30 side勇者 ~リリアの憂鬱と崩壊計画 その7~
※リリア視点のお話になります
さて、ここからは領主に真実を語るだけの簡単なお仕事です。
「ギルドや住民から伺った話では魔人討伐を成したのはソロ冒険者のレイドと元ギルド受付嬢のミーアさんのお二人の功績と聞いております。我々勇者パーティーはその時間ダンジョンに潜っていたのですが……」
「だぁーーー!! そ、そうです、その冒険者は元々勇者パーティーに在籍していたもので、それにギルドの受付も私の指導のもと魔人討伐にあたったのであります! 今日来れなかったのは残念ですが、二人にも然るべき報酬を考えておりますです、はいぃ……」
わたしの言葉尻を遮り言い訳になっていない言い訳を並べだしたギルマス、
「た、確かに二人とも魔人相手に善戦はしてくれましたが……瀕死の二人を救ったのはこの勇者である僕です! 二人のピンチに駆け付け、暴れ狂う魔人にとどめを刺したんです!」
勢いに便乗するように即席で創作を語る生ゴミ。
善戦していたのに瀕死のピンチだったんですか?
相変わらず勇者(笑)の思考は凡人には理解出来ないですね。
スカスカの頭では垂れ流す妄想もすらも支離滅裂の様です。
本当に煩わしいですが、この程度の言い訳は予想していました。
なのでわたしは淡々と事実を述べるだけです。
「まあ! そんな事があったんですね!
でもおかしいですね……魔人が討たれたのは夕方頃、わたし達が街に戻って来たのは夜も遅くです……ギジルは一体何と戦ったのでしょうか?
それにギルド職員からは前線で指揮をとったのもミーアさんでギルドマスターはいの一番に逃げ出したと聞いていますが?」
「そそそそ、それは誤解だ! 私は迫り来る恐怖から市民を守るために席を外していただけだ!」
必死の形相で弁明に走るジャフアの滑稽なこと。
なかなか良い表情するじゃないですか。
その滑稽な程の焦りがわたしのストレス発散に程よい刺激を与えてきますね。
「なるほど、ギルドマスターとして魔人討伐には参加せず一人だけ身を隠して気持ちだけは市民を守っていた、と? これは改めてギルド職員と住民の方々にもお伺いした方が良さそうですね」
「あ、いや……だから、そうではなくて……」
尻すぼみに勢いを無くすジャフア。
これでこいつの発言は何の説得力も無くなりました。
「ギジルも、とどめを刺したとの事ですが誰と戦ったんですか? 我々が街に戻った時、既にレイドとミーアさんによって事態は収拾していましたよね?」
そもそもてめぇは脳筋ビッチと一緒に風呂に入るとか言ってさっさと宿に帰っただろうが。
「う……くっ……そ、そうだ! 実は魔人は生きていたんだよ! それを発見した僕がとどめを刺したのさ!」
この期に及んで次から次へとよくもまぁ……。
嘘で嘘を塗り固める典型ですね。
ま、その嘘が通じるかどうかは相手次第ですが、少なくともわたしには欠片も通じませんよ?
「あれれ? おかしいですね? さっきと言ってる事が違いませんか? レイドとミーアさんの窮地を救ったのは何だったんですか? あ、ご本人たちに聞いた方が良いですか?」
「い、いや! それは……待ってくれ。そ、そんな事よりもリリア、君はいったいどっちの味方なんだい?」
てめぇの味方なわけ無いだろ。
急に何言いだしてんだよこのボンクラが。
そんな事で話を逸らせるとでも思ったか? あん?
「どっちの味方、とはなんでしょうか? わたしはありのままの真実を領主様にお伝えしたいだけです。どうやらどこかの誰かが、真実を捻じ曲げた報告をしてらっしゃるようでしたので。勇者パーティーの一員として虚偽の報告が見過ごせないだけですよ」
「「…………」」
絶句するギジルとギルドマスター。
二人は途端に尋常でない程の汗を流し始めると、互いに目線を合わせ無言で責任の押し付け合いをしているようです。
でも、もう遅いと思いますよ?
「ふむ……これは一度真実を追求した方が良さそうだな。一旦褒美は取り消そう。私としては勇者とギルドマスターから上がって来た報告だ、偽証は無いと信じているが……もし嘘偽りがあった時は……」
「「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ……!!!」」
眼光だけで射殺すような気迫の領主に身を寄せ合い奇声を放つ二人の愚図。
あああぁっ!
それですよそれ!!
私が見下したかったのはそのマヌケ面です!!!
ゴミ共の絶望に染まり行く顔……なかなかどうして快感を覚えます。
これはクセになってしまいそうですね。
「ふふっ」
おっと、つい口元が緩んでしまいました。
哀れ欲深き者たち。
この哀れな悲鳴を聞けたことですし、今回は溜飲を下げてあげましょう。
後の事は領主の調査団に任せるとしますか。
ふふふっ。
楽しみですね、再調査の報告書。
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