25 ぐっぬぃ
『エクレール、ひょっとして転移魔法とか使えたりしない?』
『……君は私を二十二世紀からきたロボットか何かと思っているのかしら?』
?
『なんだよ? ニジュウニセイキロボットって?』
『いえ、こっちの話よ。結果を言えば私の体であれば使えるわ。ただレイドの体じゃ魔力不足で大した距離は見込めないのが実情ね』
……やはりそう甘くはないか。
『まあ、嫉妬の魔人との戦いで魔力を限界まで使ったしレイドの魔力量も少しは上がっているわ。毎日魔力を空にして器を広げればいつか使える様になるかもね』
そういえばリリアも寝る前は魔力を使い切る為に、目眩まし用の瞬間発光魔法「閃光」を連発してると聞いた事があるな。
『なるほど、当面は魔力の底上げを頑張るよ』
『良い心がけね。どんな立派な魔術師でも通る道よ。精進することね』
『ちなみにエクレールが使える魔法は魔力さえあれば俺も使えるって事でいいんだよな?』
『そうね、一度は私が使ってみせるからそれで感覚を覚えるといいわ。何度も行使すれば使いこなせるようになるはずよ』
よしっ!
期待していた通りだ!
自分の意志で発動出来るようになれば戦闘時の手数や瞬間的な判断でより多くの選択肢から最善手を選ぶ事も可能になる。
毎回事ある毎にエクレールに相談している余裕もないし、俄然モチベーションは上がってきた。
「れいどくーん?」
っ!?
ふと気づけば、メイが俺の顔前で手をヒラヒラと振っている。
しまった……自分の殻に閉じこもり過ぎた様だ。
「あ、あぁ……ごめん、ちょっと考え事してた」
「考えごとー?」
「うん、足手まといにならない様に修行しなきゃなって」
魔法の訓練なんて当然今までしたことは無い。
だからだろうか、今はそれが楽しみで少し舞い上がりそうだ。
「なんとっ! 魔人と戦える実力がありながら驕る事無く鍛錬を重ねるその気概……! 心より敬服いたす」
…………。
やめろぉぉ!
そんなキラキラした目で俺を見るなアイシャ!
仰々しく敬われてもすごいのは大賢者だから!
エクレールが増やした金で装備を整えて、エクレールの魔法で戦っただけなの……。
あれ? そう考えると俺ってひょっとして何もしてない?
どころか嫉妬の魔人を呼び寄せた諸悪の根源以外の何物でもないんじゃ……。
幸いとあの戦いで死者が出なかったのが救いか……。
魔人の影響で被害が出た人や施設へは匿名の寄付と言う形でそれなりの身銭は切ってるし……ギリギリマッチポンプの解消は出来てるはずだ。
まあ、その寄付の出どころもエクレールの勝ち分からなのだが……。
『エクレール……あんたってマジですごいんだな……』
『な、なによ急に改まって。最初から言ってるじゃない! でもまぁ、悪い気はしないから今日教える魔法は大賢者特製のスペシャルなやつにしてあげるわ!!』
『おぉ……そりゃどうも……』
予期せずご機嫌となったエクレール。
素直な気持ちを言葉にするって大切なんだな。
っと、それよりも尊敬の眼差しを向けて来るアイシャ……だけじゃなくてメイもミーアも増えてる……。
これは早いとこ誤解を解かなければ期待が過剰になりそうで怖い。
なまじ魔人との戦闘を見られている分、ハードルの高さは一般人の比では無いだろう。
「誤解されても困るんだが、俺の実力自体は大したことないぞ?」
一瞬、エクレールの事を三人に話そうかとも思ったが……
〖俺、実は頭の中に救国の英雄大賢者エクレール・アドルノートがいるんだ!〗
なんて言ったところで普通は信じられないよなぁ……。
むしろ頭がおかしくなったのかと心配されそうだ。
今でこそ身をもってこんな奇跡みたいなことがあると知った俺だが、もし何も知らなければ妄言にしか聞こえないし、無言でそっと心の距離を置く自信がある。
仮に魔法を使って見せたとしても、魔法の使える頭のおかしい奴、にしかならないだろう……。
「レイド、それは些か謙遜し過ぎだ。魔人とあれ程戦える人間が大した事が無いのであれば、拙者達の立つ瀬がない」
案の定魔人を比較対象に持ってきたアイシャ。
エクレールの完全サポートで戦った身としては心が痛い。
これからは少しでも自力を上げるために精進しなきゃな。
「そうですよ! レイドさんは強くて格好良くて素敵です! そんなに自分を卑下する必要ありません!」
ミーア……。
単純な励ましかと思えばそうでもないらしい。
恐らく彼女は俺が勇者パーティーから追放された事も含め、自信を持てと言ってくれているのだろう。
その瞳には悔しさと憤りが確かに存在している。
「レイド君つよい~すてき~」
メイ……こいつは着々とオチ担当の座を確立しつつあるな……。
ミーアに抱き着いて離れたかと思えば、またしても俺の膝で寝ようとして……寝た。
「皆の期待を裏切らないように頑張るよ」
今俺から返せるのはこれが精一杯。
口先だけにならないよう自分を鍛えぬこう、俺は密かにそう決意した。
「おしりがいたーいっ!」
馬車から降りたメイの第一声。
朝のローテンションとは打って変わって元気いっぱい叫んでいる。
夜行性にもほどがあるだろ……。
既に太陽は沈み夜の帳は下りている。
早朝から移動を開始した俺達はようやく宿泊予定の村へと到着したところだ。
「流石に慣れない馬車での長時間移動は疲れるな」
「ふふっ。肩でもお揉みしましょうか?」
メイに同調するかのように自然と口から出た感想だったが、怪しく目を光らせたミーアがそっと俺の肩に手を置き囁くように吐息を漏らす。
「……遠慮しておきます」
なぜだろう?
一瞬、狩人に狙われたウサギの気持ちになってしまった……。
気のせいだと思いたい。
「今日は慣れない移動で疲れただろう。宿をとって解散としよう」
アイシャの言葉に全員が頷くと、宿屋へ向けて歩き出す。
「ここだ」
元々さして大きくも無い村。
時間的にも閑散とした通りを進んでいけば、目当ての宿屋はすぐ近くにあった。
「部屋は拙者がとって来る。レイド達は客人だ、旅費はこちらで払わせてもらおう」
「いや、そこまで面倒「いいからいいから、こっちがお願いして来て貰ってるんだし、これぐらいしなきゃお父様に怒られちゃうの!」……そう、なのか?」
俺を遮るメイの「お父様」なる言葉に思わず尻込みしてしまう。
そもそも客人のつもりはないのだが、こうもキッパリ言われると俺が間違っている気もしてくる。
「あぁ、拙者達を立ててくれるとありがたい」
引く様子の無いアイシャ。
そこまで言ってくれるのであれば否は無い。
「わかった。ありがたくお世話になるよ」
そんなやり取りもありつつ、アイシャ達に甘える事にした訳だが……
「これがレイド達の部屋の鍵だ」
そう言ってアイシャは銅製の鍵を手渡してきた。
「達?」
「ああ、レイドとミーアは同じ部屋の方が良のだろう? 二人は恋仲だと思っていたのだが?」
さも当然のように言ってのけるアイシャだが、それは違う。
断じて違う。
「いやっ、それは「えへへ、ありがとうございますアイシャさん。ほら、レイドさん行きますよ? まさか宿代を出して頂いているのに一人部屋なんて贅沢言わないですよね?」……ぐっぬぃ……」
それはズルくないですか?
そんな事言われたら何も言えなくなるじゃないか!
今日こそは……。
今日こそは一人だと思ってたのに……!!
「さぁ、行きましょう」
再び怪しく目を光らせたミーアに手を引かれ、俺は地獄の底へと足を踏み入れる。
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