27 side勇者 ~リリアの憂鬱と崩壊計画 その4~
※リリア視点のお話になります
「ふんっ、その程度の実力で勇者パーティーの一員を名乗るなど烏滸がましいにも程があります。雑魚はいりません。二人とも荷物をまとめて出て行きなさいっ!」
宿屋の一室で行われる臨時の勇者パーティー会議。
そこで怒声を発したのは他ならぬこのわたし、リリアです。
眼光鋭く威圧するわたしの姿は、傍から見れば酷いものでしょう。
自分で見る事は叶いませんが、醜悪に歪んだ顔のおまけつきです。
生ゴミがレイドに対して行った凄惨な仕打ち。
それをわたし自身が行うなんて、胸が張り裂けそうなほど辛く苦しいです。
ですが……。
誰に何を思われようとも、この追放だけはやめられません。
「そ、そんな……。まだ、まだ頑張れます! だからもう暫らく置いてください!」
そう言って必死に頭を下げるのは駆け出し冒険者の少年ナユタ君。
純朴で人の良さそうな彼は頑張り屋さんで人一倍優しい子。
どことなくレイドに似た雰囲気を持っています。
「わ、私もまだ頑張れます! ど、どうかもう少しだけチャンスを下さい!」
ナユタ君同様、必死に頭を下げるこの子はミホノちゃん。
彼女はナユタ君とは双子の兄妹で、透き通る様な白い肌と長い手足、クリっとした目のまるでお人形さんの様な美少女です。
その上回復術師と言うどんなパーティーでも欲しがる最高の逸材。
そんな二人だからこそ、わたしは心を鬼にして追放を言い渡します。
「言い訳はいらないわ。凡人に構っている暇は無いの。さっさと消えて頂戴」
無慈悲に追い打ちを掛けるわたしの冷徹な態度と剣幕。
入ってまだ三日目の新人二人は有無を言わさぬわたしの迫力に気圧され、項垂れながらおとなしく部屋を出ていきました。
その瞬間、項垂れる姿がレイドと重なり心臓を握り潰されるかの様な痛みに襲われましたが、ここは涙を飲んで我慢する時です。
彼らには未来がある。
だからこそこんなところに居てはいけない。
ナユタ君は率先して雑用もこなすとても良い子。
戦力的にはまだまだですが十分に伸びしろもある。
ただ、このままここにいれば必ず潰れます。
ギジルはナユタ君の事を使い捨ての雑用としか考えていません。
そしてミホノちゃんは言うまでも無く、手籠めにしたいがためにパーティーに入れただけです。
本来であれば引く手あまたの回復魔法でさえ、やつにとってはオマケの様なもの。
ここ数日はミホノちゃんを見るたびに下衆な嗤いを浮かべるギジルの顔がとにかく気持ち悪くて堪りませんでした。
「女帝怖ぇぇ……」
もう一人の新人、カヤックがわたしを見て身を震わせます。
こいつは自称狩人のお調子者。
ただのお調子者なら追い出しても良かったのですが、どうやら元は盗賊のようでギジルとつるみ何やらこそこそ動いてるようでしたので追放はしていません。
正義を気取るつもりはありませんが子悪党を野放しにするのも気が引けますからね、勇者(笑)と一緒に潰してしまいましょう。
「何か言いたい事でも?」
冷たく言い放つわたしの言葉に一斉に首を横に振る五人。
そう、今しがたナユタ君とミホノちゃんを追い出しましたが、それでもわたし以外で五人もいます。
あろうことかクソ勇者は前回のダンジョン探索からの反省は何もせず、全てを金で解決、すなわち人員補充だけで賄う事にしました。
一応は勇者パーティー、募集を掛ければ人は集まります。
数多の応募の中、偉そうにギジルが選んだのは五人。
一人目はこの街に来たばかりの聖女エリナ。
聖職者の修行の一環として世間を見て回る旅の途中との事でしたが、半ば無理矢理ギジルが連れてきた子になります。
この子は秒で追い出しました。
ギジルに醜悪過ぎる下卑た視線を向けられても無反応。
あまりにも純粋無垢で穢れを知らない彼女にここは危険すぎました。
二人目と三人目がナユタ君とミホノちゃん。
聖女エリナを秒で追い出した手前、連続で追放するわけにもいかず三日も人生の時間を無駄にさせてしまったのは反省しかありません。
しかも、下手にわたし以外と仲良くなられても困るのでこの三日間は付きっきりでこき使い、罵声を浴びせるはめにもなりました……。
いくら理由あって追い出すためとは言え、彼らには本当に悪い事をしたと思います。
おかげで誰も彼らに近づきはしませんでしたが、陰口で女帝と呼ばれる始末。
まるでわたしがお局様みたいじゃないですか!
まったく、誰のせいでこんな嫌な役目やってると思ってるんですかね。
四人目がカヤック。
自称狩人の小悪党。
生ゴミの金魚の糞。
そして五人目……、
「ギジル様ぁ~女帝が怖いですぅ~」
気色の悪い猫なで声で甘える様にギジルに擦り寄るのは、弓使いのロシェ。
小麦色に焼けた肌と二つの脂肪の塊をこれでもかとさらけ出し、わたしの事を女帝と呼び始めた厚化粧のクソ女です。
何が腹立つって、コレがレイドを追放する時に言っていた追加メンバーだと言うのだから笑えません。
しかし、いくらいけ好かないとは言っても人生の時間を無為にするのも可哀そうなので最初は追い出すつもりでいました。
でも……。
この女はわたしを見るなり……
わたしの胸を見るなり鼻で笑いやがりましたからねっ!
ちょっと自分が大きいからってわたしの胸を……!
くやじぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!
悔しい!
悔しい!!
悔しい!!!
わたしだってレイドがいればもう少しは……!
きっと奥手なレイドでもわたしから誘えば喜んでのってたきはずです。
そうなればあんな下品な脂肪の塊よりも綺麗で大きくなるのは目に見えています。
問題は肝心のレイドがいない事ですが……。
こんな事ならさっさと既成事実を作っておけば良かったです。
失敗しましたね……。
しかも、既成事実さえあればレイドは絶対一緒に来いと言ってくれたはず。
待ちに徹した乙女心が仇となりました……。
あぁもうっ!
わたしはいつでも準備出来てたのに!
レイドのバカ! 意気地なし!!
………………少し話がそれましたね。
なので、売られた喧嘩は買おうと思います。
そもそもこいつは、表向き人の役に立ちたいと当たり障りの無い事を言ってましたが、実際の目的は勇者の権益です。
妻の座にでも居座り甘い汁を吸いたいのでしょう、勇者パーティーに自分以外の女はいらないから出て行けと半ば脅しの様に言ってきましたからね。
それならどうぞ勇者(笑)と連れ添ってください。
わたしは遠慮せずに潰しますからね?
あ、でも。こんなやつですが一つだけ感謝する事はありました。
聖女エリナやミホノちゃんを上手く追放出来たのはこいつのおかげでもあります。
わたしは彼女たちの将来の為に追放したい。
メス豚は自分以外の女はいらない。
ある意味では利害の一致。
恐らくわたし一人で追放しようとしてもギジルが口を挿んで来たでしょう。
しかし、メス豚の誘惑染みた圧力によって、ギジルの意識を逸らす事が出来ました。
あの無駄な脂肪の塊が唯一役に立った瞬間です。
……もう必要無さそうですし、事故を装い捻じ切ってやろうかと思っています。
とまぁ、そんなこんなで現在は六人と数が増えました。
生ゴミ、無能ゴリラ、脳筋ビッチ、小悪党、メス豚。
数は増えても質がゴミクズなのは変わりませんね。
顔を見るだけでストレスの溜まる素敵なメンバーが勢ぞろい! ……っと。
いけない、こんな無駄な事を考えてる暇は無いのでした。
「少し所要があるので外しますね。午後の褒賞式までには戻りますから」
そう言ってわたしはクズ集団に一瞥もくれる事無く部屋を後にします。
まだ近くにいるとは思いますが……。
わたしは宿屋を出ると大急ぎで彼等を探します。
追放の仕上げ、これがまだ終わっていません。
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