23 あれれ? おかしいぞぉ?
治せるの?
治せるって言ったよねこの子!?
「メイさ……」
事の真偽を確かめようと俺が口を開くよりも早く、
「呪いの解除、出来るんですか!?」
一体いつの間に移動してきたのかミーアがものすごい形相でメイさんに詰め寄っていた。
「うん、巫女のサクラちゃんに頼めば出来るよ。ね、お姉ちゃん」
「不躾な妹ですまない。だがメイの言う通り呪いの類であれば我らが故郷に御座す巫女の得意とすることろ。勇者レイド殿の力になれるやもしれない」
「っ! レイドさん!」
アイシャさんの言葉に喜色を浮かべるミーア。
その顔は自分事の様に本心から喜んでいるのが分かる。
予想外の展開だが俺としても聖女に当てがあったわけではない。
それがここに来ていきなり巫女の登場だ。
これも【運命の導き】の影響なのだろうか?
『良いんじゃない? 彼女達の風貌を見るに故郷は極東の島ヤマト。恐らく巫女は白江の血を引く者。遠い所で候補には入れて無かったけど、巫女なら聖女同様呪いも解けるだろうし、極東の人間は無駄に義理人情に厚いから信用して良いと思うわ』
ふむ……。
エクレールがそこまで言うなら信用しても大丈夫そうだが……、
『シロエの血ってなんだ?』
『白江 渚、昔の友達よ。バカまじめで一途で……ってそんな事は今は関係無いわ。あの子たちが待ってるわよ、さっさと決断しなさい』
ビッチ聖女以外に友だちいたんだ?
その友達とやらもエクレール相手にさぞ迷惑したんだろうなぁ……。
そんな少しズレた思考を戻し、俺は気になっていたことを口にする。
「いくつか確認させてくれ。まずミーア」
「はい?」
矛先が自分に来るとは思っていなかったのだろう、少し驚いた様子で小首を傾げている。
「さっき言ってた、私達はここを離れる、あれはどう言う意味だ?」
「そのままの意味ですよ? 私達はレイドさんの呪い解除のためにこの街を出ますよね?」
いや、さも当たり前の様に、出ますよね? と言われても……。
「ミーア仕事は? 今日だってギルドに行ったよね?」
「あ、それなら大丈夫ですよ! もう辞表は出してきましたから!」
はい?
そんなさも当然の様に言われましても……。
「……えぇーと、ミーアは仕事を辞めて俺についてくる?」
「もちろんです! もう離れないって言ったじゃないですか!」
え?
「そんなこと言った!?」
「むぅー。言わなくても分かってくださいっ!」
頬を膨らましての怒ってますアピール。
可愛いけどっ!
可愛いけどそんなこと言わなくてもわかれとか無理ですから!
「もう決めた事です。それともレイドさんは無職の女を放り出すんですか?」
「いや……そんな事はしないけど……」
何もかもが急展開すぎる。
ミーアの人柄は言わずもがな完璧超人と呼べる程に素敵な女性だ。
その上戦力的に見ても破格の強さを誇る。
人間的にも戦力的にも問題どころか文句の付けようもない、が……
問題は、俺に対する好意。
何とも贅沢な悩みだが、昨夜の様な生殺しの目にまたあうかと思うと……
無理だ……。
絶対無理だ……。
耐えられるわけがない。
呪いを解いたら二人で田舎に引っ越そう。
冒険者をやめて慎ましくとも温かい家庭を築くんだ。
子供は沢山欲しいな。
笑顔の絶えない幸せな生活を……
って軽く妄想できるぐらいには惹かれちゃってんだよぉぉぉ……
我ながら単純童貞思考だとは思うよ?
でも実際単純童貞なんだから仕方ない。
「ふむ、ミーア殿がレイド殿についてくるのであれば拙者達としてもありがたい。戦力は多いに越した事は無いしな。してレイド殿、その呪いは拙者達が責任をもって解除すると約束しよう。その代わりと言っては何だが、私達の手助けをして欲しい」
俺には葛藤する暇も無いのかよ……。
綺麗に話をまとめたアイシャさんは言葉と同時に深く頭を下げる。
そして続くようにメイさんも「おーねがいっ!」と言って腰を折る……この子はブレないなぁ。
はぁ……。
人助けして呪いが解けるなら良い事づくめだ。
ミーアの事は…………考えても仕方ない。
と言うかギルドまで辞めて来たのだ、俺が何を言っても変わらないだろう。
「わかった、手伝わせてもらうよ。これからよろしくな」
アイシャさん、続いてメイさんと握手を交わす。
なぜかミーアも「私もしたいです……」と頬を赤らめ言って来たので、これから共に旅する仲間として握手を交わしたのだが、不思議な事に握った手が離れない。
あれれ? おかしいぞぉ?
がっちりホールドされてらぁ。
「恩に着る。では出発は明日の早朝。些か急ではあるが拙者達としても故郷が心配故に理解願いたいのだが……問題無いだろうか?」
「ああ、俺は問題無いけど……」
視線だけをミーアへ向ける。
ギルドを辞めてすぐに旅立つのは流石に準備も何も整っていないだろうと思ったのだが……、
「はい、私も大丈夫ですよ」
あっさりと首を縦に振る。
大丈夫なのだろうか?
「それは良かった。では明日からよろしく頼む。」
明日の朝は早く細かい話は移動中にでも、となった俺達はそのまま解散となる。
俺はアイシャさんとメイさんに手を振り別れを告げると、今だ握った手を離さないミーアへと視線を向ける。
「そろそろ離してくれないか?」
「いいじゃないですか。このまま一緒に帰りましょう」
そんなルンルン気分でお散歩みたいな感じを出されても困るんですが……。
「いや、今日はそこの宿屋に泊まるから」
俺はきっぱりと宣言する。
流石に今日は無理。
もうほんと、後生だから一人にしてっ!
「そうなんですか?」
驚きを見せるミーアだが、思いの外食い下がっては来なかった。
良かった……。
これで一人の時間が確保できる!!
「ああ、だからミーアも帰って「私、この街の宿屋に泊まるのは初めてです」……へ?」
泊まるのが初めて?
泊まるの?
宿屋に?
「さ、行きましょう」
そう言ってグイグイと俺を引っ張り宿屋へと向かうミーア。
「ちょ、ちょっと待って! ミーアには自分の家があるだろう? それに明日立つ事になったけど、準備とかしなくて良いのか? 家はどうするんだよ?」
「大丈夫ですよ。あそこはそもそもギルドの寮なのですぐに別の子が入ります。旅の準備もちゃんとしてあるので明日の朝装備を整えにちょっと戻ればバッチリです!」
うわぁ……。
そこまで準備万端だとちょっと怖い……。
「そもそもギルドには止められなかったのか? 急に辞めるってのも引継ぎやらありそうなもんだが?」
何の気なしに聞いた俺だったが、途端にミーアの纏う雰囲気に闇が帯びる。
「いいんですよ、三日前には出しましたし。だいたいあの能無し……ギルマスは魔人が攻めてきた時いの一番に逃げ出したんですよ、住民をそっちのけで。しかも私とレイドさんが倒したのを良い事に戻るなり我がギルドの功績だ、とか何とか言い出す始末。事後処理も全部受付に投げるし、領主の前ではさも自分が倒したかのような振る舞いだったそうです。ただでさえあの気持ちの悪い勇者と結託してレイドさんを追放するようなクズが頭の組織です、辞めるなと言われても私の意志は微塵も動きません。もちろん同僚に迷惑はかけれませんので、しっかりとやるべきことはやってきましたよ」
「そ、そうですか……」
俺が知らないだけでミーアも色々大変だったんだな……。
言葉の多さがそのままストレス値に直結してるようだ。
元を正せば嫉妬の魔人は俺の中の暴食の魔人の様子を見るために来たと言っていたし、ミーアには色々と迷惑を掛けてしまった。
「ミーア」
「何ですか?」
「少し遅くなったけど、色々と迷惑を掛けてすまない。そして本当にありがとう、ミーアが居てくれたから俺は今ここにいられる」
ずっと言えて無かったお礼。
アイシャさんとメイさんも命の恩人ではあるが、ミーアがそれ以上なのは言うまでもない。
「ふふっ。私は自分の意志で動いただけです。お礼を言われるような事は何も。ただ……」
「ただ?」
珍しく含みを持たせるミーアに俺はオウム返しで問い掛ける。
「久しぶりの戦いや事務処理に追われて疲れているのは確かです……なのでレイドさんに癒して欲しいなぁ、と」
月明りに照らされたミーアの魔性を帯びた笑み。
結局、引きずられるままミーアの家に戻ったのは言うまでもないだろう。
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