あぁ、迷惑を掛けるが今日は山中で一泊だ。一応不自由は無いよう準備は万全にしてある」
万全はありがたいのだが、その大きさから見てやや過重気味な気もする……。
まあ、俺が運べば特に問題でもないか。
「ありがとう。俺が運ぶから荷物をかしてくれ」
「いや、ありがたい申し入れだが客人にそんな事はさせられん。こう見えて拙者もそこそこ鍛えてはいるんだ、これぐらいの荷物なら一日二日余裕で運べるさ」
相変わらず律義と言うか遠慮深いと言うか。
これは口では無く見せた方が早いだろう。
「大丈夫、運ぶと言っても俺が持つわけじゃないから」
そう言って俺は少しだけ強引に荷物を引き取ると、瞬く間にその荷物は虚空へ消えていく。
「なっ!? 収納魔法か!?」
アイシャは目を見開き、その驚きを露わにする。
「そう、だから誰も苦労する必要なんてないんだよ」
俺は元々宿屋暮らしの冒険者で私物と呼べるものはほぼ無いに等しかったが、ミーアがついてくると言った時、ミーアの私物を手あたり次第入れていたりもする。
『キャー! 私の魔法でイキッてるレイド様素敵ぃぃぃぃぃいい!!』
『イキッてないし! 良かれと思ってやっただけだから!』
急に茶々入れやがって……。
まぁ、エクレールの魔法なのは紛れもない事実なんだけど。
ただ、不思議な事に収納魔法に関してはアイテムの出し入れ含め、俺は俺の意志で簡単に発動出来るようになっていた。
エクレールの言う魔法の得意不得意の中で、なぜか収納魔法は得意分野だったようだ。
「収納魔法ならば……すまない、恩に着る」
「気にすんな、それよりもそろそろ行こうか」
大袈裟に頭を下げるアイシャに軽い返事を返し、メイの手を取る。
なぜだか知らないが、こいつは俺が手を引かなければ歩かない。
今までは強引にアイシャが引きずっていたらしいが、俺達と旅を始めてからは頑としてアイシャでは動かなくなってしまったらしい。
懐かれるのは嬉しいんだけど……これはこれでどうなんだとも思う。
「途中までは変わらず馬車で、昼過ぎにつく山の麓からが歩きだな」
アイシャの言葉に頷きを返し、俺達は早朝の静かな村を後にする。
こうして、俺達の移動六日目が始まった。
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